どうもです!
経済産業省が提唱する、「社会人基礎力」の12の能力要素のうち、、前回に引き続き「課題発見力」をテーマに解説します。
「取り組むべき課題を見つけられない」、「指示待ちになりがち」そんな悩みを抱えたことはありませんか?本記事はそんなお悩みを解決するヒントを提供することを目指しています!
前回は「課題発見力」を4つのステップ(「問題の兆しを見つける」→「情報を整理する」→「あるべき姿を考える」→「課題を明確にする」}に分け、前半2つを解説しました。
今回は後半の「あるべき姿を考える」と「課題を明確にする」をテーマに掘り下げていきます!
では本題に入りましょう!
課題発見力を鍛える方法、実践するために
あるべき姿を考える力:目標設定力
課題とは、理想と現実のギャップです。そのため、目の前の情報を分析するのみでは不十分で、社会のニーズを考え、どのようにあるべきか理想の姿を考える能力も必要となります。
2種類の課題
課題というのはマイナス状態から通常状態に復旧するという類のもののみではありません。未来や環境変化を見据えて現状や停滞を打破するための前向きで未来志向の課題も存在します。
2種類のうち、前者はクレームや改善要求から見つけやすいです。一方で未来志向の課題は、アンテナを貼りあるべき姿を自ら見つけ出さないと設定ができず、得意な人とそうでない人の差が大きく開きます。
そのため、現状に満足せず、未来に向けて青写真を描くステップでこそ課題発見力がより求められると言えるでしょう。

あるべき姿を考える力:理想の状態を描く
あるべき姿を考える力は、難易度が異なるものの上記の両方の課題にとって大事な力となります。
前者のマイナス状態を解決する課題においても、現状のあるべき姿(現状の理論値)が無ければ、何が解消すべき課題であるかの特定が難しくなります。また、解決段階に至った際も具体的な目標設定がなければ、どの施策を進めればいいかの判断が困難になります。
現状のあるべき姿(目標の状況:売り上げや利益率、必要工数、教育環境、離職率等)を明確に設定できれば、なぜそれが課題であるかという根拠と解決した際の影響に関する説得力が増します。
あるべき姿を描くためには、プロジェクトや業務の理想の状態を明文化する習慣が必要です。その上で前回取り扱った見える化、特に数値化が非常に重要となります。

理想の状態が曖昧だと、課題を解決する必要性を感じにくく、解決へのモチベーションも湧きづらくなります。
未来志向の課題設定には、『環境変化への適応』と『付加価値を生む方法』の2つの視点が更に必要になります。
時代の変化を捉え、社会のニーズを考える
どちらの視点にも共通するのは長期的な視点を持つことです。目の前の課題のみに取り組んでいては未来志向のあるべき姿を描けません。目線を上げ、変化やトレンドを鑑みて長期的な視点で課題を設定する力が必要となります。
長期的な視点を鍛える上では、未来を起点に考えるバックキャスティング思考が有効です。
まずは、5年後・10年後の社会がどう変化しているかを考えることが出発点になります。その上で、どのような付加価値を顧客に与えるか、どんなことが技術的に可能になるか、どんな変化に適応が必要でその先の姿はどうなっているかといった、未来の理想状態を設定し、そこから逆算することでどのような課題が存在するかを見つけやすくなります。
未来の姿を考える上では、PEST分析(政治・経済・社会・技術)の活用や、未来予測レポートやトレンド、業界情報を定期的にチェックする習慣が重要であり、得られた情報が自身の活動や成果にどのように影響する可能性があるかを考えるアプローチが役立ちます。

バックキャスティング思考は、自分の人生やキャリアの上でどのようなスキルや取り組みが必要かを考える上でも非常に便利です。
環境変化への適応をするには、上記の長期的な視点に加え、思考と行動の両方で柔軟性が必要となります。具体的なポイントとしては下記があげられます。
- 継続的に学ぶ姿勢
変化にはその兆しを見つける上でも、適応するためのアイディアを得るにも情報が必要です。情報が固定化してしまうと、固定概念にとらわれてしまいアップデートできなくなってしまいます。謙虚に新しいことを学び続ける姿勢が大事になります。 - 変化の兆しを察知し、仮説を立てる
市場動向・技術革新・消費者行動の変化を観察し、その変化から生まれる影響や未来のニーズを考えることで、適応すべき変化を早めに特定して取り組むことが可能となります。 - 成功パターンに依存しない
変化に適応し続けるには、現在の取り組みがうまくいかなくなってから対応しては間に合いません。成功パターンに依存せず、新たな取り組みへの試行錯誤を生み出す行動目標の設定や環境作りが重要になります。 - 変化を好ましい機会と捉える
変化は未知のものを増やすので、恐怖を感じる人も少なくありません。この恐怖による抵抗が変化の障壁となります。そこで変化をリスクではなく、新しい可能性と認識するマインドセットや環境作りが適応力を上げる上で有効となります。
次に新たな付加価値を生み出すという視点に移ると、異業種のアイデアや最新技術を自分の活動や組織と組み合わせたときに、顧客や社会ににどのような価値を提供できるかを考えることが有効です。
その上で、アイディアや技術をそのまま組み合わせるのみでなく、なぜそれが成功したか、有用かという抽象的な要素に分解することでアイディアの柔軟性が上がり、自身や組織との調和を生むかつ斬新な発想も生まれやすくなります。
また、トレンドをフォローするだけではなく、次のトレンドを創出するという視点も重要です。その上では、社会のニーズがどこにあるか、創出した価値により社会や顧客はどう変わるのかというニーズや価値を先取りする姿勢が大事となります。

社会のニーズを先取りするにはSNSで悩みに関する投稿数を調査するアプローチがありますし、リクルートなど幅広いサービスを提供する企業が、どのような悩みを解決し付加価値を生んでいるかを分析すると参考になります。
上記を考える上では今後紹介する創造力と、それに伴う柔軟な発想力も必要になります。例えば、「もし、予算を無視できるなら」、「現代で0から始めるならどう取り組むか?」といった制約条件や固定概念を取っ払う問いかけを挟むことも後押しとなります。
また、その後に考えたあるべき姿が自身や所属する組織の優位性や強みを活かせるか、ビジョンから反れていないかという精査をすることも現実性や勝機を高める上で重要です。
課題を明確にする:課題設定力
課題の情報が集まってきたら、課題を明確にするステップに移ります。課題が明確でないと、取り組むべき課題の選択や、何に取り組めばいいかの目標設定が困難となります。
課題の明確化は実際に問題解決へ踏み出すためにも重要なステップとなります。
仮説思考
仮説思考とは
候補となる課題から情報を整理するのに役立つのが仮説思考です。仮説思考とは、限られた情報の中で「仮説(仮の答え)」を立て、それを検証しながら素早く意思決定や問題解決を行う思考法 です。
VUCAと呼ばれるあらゆる物事が激しく変化し、複雑かつ曖昧な状態が続き将来の予測が難しい現代では、100%確証のある答えを得ることはできません。
そのため、得られた情報から可能性の高い答えを考え、それを検証しながら進める仮説思考が、最終的な課題の特定と課題解決のステップへ進めるために必要です。
課題設定における仮説思考
仮説設定のポイントは本質的な課題、課題による影響、対策に分類できます。
まず、課題設定における仮説思考は目の前の問題の背後にある原因の特定や本質的な課題を設定する上で役に立ちます。
例えば、「業務効率が悪い」などの目の前の表面的な課題のままでは、課題解決の重要性やどこから取り組めばいいのかがイメージできません。「本当の原因は何か?」と仮説を立てながら原因を深掘りすることで、非効率な体制や無駄な業務、ツールの問題などの本当に解決すべき課題を特定できます。
また、課題による影響に対して仮説を立てることで、その課題の重要性の判断をしやすくなり、取り組むべき課題の優先度付けが可能となります。
課題候補 | 仮説 | 優先度 |
---|---|---|
顧客対応の遅れ | 主要顧客が離れるリスクがある | ◎(最優先) |
販促キャンペーンの不振 | 他の施策で代替可能かもしれない | △(後回し) |
物流コストの増加 | すぐに影響はない | ✖(優先度低め) |
そして、解決の方向性に対する仮説立ても重要です。解決の方向性を具体的に考えることで、課題の優先度の評価の上で現実性も加味できますし、問題解決へのステップに移行しやすくなります。
さらに解決策の影響に対し数値化も含めて仮説立てを十分にできると実行後の検証がしやすくなります。仮説立てが不十分であると解決策を評価する方法を計画段階で組み込み忘れ、実行したけど検証する方法やデータが無いという事態に陥りかねません。

解決の方向性へ仮説立てることで、解決が現実的に難しい課題への取り組みや、取り組んだのに評価ができないという事態を回避しやすくなります。
課題発見力における仮説思考の効果
仮説思考はこれまで紹介したステップでも下記の通り効果を発揮します。
ステップ | 仮説の対象 | 仮説の例 | 仮説によるメリット |
---|---|---|---|
問題の兆しを見つける | 「問い合わせ件数が増えた」 「会議の発言者が減った」 などの変化や発生事象 | 「クレームが増えた?」or「新規顧客が増えている?」 「議題が難しい?」or「意見を言いづらい雰囲気がある?」 | 原因に対して仮説を立てることで、変化を見逃さずに深掘りできる。また、分析に必要な情報を特定できる。 |
情報を整理する | 「売上が前年比10%減」 「平均残業時間が増加」などの分析で得られた情報 | 「競合の影響?」or「市場全体の縮小?」 | データが示している意味に対して仮説を立てることで情報の重要性を評価できる。また、データの要因に対して仮説付けすることで数字の解釈を明確化できる。 |
あるべき姿を考える | 社会や自分の組織の未来の姿 | 「5年後の社会で、このビジネスはどんな価値を提供できるか?」、「EC化率が50%になる未来を想定すると、どう準備すべきか?」 | 未来の姿に仮説を立てることで、長期的な視点を持てる。また、どんな変化が必要か(あるべき姿)も明確にできる。 |
仮説思考は課題発見力以外の能力要素も強化する汎用的で強力なスキルとなりますので、鍛え方も簡潔に紹介します。
仮説思考の鍛え方
仮説思考を鍛えるには、「仮説を立てる習慣付」と「仮説を検証する」の2つのステップに分けられます。
仮説を立てることを習慣づけるには、日常の仕事やニュースに触れる際に 「なぜ?」「どうすれば?」 という問いを意識的に持つことが有効です。例えば、カフェが増えたことに気づいたのであれば、「リモートワークが増えた影響か?」など、その理由を考えてみましょう。
仮説を立てたらそのままにせず検証することも重要です。過去の事例と照らし合わしたり、同様の事例同士(可能であればA/Bテスト)で比較をしてみましょう。
また、この仮説を証明するにはどのような証拠・検証方法があるかと考えることが大切です。

複合的な要素が絡む現実世界では仮説の検証は難易度が高いです。時間や情報の制約から検証できない仮説も多いと思いますが、大事なのは仮説を検証するにはどうすればいいかという考え方の訓練を大事な仮説の検証のために準備しておくことです。
質問力
課題を明確にするには、思考を制御する質問力も重要です。適切な質問をすることで、問題の本質に近づき、解決策を見つける手がかりを得ることができます。
ステップに分けてどのような質問が効果的か整理してみます!
1. 問題の兆しを見つける(現状の違和感を捉える)
質問の種類 | 期待できる効果 | 具体例 |
---|---|---|
観察型の質問(What, Where, Who) | 現場の状況を客観的に把握し、問題の兆しを捉える | 「最近、顧客の行動パターンに変化はあるか?」 |
比較型の質問(Before & After) | 変化を捉え、何が問題の原因になっているか考える | 「半年前と比べて、問い合わせ件数はどう変わったか?」 |
なぜ型の質問(Why) | 直感的な違和感の原因を掘り下げる | 「なぜ、会議で意見を言う人が減っているのか?」 |
2.情報を整理する(データと事実を整理し、分析する)
質問の種類 | 期待できる効果 | 具体例 |
---|---|---|
5Why分析の質問(なぜを繰り返す) | 表面的な原因ではなく、根本的な課題を見つける | 「売上が下がった → なぜ? → 広告のクリック率が低下 → なぜ?」 |
データ確認型の質問(数値での裏付け) | 感覚的な判断ではなく、データに基づいた分析ができる | 「問い合わせが増えたと感じるが、実際の件数はどうなっているか?」 |
データ確認型の質問(数値での裏付け) | 2つの事象のつながりを考え、誤った因果関係を避ける | 「新商品の売上が伸びたのは、広告の影響なのか?他の要因は?」 |
3.あるべき姿を考える(理想の状態を設定する)
質問の種類 | 期待できる効果 | 具体例 |
---|---|---|
ビジョンを問う質問(理想の状態) | 「どのような状態がベストか?」を明確にする | 「顧客満足度を向上させるために、最適なサービスは?」 |
ギャップ分析の質問(現状との比較) | 現状と理想の差を明確にし、取り組むべき課題を発見する | 「現在の対応スピードと理想のスピードには、どのくらいの差があるか?」 |
未来予測の質問(長期的な視点) | 環境変化を見据えた戦略を考える | 「5年後、競争環境がどう変わると考えられるか?」 |
4. 課題を明確にする(取り組むべき課題を特定する)
質問の種類 | 期待できる効果 | 具体例 |
---|---|---|
優先順位を決める質問(インパクトと実現可能性) | どの課題に最も取り組むべきかを判断する | 「この課題が解決すれば、どのくらいの影響があるか?」 |
解決策を探る質問(How型) | 具体的なアクションを考える | 「この課題を解決するために、すぐにできることは?」 |
関係者の視点を問う質問(利害関係者の意見) | 課題の影響を多角的に捉え、実行可能なプランを立てる | 「この変更を実施した場合、現場の負担は増えるか?」 |
ステップ毎のポイント
上記をより簡潔にステップと質問のポイントに分けると下記のようになります。
- 問題の兆しを見つける:違和感や変化を捉える質問をする
- 情報を整理する:根本的な原因を探る質問をする
- あるべき姿を考える:理想の状態や未来を描く質問をする
- 課題を明確にする:取り組むべき課題を具体化する質問をする
上記のようにステップに応じて適切な質問を立てることで、課題発見の量と精度を高められます。
また、傾聴力という能力もあわせて、他者からの意見やアドバイスを引き出すことで、自分一人の視点では気づけなかった課題に気づくきっかけや客観性を得ることができます。
そのためには普段から意見を聞ける関係性を構築しておいたり、意見を集める場を定期的に設けておくことが重要です。
実践する上での注意点
- 課題発見は「問題提起だけ」で終わらせない
課題を見つけたのみでなく、「どう改善できるか?」まで考えることが大切です。課題を見つけただけでは事態の改善には繋がりません。実行力で紹介した問題解決力や働きかける力と組み合わせて課題の解決までに取り組むことで課題発見力は真価を発揮します。また、実際に改善まで手を進めることで、どれが本当に注力すべきか課題かという課題を発見するセンスの向上も期待できます。 - すべての問題を解決しようとしない
影響が大きいもの、優先度が高いものにフォーカスする。限りある時間の中でやるべきものをピックアップすることが重要です。課題の洗い出しのみでなく、どれが真の解決であるかという深堀とリスク評価をあわせて取り組み、前述の意思決定力で取り組むべき課題を優先順位することが必要です。 - 固定観念にとらわれない
過去の成功体験や業界の常識に縛られると、新しい課題を発見する視点が失われることがあります。常に柔軟な姿勢で取り組むことが大切です。その上では思考のパターンを自動モードから意識的にじっくり考えるモードに切り替える必要があり、以前本ブログで紹介した「遅考術」が参考になります。
参考となる書籍
今回は前回扱った多角的視点という観点で参考となる書籍を紹介します。
RANGE-知識の「幅」が最強の武器になる
まずは多様な経験や分野横断的な思考の重要性を訴える「RANGE-知識の「幅」が最強の武器になる」(デイビッド・エプスタイン著、解説:中室牧子氏 翻訳:東方雅美氏、日経BP)です。
本書は幼少期からの専門教育の有用性に疑問を投げかけ、具体的なエピソードと共に幅を持つことが成果にもキャリアにも役立つごとを紹介します。
特に幅を広げるための学習として紹介された「関係を認識する」学習が印象的でした。これは覚えた公式をただ当てはめるだけの「解法を考える」学習と異なり、ある公式がどうして成り立つのかを考えたり、他にどのような場面で応用できるかを学ぶ応用力や柔軟力に繋がる学習となります。
この関係を認識する学習は観察力を鍛える、具体的には入手した情報をかみ砕いて自身の業界に落とし込み、課題発見や問題解決のヒントにする能力の強化に繋がります。
その他、本書で特に印象に残った点は下記となります。
- 組織で解決できない問題について、解決方法を外部に募集することで解決できる可能性
- 世の中で専門特化が進むほど、専門外のアウトサイダーにとってのチャンスは増える
- 最新の技術を使うことは必須ではなく、アイディアで新しい顧客と雇用を生み出すイノベーションもある
- 水平思考(情報を別の文脈に置き換えてイメージしなおすこと)と垂直思考の人のバランスが重要
- 専門家からは事実・データをもらっても見解はもらわない
- 自動的なフィードバックがない意地悪な環境では、経験だけではパフォーマンスを上げられない、より重要になるのは思考習慣であり、それは学んで身につけることができる
- 自分の道具を手放すということは、習慣を捨てることであり、適応である
- 優れたチームにはヒエラルキーと自主性の両方が求められる
より詳細が気になる方は本書を紹介した記事や本書を是非ご覧いただけると幸いです!

終わりに
課題発見力は、あなたのビジネススキルを一段階上げるだけでなく、問題を根本から解決する力を養います。日々の観察や実践を通じて、少しずつ鍛えていくことが大切です。
「まず何が問題なのか?」を考える習慣をつけることで、あなたの周りにあるチャンスや改善点が驚くほど増えていきます。
さっそく今日から、自分の課題発見力を磨く第一歩を始めてみませんか?
それではまた次の記事で!