専門特化のリスクとは?人生に幅を持たせる意義-読書日記前半

どうもです!今年も残り2か月、年末の足音も聞こえてきた今日この頃でしょうか。

10月は仕事もプライベートも多忙であり、約1か月ぶりのブログ更新です。その期間で読んだ本の中で最も勉強になった1冊を紹介します。

タイトルは「RANGE-知識の「幅」が最強の武器になる」(デイビッド・エプスタイン著、解説:中室牧子氏 翻訳:東方雅美氏、日経BP)です。タイトルの通り、知識の「幅」を持つというのが本書のキーメッセージとなります。

筆者は専門特化が進んだ現代社会で、イノベーションや人の成長を促すには複数分野への横断や回り道も重要であることを主張します。

卓越した成果を上げようとした場合、自分の道を早期に決めて専門特化することが効率的で重要なように感じます。

実際に様々なプレイヤーは幼少期から専門特化教育を受けている印象があります。

本書で紹介されるゴルフのタイガー・ウッズは幼少期から親による専門特化教育を受けたトップアスリートの代表例であり、専門特化教育が重要という印象を私たちに与えます。

しかし、幼少期から専門特化しなかったトップアスリートの例としてテニスのロジャー・フェデラーを筆者は紹介し、専門特化がかならずしもトップアスリートにおいても一般的でなルートではないと指摘します。

ロジャー・フェデラーは親からの熱心な指導は受けず(言うことを聞かないので親は諦めたとか)、サッカーなどの様々なスポーツにも取り組んでいました。

それでも専門特化教育を受けたライバル達に負けないところか、2004年2月2日から2008年8月18日まで237週連続で世界ランキング1位というとんでもない偉業を達成しています。

スポーツ界に限らず、いかに自分の道を早く見つけて時間を注ぎ込むことが重要視される現代ですが、筆者はそのような傾向に警鐘を鳴らします。

複雑な現代社会で問題解決やイノベーションを達成するには、多様な経験や分野横断的な思考が重要であると筆者は主張します。

私たち全員が直面する課題は、専門特化がますます推奨され、要求されることさえある世界で、どうやって幅の広さや、多様な経験や、分野横断的な思考を維持していくかということだ。(中略)タイガー・ウッズのような早熟さや、明確な目的意識が求められる場面は確かにある。しかし、その一方でもっと多くのロジャー・フェデラーも必要になる。幅広く始めて、成長する中でさまざまな経験をし、多様な視点を持つ「レンジ(幅)」のある人たちである。

デイビッド・エプスタイン RANGE-知識の「幅」が最強の武器になる p22

早期からの専門特化教育の効果は本当に幻想なのか?一見回り道や寄り道に見える多様な経験は人にどんな影響を与えるのか?分野横断的な思考を生み出すにはどうすればいいのか?について整理していきましょう!

本書について

筆者について

著者はアメリカの科学ジャーナリストのデイビッド・エプスタインで、スポーツ科学、医学、オリンピック競技などの分野を担当しています。

研究者ではないのですが、ジャーナリストであるためか収集・参照したデータの範囲と量が豊富であり、根拠を確認しながら読み進められる一冊となっております。

Ted Talkでも複数のプレゼンテーション動画が公開されています。

本書の構成

本書は下記12章で構成されており、アートやスポーツ、ビジネス、アカデミアなどの幅広い領域において、具体的なエピソードやデータを元に「幅」を持つ重要性が紹介されます。

  • はじめに タイガー・ウッズVSロジャー・フェデラー
  • 第1章 早期教育に意味はあるか
  • 第2章 「意地悪な世界」で不足する思考力
  • 第3章 少なく、幅広く練習する効果
  • 第4章 速く学ぶか、ゆっくり学ぶか
  • 第5章 未経験のことについて考える方法
  • 第6章 グリットが強すぎると起こる問題
  • 第7章 「いろんな自分」を試してみる
  • 第8章 アウトサイダーの強み
  • 第9章 時代遅れの技術を水平思考で生かす
  • 第10章 スペシャリストがはまる罠
  • 第11章 慣れ親しんだ「ツール」を捨てる
  • 第12章 意識してアマチュアになる
  • おわりに あなたのレンジを広げよう

タイトルだけでも興味深い章がそろいます。例えば第6章では、2016年頃から日本でも話題になり始めた「グリット(やり抜く力)」強すぎると弊害がある点を指摘します。

さらに第9章「時代遅れの技術を水平思考で生かす」では任天堂の伝説的な人物、横井氏にフォーカスしており、日本人にとって馴染みやすい内容となっています。

本書で学んだ点

早期教育は本当に有意義なのか?繰り返し経験が学習に繋がる領域とは?

本書はまず早期教育が能力やその人の可能性の発揮に本当に有効なのかについて切り込みます。

早期教育の有効性を評価する上で重要なのは繰り返し学習が成長に繋がる領域であるかという点です。

早期教育が効果的となる環境は同じパターンが繰り返し現れ正確なフィードバックが直ぐに得られる環境であり、本書では親切な学習環境と呼ばれます。

例えば、ゴルフやチェス、クラシック音楽では、似た場面の繰り返しが起きやすくフィードバックも直ぐに得られます。

このような環境では、意識的な学習が効果的となり、努力の量がそのまま成果に繋がるため、早期の専門教育が役に立ちます。

しかし、多くの学習環境はこのような親切な学習環境ではありません。環境・条件は毎回変わり、パターンが見えないことすら少なくありません。

そのような環境、親切な学習環境の逆となる「意地悪な学習環境」では繰り返し学習の効果は役に立たないどころか、環境変化への適応を妨げる要因になることすらあると筆者は指摘します。

意地悪な学習環境では、通常はルールが不明確か不完全で、繰り返し合わられるパターンがあったりなかったりし、フィードバックはたいてい遅くて不正確だ。意地悪さが最も強烈な学習環境では、経験により間違った学びが強化されていく。

デイビッド・エプスタイン RANGE-知識の「幅」が最強の武器になる p32

ここが筆者が本書を記した理由となります。現代社会では専門化が進み、自分の職業が決まる前の大学やその前の段階から学ぶ領域が限定化されます。

しかし、そのような幅の狭い学習では、現実社会の課題を解決するのには役立たない可能性が示唆されてきました。

現実の複雑な問題を解決するには、1分野の経験や知識に固執しない柔軟で汎用的な思考能力複数の分野のアイディアを組み合わせる水平思考が重要となります。

それではそのような思考はどのような学習により身につくのでしょうか?

知識の「幅」を広げるための学習方法とは?

「解法を考える」学習と「関係を認識する」学習

筆者はある数学の教室を例に出し、2種類の学習があることを説明します。

まずは「解法を考える」学習で、これはすでに学んだ・暗記した公式や解法を問題に当てはめる学習を指します。

例示された教室では先生は生徒に代数という概念を生徒に教えるため、身近な例をいくつか出しながら数式を変えたり数字を変えながら説明しますが、中々伝わりません。

そこで先生はヒントを出しながら、生徒からの呼びかけに丁寧に回答しながら授業を進めることで生徒たちは答えに近づきますが、結局生徒たちが学んだのは「先生に聞けば答えがわかる」という授業の場面でしか役に立たない解法でした。

一方で、現実世界で必要とされる学習は「関係を認識する」学習です。生徒たちを大きな概念に結びつける学習で、数学の授業でいえば、ある公式がどうして成り立つのかを考えたり、他にどのような場面で応用できるかを学ぶ学習となります。

公式や知識、解法をただ丸暗記するのではなく、その背景情報や適応できる条件を学ぶことで、学んだ知識を他の場面でも応用しやすくなります。

共に学ぶ過程では大事な学習方法ですが、短期的に効果が表れやすいのは前者の「解法を考える」学習です。

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学んだ公式を繰り返し練習するので、正答率の向上は早く、学習効果が明確に実感しやすい学習となります。

そのため、「解法を考える」学習の方が効率がよいと捉えられ優先されがちですが、長期的な視点で現代社会で実際に求められる思考力を鍛えられるのは「関係を認識する」学習であると筆者は指摘します。

様々な研究データでは、ヒントが限られたり、難易度が高い考えさせたりする回答者への負担が重い問題を解かせた方が長期的な学習効果が確認されています。

練習段階や初回のテスト段階では、「解法を考える」学習の方が正答率は高いのですが、その効果は長続きしません。少し間をおいて問題に挑戦してもらうと、学習効果・成績が逆転するという結果が複数紹介されます。

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教える側としてはヒントを与えて早く答えにたどり着かせてあげたいと思いますが、思考力を身につけるという観点では逆効果という点は非常に印象的でした。

多様性学習(インターリービング)による望ましい困難

「関係を認識」し、学んだ知識を多様な場面で応用するためには、学習方法に工夫が必要です。

本書で紹介されるのは多様性学習(インターリービング)です。多様性学習とは特定の問題を繰り返し解くのではなく、学ぶ対象とは異なる要素やタイプを交えた様々なパターンの問題に取り組む方法を指します。

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ある公式を学ぶのに、その公式をそのまま使えば解ける問題を繰り返すのではなく、一工夫必要な問題や保管解法が必要な問題を組み合わて、使用できる場面やルールを含めて学習するイメージです。

この方法は運動能力と学習能力の両方に有効であることが報告されています。

運動でも、学習でも、インターリービングにより、適切な方法を問題に適用する能力が高まる。これは、専門家の問題解決に見られる大きな特徴でもある。化学者でも物理学者でも政治学者でも、最も優れた問題解決者は、まずどんなタイプの問題かを解明するために頭を絞り、次にその問題に適した戦略を適用する。

デイビッド・エプスタイン RANGE-知識の「幅」が最強の武器になる p135

参考までに本書で紹介された論文を下記に整理します。

問題を複雑にそして多様なパターンを組み合わせてテストすることは正答率も伸びにくく回答者に負担がかかりますが、知識の長期的な定着や応用力の増強が期待できます。

学習環境を単純ではなく困難にすることは、このような学習効果の増加を生むことから「望ましい困難」と呼ばれます。

多様性学習以外の「望ましい困難」としては、時間をおいてから学習内容をテストすることも紹介されます。

短期的に学習効果を高めようとすると、シンプルな学習環境で短期的な知識定着(暗記)の効率を高めようとしがちですが、その衝動を抑え、長期的な学習効果を高めるための工夫を検討することが必要となることを学びました。

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社内で研修資料を作成する上でも注意しなくてはと感じました。

ここまでは学習という観点で「幅を広げる」重要性やその方法を学んできました。次の記事ではキャリアという観点で学んでいきましょう。

それでは次の記事で!

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