マスロー「完全なる人間」を図を交えて整理してみる_21

どうもです!アブラハム・H・マスロー氏「完全なる人間-魂のめざすもの」をテーマとして、読書日記をまとめていきます。

今回からは第Ⅴ部「価値」第12章「価値、成長、健康」に移り人間の価値とは何であり、それはどのように観察・発見・特定されるかについての考察に入ります。

それでは早速本題に入りましょう!

人間の本質的価値の発見

筆者は人間の最高の価値や目標を研究する上で、価値についての考えを下記のように記述します。

これらの価値は、創造され、構成されるとともに、洞察されるものであり、人間性そのものの構造に本質的なものであり、文化的に発達するものであるとともに、生物学や発生学に基礎づけられたものと考えられる。

アブラハム・H・マスロー「完全なる人間」p212-213

同時に理想的な目標を作るのではなく、本質的な価値を洞察して記述するというスタンスを取ります。

どう生きるべきであるかという問いを頭の中だけで考えようとすると、人間の本来の性質から乖離した非現実的な姿を目標としてしまう危険性があります。

K
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一生懸命取り組むなら理想論よりは事実に即した現実的な努力が良いですよね。

実際の人間、それも自己実現した人々を洞察することで、そのようなリスクを回避し、「何が人間にとって価値があるものなのか」を事実に基づいて現実的に記述するのが筆者の目標という風に読み取りました。

人間価値発見の条件

本質的な価値を洞察して発見するための観察における条件として、筆者は自由選択健康な人格を前提条件とします。

自由選択

自由選択とは、観察対象者に選択権を持たせることを意味します。

特定の環境条件下や制約を与えるのではなく、白紙の条件でさまざまな条件での観察対象者の選択と行動、そしてそこから得られる経験を洞察することを意図しています。

自由選択という条件を付与することで、どの選択が好ましいかを調べる上で漏れとバイアスを最小限にすることが期待できます。

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例えばAという行動が良い選択なのかという命題の元での研究は、A以外の選択の可能性を調べることが出来ず、また、Aという行動の実施が強制されることで被験者の体験の質が変わったり日常生活で選ばれない非現実的な選択肢についての評価となる可能性も生まれます。

筆者の取るアプローチは哲学や宗教とは異なり、観察による科学的な検証によるものとなります。その利点を筆者は下記のように説明します。

この自然的、記述的なアプローチ(「科学的」)はまた、盲目的、無批判的な価値を荷った「すべきである」とか「しなければならない」という問題から、もっと普通の経験的なかたちの問題、たとえば、いつ、どこで、だれと、どれほど、どんな状態でなどというような、経験的に検証できる問題のかたちへと転換できる利点を持つのである。

アブラハム・H・マスロー「完全なる人間」p213

実際の現実を検証するアプローチであれば、現実的に達成できる範囲での価値や目標を研究・説明でき、また達成した人々の経験を検証することで、明らかになる内容もより詳細かつ具体的になります。

更に実体験を検証することで、自己実現を達成するのに必要な要素目標を達成するまでの道筋の例も明らかにすることが期待できると感じました。

健康な人格

上記のアプローチで人間にとって良い価値を検証するために必要なもう一つの前提は、観察対象者が健康な人格を持つことです。

筆者はB価値を選ぶ傾向は全ての人間、あるいは大部分で見られると主張します。

しかし、その衝動は他の基本的欲求や自己防衛の衝動と比較して弱いため、基本的欲求を満たし自己実現を目指す健康な人格の所有者でこそ、B価値を選択する傾向が最もはっきり示されます。

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基本的欲求が満たされていない人は、その欲求を満たそうとする衝動が強いため、自己実現に繋がる行動への選択の優先度が下がってしまいます。

さらに、健康な人格を所有する観察者が自由選択で選んだ行動は、他の多くの人にとっても自己実現を促す良い選択であると筆者は捉えています。

そのため、健康な人格を有する人の選択を観察することで、自己実現するために多くの人にとって参考となる選択を調べることができ、分析を進めることで人にとって最も高い価値が何かを特定出来るというのが筆者の主張になります、

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対象は会社となりますが、長年偉大な成績を示した会社へのインタビュー・調査を元にして成功する会社の条件の特定を目指しているビジョナリー・カンパニーも似たアプローチを取っているなと感じました。

人間価値と外的価値

更に筆者はもう一点価値に関する前提となる主張を補足します。

それは人間が(弱い衝動としても)本能的に求めるB価値が、よい作品や自然一般などの外界にみられる価値と同じであり、さらに互いに高めあい強め合う関係にあるということです。

これは人間にとっての本質的な価値は、人のなかに内包されており外界から押し付けられるものではない、そして外界の価値(外的価値)と相反せず、むしろ共調する関係にあるという主張になります。

これは価値は外から与えられると主張するグループと筆者の立ち位置の違いを整理する上で重要なポイントであると感じます。

以上の前提を元に筆者は人間の価値に関する主張を展開します。

人間性の規定

ここから人間の価値に関する筆者の主張となります。

最初の主張は下記の通りで、「よい人間」は人間性の規定の中に存在し、より人間らしい性質を発揮している人間が真の人間であるという点です。

「よい人間」はただ人間性のある基準に対してのみ規定される。(中略)ある人びとは他の人びとよりもさらに人間的であり、「よい」人間、「よい」模範といわれる人びとは、真の人間なのである。

アブラハム・H・マスロー「完全なる人間」p216

一見どんなに素晴らしい特徴でも、人間らしさが失われてしまえば、それは「よい人間」の特徴ではなくなるでしょう。

突飛な例ですが、生身で空を飛べたり水中で呼吸できたりすればそれはすごいことですが、「よい人間」の条件かと聞かれれば疑問府がつくはずです。

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もう少し現実的な例示を考えると、物語で見るような感情を一切切り離した冷徹な処理をできる人は凄いと思いますが、全ての人がそのような存在を目指すべきか、そもそもそのような存在になることが幸せに繋がるかというと、そうではないと思います。

対象の特徴を正確に把握するためには、模範的な標本の観察が重要となり、そしてその模範的な標本として健全な人格を有する自己実現をした、もしくは目指す人が選択されます。

筆者はこのような人を「最も完全な人間」と呼び、本書のタイトルと繋がります。

ここで筆者は課題を提唱します。それは本能的衝動による価値文化的な影響・理想を区別する必要がある点です。特にB価値に対する本能的な傾向は文化的な影響力に対して弱いため、本能に従って自由意志で選択された価値であるかの見極めが重要であると考えられます。

また、観察対象となる健康な選択者をどのように選ぶことも大きな研究問題であると筆者は説明します。

成長価値、健康性退行価値

次に筆者は成長価値健康性退行価値という二つの価値に着目し、両者の関係性を説明します。

成長価値は自己実現を目指す人が追い求める価値であり、成長・自己実現の動機となります。

一方で健康性退行価値は低次の欲求に関連する価値であり、自己実現者の視点から安全や所属などの低次の欲求への価値選択(退行)を導く欲求となります。

筆者は低次の欲求を満たし、自己実現を目指す人でも低次の欲求が存在し、人によっては再び低次の欲求にとらわれる可能性があることを指摘します。

これは高次の欲求に対して低次の欲求の衝動の方が強いためであり、自己実現を達成する前提として低次の欲求の満足が必要になるためです。

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安全や所属などの低次の欲求が満足していない状態ではその欲求不満の解消が優先され、自己実現を目指そうとする欲求は低くなってしまいます。

そしてこの低次の欲求を優先しようという反応を「低い欲求への退行」と筆者は呼びます。

このことは、低い欲求に退行する過程が、つねに可能性として残されていることを示しており、これに関しては、病気だとか疾患としてみるだけではなく、全有機体の統合に絶対必要なものであり、「高次欲求」の存在や機能に不可欠なものと考えなければならない。安全性は愛情が成り立つために必要な前提条件であり、この愛情は自己実現にとっての前提条件なのである。

アブラハム・H・マスロー「完全なる人間」p220

退行という表現は悪いことのように感じますが、この退行への衝動高次価値にとって正常・自然・健康・本能的なものであると筆者は指摘します。

上記指摘より、この退行は病的な反応ではなく、健康な反応であることを強調するために「健康的退行価値」と表現していると推測します。

退行へ向かう衝動が無ければ、安全・愛情という本能的な欲求が不満した状態でも高次価値が優先されることを意味します。

本能的な欲求は人間が進化の過程で獲得した生存に必要な基礎的な欲求とも考えられ、そこが欠落したまま放置され高みを目指し続けるというのは、それはそれで病的な状態と言えるでしょう。

そのような不安定な状態を回避するためにも、「健康的退行価値」は人にとって必要な作用であるといえるでしょう。

そして高次価値と低次価値の関係を欲求階層説に関連する形で下記のように整理します。

大多数の人類にとって、人間の高い性質は低い性質の満足がなければ、考えられないのである。この高い性質を発達させる最善の方法は、まず低い性質をみたし満足させることである。さらにまた、人間の高い性質は、現在および以前に、良好ないしかなり良好な環境のある場合に存在するのである。

アブラハム・H・マスロー「完全なる人間」p220-221

以上の記述より、低次価値と高次価値は一方通行や非連続的のような関係ではなく、連続的で双方向、かつ更には同居する関係であるという筆者の主張を確認でき、高次価値を追求するには低次の欲求が不満にならないように注意を払い環境を整備・選択する必要があると推測できます。

高次の欲求と低次の欲求は双方の関係であり、欠乏による健康性退行価値が生まれる。自己実現を目指すには低次の欲求の満足が前提となる。

可能性としての本質価値

そして筆者は価値を探求する道筋のパターンを下記の通り整理します。

  • 自分の中に見出す:自己の探求により自分自身のうちに発見するもの
  • 自ら作り出す:自身で目標や理想を設定して追い求めること
  • 文化により与えられる:周囲の評価や要求により影響を受けるもの

前述の通り、人間にとって本当の価値が人間に内包されるのであれば、自分の中に見出す方法が価値を探究する方法としてあげられます。

筆者はこのアプローチが有用であるとしたうえで、この一つのアプローチで定まるほど価値は単純なものではないと指摘します。

価値の源泉となる欲求、能力、才能は多様であり、例え価値が見つかったとしても、本人の選択や行動によりそれが発揮されるか、そしてどのような形となるかが変わります。

たとえ才能があったとしても、本人がそれを放棄してしまえばその才能の発揮による価値は生まれません。

そのため、本人の選択や目標設定がどのような価値が発揮されるかを決める重要な要素となります。

そして価値が発見される過程で、本人以外の要因がある点も筆者は指摘します。得られる機会周囲からの評価は、決定や結果に大きく作用します。

例えば、ある才能を持っていたとしても、社会的にそのニーズがなければその才能を発揮する場や周囲の後押しは得られにくく、結果としてその才能を生かす道を選ぶ可能性は低くなるでしょう。

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芸術という概念がない世界では、どんな優れた美的センスを持つアーティストもその価値を発揮する可能性はなくなるでしょう。

更に個人的見解ですが、文化で認められていない価値の実現を目指す人は安全や所属、承認といった基本的欲求が欠乏し自己実現を目指す前提が崩れる懸念もあると感じます。

価値が発見されるアプローチについて自分の中に見出す方法に追加し、自分での選択外的な要因を説明しました。筆者はこの新しい2つの視点が自己実現によって表現される価値を決めると主張します。

それは、この表現される価値は自分の中にある理想像により決まり、この理想像は自身の価値観に基づく決定文化による影響で決まるためです。

職業での価値発揮を例示に出すのであれば、自己実現という次元にある人は、ある職業Aになることを目標とするのではなく、その職業Aでより良い成果・貢献を示すことを理想像・目標とするでしょう。

このより良い成果・貢献とはいったい何を指すか同じ職業の中でも異なり、同時に値の発揮の方法も本人が描く理想像により大きく異なることを意味します。

K
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例えば、同じ医者でも理想の姿は多様でありざっと考えられるだけでも、最高難易度の手術ができること、地域に根差し地域医療を支えること、教育に重きを置き後進を育てること、研究に重きを置き新しい治療開発に貢献することなどがあげられます。

終わりに

以上、第Ⅴ部「価値」第12章「価値、成長、健康」について、人間の価値とは何であり、それはどのように観察・発見・特定されるかについての筆者の考察を整理してきました。

「可能性としての本質価値」で紹介された価値の発見・決定に影響する下記3つの要素は、自分の目指す道を考える上で有用なアプローチである「MCWの輪」との対応や関係性を考えることも中々興味深いと感じました。

  • 自分の中に見出す:自己の探求により自分自身のうちに発見するもの
  • 自ら作り出す:自身で目標や理想を設定して追い求めること
  • 文化により与えられる:周囲の評価や要求により影響を受けるもの

自分の中に見出す自ら作り出すWill(やりたいこと)Can(できること、才能)発見・検討する上で有用なアプローチであり、そして文化により与えられるMust(求められるもの)と対応していると整理しています。

MCWの輪は現在でも良く使われるフレームワークですが、その要素と対応する概念が50年以上前の書籍で言及されていることに少し感動を覚えました。

次回は第Ⅴ部「価値」最後の第13章「環境を超えるものとしての健康」に入ります。次回は更新頻度二か月も空かないように頑張ります!

それではまた次の記事で!

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