自由からの逃走だけだと新しいインプットが限られるので、同時並行で読んだ本についても読書日記を書いていきます。
今回のテーマは人生の価値を最大化することです。
老後資金問題への危機感が要因の一つとなり、徐々にではありますが投資や貯金、節約への傾向に高まりが見えてきています。
この傾向自体は長期的な計画を立てる人が多くなるので良いことと考えますが、今回の本は未来にお金を送りすぎることの問題点を指摘しています。
それはどのような問題なのか?そして、その問題を回避するにはどうすればいいのか?というのが今回のポイントです!
目次
今回の本
今回取り上げるのはビル・パーキンス氏の「DIE WITH ZERO – 人生が豊かになりすぎる究極のルール」(訳:児島 修氏、ダイヤモンド社)です。
主題も副題も中々インパクトがありますね。0と死ぬとは何を意味するのでしょうか?
概要
お金ではなく人生を最大化する
老後資金問題は超高齢化社会の現代で非常に重要なテーマであり、日本でも2000万円問題などとして頻繁に取り上げられます。
節約や投資でコツコツ老後資金を貯めることは計画性のある人生設計のために欠かせない要素となっています。
しかし、この風潮に対して筆者は多くの人が幸せや喜びを先送りにし過ぎていると問題提起します。
筆者は長期的な視点で老後資金を用意すること自体には肯定的です。決して浪費を推奨するような本ではありません。
その一方で、それだけでは大事な視点を見落としていることを指摘します。
お金はあくまで手段であり、使うことでその価値を引き出すことが可能です。
しかし、多くの人が苦労して貯めたお金を使えないままこの世を去っていくという悲しい現実を掲示します。
たとえば純資産の中央値は、世帯主が55歳の場合は18万7300ドルなのに対し、65歳の場合は22万4100ドルと増加している。さらに、なんと70代になっても人々はまだ未来のためにお金を貯めようとしている。70代後半になっても、この年代の人々の貯蓄は減り始めない。(中略)つまり大勢の人は、苦労して稼いだ金を自分より長生きさせようとしていることになる。
DIE WITH ZERO ルール3 p82-83
そのため、資産を拡大するのに固執するのではなく、人生を最大化することを目的とすべきと提唱します。
筆者は、老後に向けた貯蓄を推奨する時によく使われる寓話のアリとキリギリスの例を出し、下記のように主張します。
つまり、キリギリスはもう少し節約するべきだし、アリはもう少し今を楽しむべきなのだ。この本の目的は、アリとキリギリスの生き方の中間にある最適なバランスを見つけることだ。
DIE WITH ZERO ルール2 p48
DIE WITH ZEROとは過剰な貯めこみを辞めて、現在の幸せにしっかりお金と時間を配分することで、労働やお金のための時間を最適化して人生の価値の最大化を目指すことを意図しています。
この考えによりどのようなメリットがあるか、そして、人生を最大化するためにはどのように取り組めばいいかを紹介する一冊となっています。
この視点は投資熱が高まっている現在でその目的を見失わないために、非常に重要であると感じます。
経験と思い出への投資について
また、筆者は経験と思い出の価値を人生を充実させる源であると重要視しており、闇雲に節約や貯蓄をするのではなく、適切な時期にお金を使用して自己投資をするように主張します。
思い出や経験は、その後の人生においても記憶という形で価値を引き出すことが可能で、筆者はこれを記憶の配当と呼びます。
思い出話により将来の会話の種となったり、その経験を他人と共有することでコミュニケーションのきっかけとなったり、新しい喜びや楽しみをもたらす源となります。
元の経験から副次的に生まれる経験は、まさに記憶の配当だと言える。(中略)金を払って得られるのは、その経験だけではない。その経験が残りの人生でもたらす喜び、つまり記憶の配当も含まれているのだ。
DIE WITH ZERO ルール2 p61
そのため、稼いだお金を生活費と貯蓄にすべて回すのではなく、思い出や経験を作るための自己投資にも使うことが重要となります。
この自己投資は人により答えが異なり、一概にこれが正解という分かりやすい基準は無いため、多くの人が苦手とするテーマです。
どの経験にどれだけのお金を掛けるべきか迷った時、そもそも何を元に判断すればいいかを考えるのも大変です。
本書は自己投資を推奨するのみでなく、どのような基準で自己投資をするべきかという指針も紹介してくれているのがありがたいポイントです。
また、筆者はお金を使うことのみを推奨しているわけではなく、この経験と思い出に対しお金が必須ではないことを示しています。
若くて元気で、好奇心に満ちた人なら、金をかけなくても経験から大きな喜びを引き出せる。若くて金がない人は、自分にできる経験を探そう。たとえば、自治体が開催している無料の野外コンサートやフェスティバルに参加してみる。友人と話す、(中略)こんなふうに金をかけずに楽しめる機会を十分に活用している人は少ない。ぜひ試してみてほしい。
DIE WITH ZERO ルール2 p61
そのため、「経験や思い出に使えるほどのお金の余裕はないよ・・・」と感じる方にも参考とできる1冊となります。
筆者について
ビル・パーキンス氏はエネルギー分野のトレーダーとして成功を収め、1億2000万円ドル超の資産を抱えるヘッドファンドのマネージャーです(本書出版当初)。
時給1万6000ドルの貧乏な暮らしから一代で莫大な富を築いており、まさにお金を増やすことのプロです。
しかし、そんな筆者が最大化するべきはお金ではなく、人生であると主張します。
富を築いた筆者だからこそそんなきれいごとが言えると感じる方もいるかもしれませんが、筆者にとってこの気づきは、まだ貧乏な時代に節約により1000ドルの貯金をしたことに対して、上司から下記のように言われたことをきっかけに生まれたものです。
「お前はバカか?はした金を貯めやがって」
「この1000ドルは、今しかできないことのために費やすべきだ」
DIE WITH ZERO ルール1 p26-27
さらに、お金と時間/人生の関係を訴える「Your Money or Your life」という本との出会いで「金のために人生を犠牲にすべきでない」という指針が固まり、莫大な富を築いても変わることはない一貫的な指針となりました。
また、お金の使い方に後悔した筆者の実体験も紹介されており、これらの内容は広く多くの人に参考になるものであると感じました。
そして、人生の最大化を支援するアプリを作ろうと知人に相談したときに本の執筆を薦められたことが、本書誕生のきっかけとなります。
章の構成
本書は9つのルールを紹介しており、ルールごとに下記の通り章を設けています。
- まえがき
- ルール1-「今しかできないこと」に投資する
- ルール2-「一刻も早く経験に金を使う」
- ルール3- ゼロで死ぬ
- ルール4- 人生最後の日を意識する
- ルール5- 子どもには死ぬ「前」に与える
- ルール6- 年齢にあわせて「金、健康、時間」を最適化する
- ルール7- やりたいことの「賞味期限」を意識する
- スール8- 45-60歳に資産を取り崩し始める
- ルール9- 大胆にリスクを取る
読むのをオススメしたい方
長期投資や本格的な節約を開始した方
超高齢化社会となり年金も徐々に減っていくことが予想される日本では、老後資金に対して計画を立てることは人生を最後まで安心に楽しく生きるために必要な取り組みです。
国自体もNISAやiDeCoを中心に老後資金への準備を後押ししようとしています。
その一方で、現在の自分の生活も非常に重要というのもまた事実です。
どんなに良い行いや心構えも、過剰になってしまうと逆に害をもたらす原因となります。
老後のために現在の貴重な経験や思い出を失う、このような事態を回避するために、今何にお金を使うべきかを考えてバランスを取ることが重要です。
このバランスや基準を考える上で、本書は非常に有用な一冊となります。
20代の若者、そしてそれに匹敵する若い気持ちを持っている方
また、これから自分で使えるお金が増えてくる若者の方にもオススメ度が高い1冊となります。
理由としては、どのようにお金を使えばいいかという勉強になる点もありますが、お金により得られる価値が一番高い時期であるという点も含まれます。
若い内は体力的にも、精神的にも活動をする上での制約が少ないため多様な活動に挑戦しやすいです。
ただ、この時期はお金が少ないため、貯蓄を意識し過ぎると、プラスαの活動にお金を使うことができなくなってしまうという注意点があります。
一方、どれだけお金があっても、年を取ってからでは旅行すらも億劫となり、折角のお金を自分の人生の充実に活かしづらくなるという現実があります。
更に、得られた経験から得た学びを活かすという視点でも、若い時の方がその後に恩恵を受けられる期間が長くなるので経験による価値が高くなります。
そのため、この時期に入る前、もしくはその時期に本書に触れることは、適切な自己投資をするために大きな助けとなるでしょう。
ただ、この本のみだけだとお金の使用という方向に傾向が傾いてしまうので、並行して投資や貯蓄の勉強もするというバランス感覚が必要でしょう。
年齢だけじゃなく気持ちも大事
一方、価値が最大の時期が過ぎていたとしても、その価値はゼロにはならないため、本書の内容を実践するのに遅すぎるということはありません。
残りの人生の価値を最大化するという目的でも、本書は非常に参考となります。
中年ー老年期の方のほうが参考になると思われるルールも紹介されています!
私もすでに30を超えており、経験に対してのお金の投資が十分に出来なかったと感じているため、もっと早く読んでおきたかったなぁと若干の後悔を覚えております。
ただ、現在健康寿命も延びており、まだまだ勉強、経験のフェーズと考えているので、取り入れられるポイントは多いと感じています。
人生生涯勉強で、遅すぎるということはありませんからね!
読んで感じたポイント
一番印象に残ったポイント:「金」、「健康」、「時間」のバランスが人生の満足度高める
一番印象に残ったのは、何にお金を使うべきかの判断基準となる「金」、「健康」、「時間」という要素のバランスです。
「経験や思い出にお金を使うことの重要性はわかった、でも何にお金を使うべきかどうやってお考えればいいの?」という読者の疑問への回答となります。
新しい経験のために何か不足している要素がある場合、他の要素で補うことができないかを検討することで、挑戦率を上げることが可能です。
老後に向けてお金を貯めている人は、この3要素の内の「お金」に比重を置きすぎているため、お金で時間を買ったり、健康のためにお金を掛けることの重要性を筆者は主張します。
各年代に応じた人生を充実させる経験を増やすには、この「金」「健康」「時間」のバランスを取る必要がある。そのときに豊富なものを、足りないものと交換しなければならない。人は年齢に応じてこの交換を行っているが、間違いを犯しているケースが少なくない。特に金に比重をかけすぎている。(中略)金ではなく、健康と時間を重視すること。それが人生の満足度を上げるコツなのである。
DIE WITH ZERO ルール6 p174-75
また、年をとっても人生を楽しむために、健康の維持が重要であることが再認識できました。
いくらお金と時間が余っていても動くのも億劫なほど体が衰えていれば、お金と時間を使って楽しむことのできる選択肢とそれにより得られる充実度は限られてしまいます。
個人的には老後に向けてメンテナンスが重要な要素は行動を制限する要因となる歯、腰、膝と考えているのですが、見落としが無いか、また健康への投資が十分であるか考え直すきっかけとなりました。
再考の結果、膝への投資が不足していると感じたため、ランニング用のサポーターを購入しようか検討中です。
面白いと感じた点: 「リスクの大きさ」と不安は区別すべきだ
私はどちらかというとリスクを回避する傾向があるため、「ルール9-大胆にリスクを取る」の章が大変参考になりました。
この章では、リスクを若い内に取ることのメリットと、行動をとらないことのリスク等を説明し、リスクを取ることとどう向き合うかを解説しています。
個人的に最も面白いと感じたポイントは「リスクの大きさ」と不安は区別すべきだという点で、リスクを感情的ではなく論理的に判断するために必要な視点だと感じました。
人は不安に襲われていると、実際のリスクを過度に大きく見なしてしまう。大胆な行動を想像すると直ぐに不安を覚えてしまう人は、まずは考え得る最悪のシナリオを乗り越えるためのあらゆる安全策を検討してみよう。(中略)すると、リスクを取ることで起こり得る最悪のシナリオも、想像したほど悪くはないと気づけるかもしれない。もしそうなら、リスクを取ることのプラスの面にも目を向けやすくなるだろう。
DIE WITH ZERO ルール9 p259
この最悪のシナリオを考えるというのは、カーネギー氏の著書の「道は開ける」で学んでからメンタルケアのために使っていた考えでしたが、リスクを取るかどうかの判断時にも使用できるというのは新しい発見でした。
やらない理由を見つけるのはいつでも簡単ですが、それが本当に合理的な理由であるのかを考えることで、遠ざけようとしていた挑戦の機会を取り戻すことが可能となります。
また、リスクを評価するのみでなく安全策を検討することで、無謀な挑戦を回避して、リスクを最小化することも狙えます。
本章の内容は人生の目標を考えるという長期的な観点でも重要ですが、普段の行動を選択する上でも有用な視点と感じたので、日常の習慣にも取り入れていく予定です。
行動に取り入れるなら?
早速、死ぬまでに自分がやりたいことをリストアップしてみるのが行動に取り入れるための第一歩でしょう。
ここでは、死ぬまでにやりたいことなので、現在の実現性は無視して広い視野で想像することがポイントです。
実現が難しそうなこともリストアップすることで、その妨げとなっている障壁が何かを考えやすくなり、思ったよりも直ぐに取り掛かれるものが見つかる可能性があがります。
さらにリストアップしたものに対し、いつ取り組めばいいのかの優先順位付けをする時に役に立つのがルール7で紹介されるタイムバケットです。
これは「死ぬまでにやりたいことリスト」を自分の年齢にあわせて振り分けることで、残りの人生で、何をいつまでにしたいのかが明確となります。
この表により、いつまでに取り組む必要があるのかという期限を視覚化することが可能となります。
人は期限を設定することで、行動のモチベーションを上げやすくなります。
また、以前紹介した 「「後回し」にしない技術 「すぐやる人」になる20の方法」 で触れた、開始の期限を設定することも容易となり、どのように準備するかという計画も立てやすくなります。
自分がどのようなことをやりたいかを考える時間はそれ自体でワクワクする時間となりますので、そのような習慣がこれまでなかった方は、優先度をあげて時間を作ってみることを推奨します。
終わりに
老後に向けた節約や貯蓄の重要性は親や学校、国の政策、テレビやメディアの特集等、様々な形で指摘されますが、どのようにお金を使うべきかという知識が取り上げられることは中々少ないです。
そのため筆者が指摘するように、喜びを老後に先送りする傾向が生まれ、一番体力と時間がある若者の時に思い出や経験作りにお金を掛けることができないという問題が出てきます。
老後のためのお金を貯めることが目的の人生に陥り、労働とお金の奴隷となるのは、自分の人生の可能性を閉じてしまうもったいないことです。
友人と投資の話をしていても、お金を貯めたその先のシナリオが曖昧でもったいないなと感じることが度々ありました。
投資熱の加速やCOVID-19による消費の鈍化により、この問題はさらにその範囲も深刻さも大きくなっていくと予想します。
本書はお金を経験や思い出のため、今現在の幸せのためにも使うことを推奨することで、そのような傾向を打破するための一冊となります。
何にお金を使うべきかの判断基準は、学校や人から教えてもらう機会は限られるので、誰もが必要な情報でありながらどのように考えればいいかというアプローチすらわかりにくいものです。
本書はその基準とすべき要素と、優先度を整理しやすくするアイディアを紹介してくれます。
老後に備える一方で今現在を十分に楽しむために、自分のやりたいことやいつまでにしなくてはいけないのかという期限を整理することで、人生を現在から老後まで一貫して充実させる助けとなるでしょう。
自分のやりたいことリストを友人と共有してみるというのも、新たな気づきやコミュニケーションを充実させるワクワクする時間を作るアプローチとなるかもしれませんね。
それではまた次の記事で!