名作を読んでみる「風と共に去りぬ」第四巻-前半:読書日記

名作を読んでみるシリーズ、「風と共に去りぬ」第四巻、遂に後半戦を読んでいきます!初回はこちら

<タラ>の窮地を救うため、妹のスエレンの婚約者であるフランクとの結婚を推し進めたスカーレット。スカーレットの野望は尽きることなく、事業家への道に挑戦します。

その一方で、敗者という立場により北部から強いられる南部の苦境、奴隷解放運動により徐々に高まる黒人からの南部白人への横暴秘密結社KKK(ケー・クラックス・クラン)の活発化により、スカーレットを不穏な空気が包みます。

スカーレットの挑戦の行く末、そしてそれを取り巻く当時特有の緊張感が今回のポイントです。

第四巻あらすじ(新潮文庫より引用)

敗戦後の混乱はますます激しくなり、戦勝した連邦政府の圧政と解放された奴隷の横暴に南部人が苦しむ最中、スカーレットは、妹スエレンの婚約者フランクを横取りして再婚した。夫とともに製材所の経営に乗り出し、意外な商才を発揮するが、秘密結社KKKが結成され、フランクやアシュリも否応なく渦中に引き込まれる。スカーレットの周辺には、にわかに血の匂いが立ち込め始めた-。

登場人物:今回の記事に関係する人と情報に限定(新潮文庫より引用)

  • スカーレット・オハラ:本作のヒロイン。<タラ>の大農園主オハラ家の長女に生まれたが、夫を失い、遺児ウェイドとともに帰郷した。
  • ジェラルド・オハラ:スカーレットの父。妻エレンの病死のために自失してしまった
  • メラニー:愛称メリー。アシュリ・ウィルクスの妻で、ボーと呼ばれる子を生んだ。
  • アシュリ・ウィルクス:スカーレットが想いを寄せるウィルクス家の長男。南北戦争に従軍後、<タラ>に身を寄せている。
  • マミー:もとはエレンの実家に仕え、スカーレットの乳母でもあったオハラ家の使用人
  • スエレン、キャリーン:スカーレットの妹たち
  • フランク・ケネディ:スエレンの婚約者だったがスカーレットと結婚した。商店と製材所の経営に関わる
  • ピティパット・ハミルトン:チャールズとメラニーの叔母
  • ピーター爺や:ハミルトン家の使用人
  • ウィル・ペンティーン:身寄りのない南軍復員兵で<タラ>で働く
  • レット・バトラー:密輸で巨利を得る無頼漢。社交界の嫌われ者だが、不思議な魅力でスカーレットに接近する。南北戦争後は政府の資産を横領した嫌疑をかけられ捕縛された。

第四部

「(中略)ああ、わたしならもっとうまく店の切り盛りができるのに!製材所だって、材木業のことはさっぱり分からないけど、彼よりうまく経営できるはずよ!」そう思って自分でびっくりした。女性が男性並みの、あるいは男性顔負けの詳細を発揮するなどというのは、”男は博識、女は物知らず”という伝統の中で育ったたスカーレットにとって、天と地がひっくり返るような考えだった。

風と共に去りぬ第4巻 ミッチェル p25

再婚によりフランクとの結婚生活をスタートしたスカーレット。<タラ>を救うお金をもたらしてくれたフランクに感謝しているものの、<タラ>を守りながら安泰な生活を手に入れるため、より多くのお金が必要なスカーレットは、未回収金の多いフランクの商才に疑問を持ち始めます。

当時は、ビジネスは男性がするもので女性が口を出すべきではないという風潮が一般的でした。それはスカーレット自身にとっても刻まれた考えであったことが描写より伺えます。

フランクも同様の考えでスカーレットが仕事に意見するのを好まず、スカーレットはやきもきする日々を過ごしていました。そんな中、フランクがインフルエンザで療養中に、スカーレットはフランクの帳簿を見る機会を手にします。

フランクがツケによる買い物を許容し多くの未回収金があることを見つけ、その時に出たのがこのセリフです。ここで自分で事業をするという本人にとっても突飛なひらめきを得ます。このひらめきはスカーレットのその後の方向性や運命を大きく変えることになります。

時代の流れを気にせず、自分の夢に向かって邁進するスカーレットの姿は、本作品が人気を集める理由の一つとと考えピックアップしました。

本音で語れる唯一の相手。彼に話せばほっとするだろう。なにしろ、自分のこと、自分の思惑について、本音で語れるなんていつ以来か分からないんだもの。自分の考えを正直に口にするたびに、みんなに驚かれたものだ。

風と共に去りぬ第4巻 ミッチェル p39

フランクの店で帳簿を見ていたスカーレットに思いがけない来訪者が現れます。それは、捕縛から解放されたバトラーでした。バトラーはスカーレットがフランクとお金のために再び愛の無い結婚をしたことをからかいます。

しかし、スカーレットはバトラーとの会話に嫌悪を示すどころか、自分の素が出せる時間として安心感を得ます。更に、スカーレットは会話の様子より、バトラーの来訪の目的がからかうことではなく、自分への心配ではないかと感じ取ります。

二人の特殊な関係性の理由を描く場面としてピックアップしました。スカーレットの突飛な考えを否定せず後押しもするバトラーは特別な存在ですね。

そうなると、バトラーが釈放されるまでの短時間での結婚は前巻でのバトラーからのアドバイスが後押しとなったという皮肉な因果が印象に残ります。もし、そのアドバイスが無かったらどのような展開になっていたのかと妄想してしまいます。

「アシュリは居候じゃないわ、むしろうちを手伝ってくれて-」

「おいおい、頼むよ」レットはいらだたし気にさえぎった。「そんな話はもうたくさんだ。あいつはなんの役にも立っていない。(中略)死ぬまで人に頼って生きていくのさ。個人的にはあんなやつを話題にするのはうんざりなんだがね・・・。だから、いくら入用なんだ?」

風と共に去りぬ第4巻 ミッチェル p60

スカーレットとバトラーの話題はスカーレットの想い人であるアシュリに移り、バトラーがアシュリという存在への苛立ちを表に出す場面です。

製材所を買うための借金を頼むスカーレットに、そのお金の用途からアシュリを外すようにわざわざ名指しするほどの執着を見せます。アシュリの話題はバトラー側から触れていたのですが、「個人的には話題にしたくない」というセリフも気になる点です。

セリフをそのまま受け取るのであれば、アシュリという存在自体には興味は無いが、スカーレットの想い人ということで言及せざるを得ないというバトラーの葛藤が読み取れます。そして、スカーレットが未だにアシュリに未練を持っていることに嫉妬心からか苛立ちがあらわになるという、スカーレットへのバトラーの想いが読み取れる場面です。

「やれやれ、だ!」フランクはうなだれるばかりだった。「あんなに短気で、あんなに怒ると手に負えない女性は初めて見たよ!」

(中略)

スカーレットとしては短気を起こすつもりはなく、フランクの善き妻になりたいと心底思っていた。彼のことが好きだったし、<タラ>を救ってくれて感謝していたから。ところが、彼はひっきりなしにあらゆるやり方で、こちらの忍耐を試すようなことをするので、結局、辛抱の糸が切れてしまう。

風と共に去りぬ第4巻 ミッチェル p72-73

バトラーからの借金により製材所を購入・運営し、収益を出し始めたスカーレット。しかし、女性は家に入るべきという当時の風潮と、バトラーとの頻繁な面会により、アトランタではスカーレットおよびその夫フランクへの悪い噂が飛び交い、隣人関係も疎遠になりはじめます。

フランクはスカーレットに事業から手を引くように再三頼みますが、その態度がスカーレットの逆鱗に触れることとなり、家庭に悪い雰囲気が漂います。

スカーレットは家庭を蔑ろにしようとはしていないし、フランクへの感謝の念もあるのですが、中々上手くいきません。時代の風潮に逆らって何かを成し遂げようとすると人間関係を犠牲にしかねないという、挑戦者の難しさが表現された場面となります。

また、本音を言い合えるバトラーという存在の重要さを鑑みると、何かを成し遂げる上で後押ししてくれる理解者の存在が重要であるなと感じました。


もしバトラーがいなければ、金銭的という観点を差し引いても、スカーレットは事業に取り組むという選択肢は選べなかったのではと思います。

投票ですって?投票がどうしたというの?南部の上流の人々は二度と投票権なんて持たないでしょうに。運命のもたらす災いに確かな砦となるものがこの世にはただ一つだけある。それは、お金。お金を持たなくちゃ。どんな酷いことになっても身を守れるぐらいたっぷりと。スカーレットは強く、強くそう思うのだった。

そしてスカーレットはなんの前置きもなく、子どもができたことを夫に告げた。

風と共に去りぬ第4巻 ミッチェル p95

連邦政府の圧政解放奴隷の横暴が更に高まり、南部の白人達は苦境に立たされます。そんな中、旧友が突然スカーレット宅を訪ねます。彼は妹を黒人からの暴行から守り、そのきっかけとなった人物へ報復をし、縛り首を逃げるためにテキサスへ逃げる途中であることを伝えます。

スカーレットは自分も同じように暴行を受けかねないこと、そして、それを守ろうとした人物が縛り首となってしまうかもしれないという事実から、自分が危険な環境にいることを痛感します。

旧友が去った後も怯え、いつまでこのような状況が続くか尋ねるスカーレットに、南部人の粘り強い結束と選挙により状況を打破できるとなだめるフランクへ反応を示す場面です。

スカーレットは連邦政府が圧政を続ける中で選挙という解決策は非現実的であり、今のような不安な環境から脱出するにはお金を稼ぐしかないと、お金への執着を強めます。スカーレットの金儲けへの貪欲さをより強くするきっかけとしてピックアップしました。

このタイミングでフランクに子どもが出来たことを告げた点について、スカーレットにどのような心境変化があったのかも一つ考察のポイントですね。

婦女暴行が数えきれないほど起き、妻と娘の安全はつねづね脅かされ、それゆえ南部の男たちは冷酷な怒りにわななき、こうしてクー・クラックス・クランが一夜にして誕生したのだった。そして、北部の新聞がもっとも声高に糾弾したのは、この夜行性の組織だったが、幾多の悲劇が重なりやむなくこの結社が誕生した経緯は認識されていなかった。

(中略)こうして、国民の半分があとの半分に銃剣を突きつけ、黒人のルールを押しつけようとするという、驚くべき光景が繰り広げられた。

風と共に去りぬ第4巻 ミッチェル p105-106

当時のアメリカ南部の状況を描写する記述です。歴史は描き方によって見え方が全く異なるなと印象に残ったのでピックアップしました。

南北戦争後の歴史は表面上しか知らないのですが、北部が黒人を奴隷制度を解放した救世主で、KKKは差別主義で暴力的な悪の存在というイメージがありました。

しかし、本書でKKKは北部の焚き付けで暴走する解放奴隷から南部の女性を守るために発足した守護のための組織として描かれます。手段の是非は現代日本の平和に慣れた尺度では正確に推し量れないので置いておきますが、発足の経緯を理解すると印象は大きく異なります。


参加者によって思惑が違ったり、時期や地域によって、差別主義の色が変わったりもあると思うので、全容がどうであったかまでは測りかねますが。

歴史は勝者のものという言葉もありますが、特に戦争系の歴史は両者の立場から情報を集めることが、より正しい状況の把握のために必要だなと感じました。

「人の生き死にと税金というのは、ほんとにもう!ちょうど良い時期なんていうのはないのね!」

風と共に去りぬ第4巻 ミッチェル p132

安定した生活のためお金への執着を増々強めるスカーレット。出産により働けなくなる時期が来るまでに仕事に目途を付けなければと各所で奔走する中での叫びです。

特に人の生き死にの時期は選べないという言葉は、全ての人にとって心に留めておかなければいけない言葉だなと感じピックアップしました。


日々の過ごし方や、大切な人との時間の過ごし方を見直すきっかけとなる言葉と感じました。

スカーレットは短く笑って言った。「そんなふうにお感じになるとはふしぎですわね。黒人を解放したのはあなたがたじゃありませんか」

「何それ!わたしが解放したんじゃないもの!」メーン女は笑いだした。「先月、南部に来るまで、黒人なんてみたこともなかったのよ。もう一人も見なくてけっこう。見るだけでぞっとするわ。あの連中のだれかを信用するなんて無理な話・・・」

風と共に去りぬ第4巻 ミッチェル p141

商売のために、怒りの感情を殺し北部人とも交流するスカーレット。その中で黒人への意識の違いを痛感するシーンです。

奴隷解放を推し進めた北部側は、黒人に好意的であるという印象が個人的にもありましたが、北部人の方が黒人に対して差別的な態度を示すやり取りが描写されます。

他の場面でも、北部は黒人との共存ではなく、元の地域(アフリカ)への送還を意図していたという記載があり、南北戦争への印象が大きく変わりました。


映画の方では黒人の扱い方が差別的だという批判もあったため、本書の情報のみでは不十分で、当時の状況をよりよく知るためには黒人視点の記録も見る必要があるかなと感じています。

「ええ、貧乏はまっぴら」スカーレットは間髪いれずに答えた。「けど-正しい選択じゃなくて?」

「一番に求めるものがお金であるならね」

「ええ、世界のなによるもお金が欲しいわ」

「だったら選択の余地はなかっただろう。しかし代償は伴う。たいていなにかを得るには何かを失うものだからね。その代償とは、孤独だ」

そう言われると二の句が継げなかった。

風と共に去りぬ第4巻 ミッチェル p158

事業監督のため、フランクや周囲の人の反対を押し切り、街から離れた製材所へ通うスカーレット。黒人の横暴が激化し危険な状況でしたが、協力をお願いできる人がいないため、身持ちながら馬車で1人で通うことを余儀なくされていました。

そんな中、バトラーが道中に頻繁に現れ同乗し、馬車の操作を引き受けます。上記はその道中で、頑張っている自分を人はなぜ悪く言うのか、スカーレットが悩みについて愚痴る中での会話となります。

<タラ>を守るため、自分と子供の安全な生活を確保するため、お金もうけを最優先とするスカーレット。当時の常識や周りの意見を無視した選択肢を続けた結果交友関係は減り、特に南部の女性の話し相手はほとんどいない状況を招き寂しさを募らせます。


この孤独な状況であるからこそ、本音で話せるバトラーが特別な存在になるのでしょう。バトラーは世間体にとらわれない生き方の先輩なので、スカーレットの立場を理解できる数少ない一人でしょうし。

強い意思を持ち苦難に立ち向かう姿が魅力スカーレットですが、その選択により生まれた葛藤に悩む人間らしさも描かれることで魅力がより惹きたてられますね。

自分の目標に向かってなりふり構わず突き進むことと、周囲の人間関係を維持することの並行の難しさを示唆する場面であり、印象に残ったのでピックアップしました。

ビジネスは人との間で行うもの、だからこそ周囲の人の反応を無視すると人が離れ使える手段が狭まり、より孤立が深まるという因果の連鎖スカーレットを徐々に暴走させ悲劇の道へ誘います。


この孤独な状況であるからこそ、本音で話せるバトラーが特別な存在になるのでしょう。バトラーは世間体にとらわれない生き方の先輩なので、スカーレットの立場を理解できる数少ない一人でしょうし。

また、「出る杭は打たれる」状況は日本で強くみられる傾向と思っていましたが、海外でも同様の傾向が多少なりともあるのだなと感じました。

「そんな暑苦しい膝掛けにくるまっておきながら、わたしにばれないと思っていたとしたら、よほどのねんねだな。分かるに決まっているじゃないか。そうでなければ、どうしてわたしがいつもきみを-」

レットは不意に言葉を切った。二人の間に沈黙がおりた。レットはふたたび手綱を手にとると、舌を鳴らして馬に出発の合図をした。

風と共に去りぬ第4巻 ミッチェル p164

当時の南部アメリカは身持ちの女性がその姿を人に見せるのははしたなく話題にするのも避けるべきという風潮があり、スカーレットの中でもその意識が植え付けられています。そのため、膝掛けで妊娠を隠しているつもりでしたが、バトラーから妊娠について触れられ赤面します。

赤面するスカーレットに妊娠はバレバレであることを告げるバトラーですが、スカーレットを心配していることをうっかり勢いで漏らします。バトラーがスカーレットに対する気持ちを直接表現する珍しい場面であるためピックアップしました。

バトラーはスカーレットを心配して、製材所の道中でスカーレットを待っていたことが分かります。スカーレットに対しては不器用なバトラーの振る舞いが印象的ですね。

バトラーはあわせて、1人で危険な道を行かないように、また馬車を引く馬をおとなしい馬にするように、スカーレットを気遣う助言を送ります。また、前者はスカーレット自身の体の危険ではなく、KKKや連邦政府も絡む復讐と報復の連鎖による、スカーレットの財産や周囲への危害の懸念も指摘します。

バトラーが本気でスカーレットの身を案じているのが分かると同時に、スカーレットの振る舞いが周りに与えかねない悲劇を示唆する場面です。

事業を開始し新たな挑戦を続けるスカーレットですが、不穏な気配が本格的に広がりはじめます。緊張感が高まる中、スカーレットとその事業の運命はどうなるのかが後半の見どころです。

それではまた次の記事で!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA