どうもです!梅雨に入りジメジメと過ごしにくい日が続いていると思ったらいつの間にか梅雨明けして猛暑が押し寄せてきていますね。
そんな時こそ気分転換、ということで今回はマーティン・セリグマン氏の「オプティミストはなぜ成功するか」(訳:山村宜子氏、パンローリング株式会社)をテーマに楽観主義とその重要性について学んでいきます。
よく楽観主義と悲観主義という言葉を耳にします。それぞれ物事をどう捉えるかの見方の傾向であり、その傾向により同じものを見ても違う認識・受け取り方となり、その結果、行動・習慣・成果が変わってくると筆者は指摘します。
それではどちらの方が成果に繋がりやすいのでしょうか?筆者は一概に言い切れないとしつつも、楽観主義の方がいい成績に繋がりやすいことを、25年にわたる研究の結果発見し、本書で具体的に紹介します。
楽観主義の人の方が成果に繋がるのであれば、気になるのは、「悲観主義傾向の人は楽観主義の恩恵を得ることが出来ないのか」という点です。楽観主義か悲観主義は変えるのが難しい、性格や習慣に近い特性のように感じます。
しかし、筆者は後天的にも楽観主義の考え方を取り入れて恩恵を受けられると主張し、本書内で具体的な方法を掲示します。
楽観主義と悲観主義で具体的にどのような違いが生まれるか?そして楽観主義を自分もしくは組織、教育に取り入れるにはどうすればいいかを学べる一冊となっています。
本書について
筆者について
筆者はペンシルバニア大学心理学教授であるマーティン・セリグマン氏です。筆者はなんとアメリカ心理学会の元会長であり、動機づけ理論の第一人者で学習性無力感の権威と多くの経歴と実績をもっています。
そんな筆者が4冊シリーズとして著書を記したのが今回取り扱うポジティブ心理学であり、筆者曰くその一冊目の人気とそれに伴う研究結果の評価がアメリカ心理学会会長のお陰でもあったと語ります。
筆者はポジティブ心理学についてTED Talkでも講演を行っていますのでそちらも是非ご閲覧ください!
ポジティブ心理学とは?
筆者はこれまでの心理学の問題点として病気を治す手助けはできても、人を幸せにするためには貢献出来てこなかった点に着眼します。
心理学は病気について、苦しみについて、悩みについて多くのことを分析し、悲しみや不安と戦う方法を見つけ出してきた。しかし、もっと幸せになる方法の見つけ方は、遊園地や、ハリウッドやビールのコマーシャル任せになっていた。科学は何の役目も果たしてこなかったのだ。
マーティン・セリグマン オプティミストはなぜ成功するのか?p4-5
従来の心理学では人の幸福につながらないという視点は最近までテーマとしていた「完全なる人間」の著者のマスロー氏と共通点を感じますね!
この問題点を解決するために筆者が発展させたのが、「ポジティブ心理学」であり、幸せを追求すると下記の3つの形になると主張します。
- “心地よい人生”のために「大切なのは幸せになりたいという意欲」と信じ、ポジティブな感情を拡大するためのスキルを学ぶこと
- “ものごとに没頭する人生”のために「あなたにとっての強みと美徳」を発見し、職場、恋愛、友情、子育て、娯楽に最大限に使えるよう人生を練り直すこと
- “意義のある人生”のために「幸せというゴールを目指して」、何か自分より大きな存在に帰属し、奉仕するため、自分の才能と力を最高の形で使うこと
そして上記を達成する上で楽観主義が重要な鍵となり、本書がその鍵を身につけるきっかけとなると筆者は主張します。
楽観主義か悲観主義は生まれつきの特性のように感じますが、後天的に楽観主義の考えを活用できると筆者は主張し、その方法が本書の第三部で紹介されます!
本書の構成
本書は三部構成の全15章で構成されます。
- 第一部 オプティミズムとは何か
- 第1章 人生には二通りの見方がある
- 第2章 なぜ無力状態になるのか
- 第3章 不幸な出来事をどう自分に説明するか
- 第4章 悲観主義の行きつくところ
- 第5章 考え方、感じ方で人生が変わる
- 第二部 オプティミズムが持つ力
- 第6章 どんな人が仕事で成功するか
- 第7章 子どもと両親-楽観主義は依存するか
- 第8章 学校でいい成績を上げるのはどんな子か
- 第9章 メッツとビオンディはなぜ勝てたか
- 第10章 オプティミストは長生きする
- 第11章 選挙も楽観度で予測できる
- 第三部 変身-ペンミストからオプティミストへ
- 第12章 楽観的な人生を送るには
- 第13章 子どもを悲観主義から守るには
- 第14章 楽観的な会社はうまくいく
- 第15章 柔軟な楽観主義の勧め
第一部では前提となる人の認識や習性部分に触れながら、楽観主義と悲観主義とは一体どういうことで人生にどのような影響を与える傾向にあるかを紹介されます。
第二部では、具体的な研究結果を示しながら、楽観主義の持つ力を説明します。
成績や成果のみでなく、健康にまで影響を与えるというのが驚きでした。
第三部では、人生を幸福に導く楽観主義の考え方を身につける方法を、汎用的、子育て、組織、実践的な視点で紹介します。
本書で学んだ点
楽観主義と悲観主義とは?
楽観主義者(オプティミスト)と悲観主義者(ペンミスト)の特徴を筆者は下記の通り説明します。
- 楽観主義者:敗北は一時的なもので、原因もこの場合だけだと考える。挫折は自分のせいではなく、その時の状況だとか、不運とか、ほかの人びとによるものだと考える
- 悲観主義者:悪いことは長く続き、自分は何をやってもうまくいかず、それは自分が悪いからだと思い込む
本書では48個の2択問題に回答することで自分の楽観度を確認できる、特性診断テスト(ASQ, Attributional Style Questionnaire )も紹介されており、自身が持つ傾向を診断できます。
私は良いことに対しての捉え方が悲観的で、全体的には普通という診断結果でした。
悲観主義が自己反省を促し物事や状況の改善に役立てばいいのですが、むしろ改善の妨げとなる側面があることを筆者は研究結果より指摘します。
二十五年の研究から私が確信をもって言えるのは、不幸は自分の責任であり、永続的で、運が悪いから自分は何をしてもうまくいかない、と常に信じ続けている人は、そう思っていない人よりもさらに不運に見舞われることが多い。またこういう見方にとらわれていると、うつ状態に陥りやすく、能力以下の成績しか上げられず、病気にもかかりやすい。悲観的な予測はそのとおりの結果を招くのだ。
マーティン・セリグマン オプティミストはなぜ成功するのか?p29-30
悲観主義は全てが悪では無く良い側面もあるのですが、“学習性無力感”を引き起こすことが問題となります。
学習性無力感とは?
学習性無力感とは、何をしても状況を変えられなかった経験により、努力をしても無駄だという考えを身につけてしまうことによる無力感を指します。
筆者はこの現象を動物実験で発見します。静電気レベルの弱い電気ショックを与えた動物が、逃走を学習するかという実験で、逃げられるはずの状況でも何もせず電気ショックを受け続ける無抵抗な個体が多く確認されたのです。
筆者は悩んだ末、この現象を解明することを決意し、3パターンに動物を分けました。
- ある行動(ボタンを鼻で押すこと)で電気ショックを逃れられるグループ
- 何をしても電気ショックから逃れられないグループ
- 何もショックを受けないグループ
その後、直ぐに飛び越えられる仕切りが入ったボックスで同様にショックを与えました。仕切りを飛び越えられれば直ぐにショックから逃れることが出来る状況です。
結果として、回避できない不快状況を経験したグループで多くの個体が無抵抗状態に陥ることを確認しました。どうにもできない状況を経験することで何をしても無駄という無力感を学習したのです。
この結果は問題を解ければ不快な音が止まるという実験(1つのグループは絶対に解けないように設定)により人でも確認されました。
学習性無力感が生まれると、何をしても無駄という気持ちから、行動や挑戦が阻害され、その人は能力を十分に発揮できず人生の可能性が狭まることを意味します。この状態が継続するので人生の幸福度にも大きくマイナスに寄与するでしょう。
となると人生の幸福を上げるにはこの学習性無力感を回避することが大事となります。そしてこの学習性無力感を左右するのが、自分への説明スタイルとなり、この説明スタイルが楽観主義と悲観主義で大きく異なるポイントとなります。
特性を左右する自分への説明スタイル
上記の実験において、同じ状況でも無抵抗状態に陥らない個体が人でも動物でも一定数確認されました。同じ状況でも得られた学習結果は異なり、結果として行動パターンまで変化が生まれたのです。
そして筆者はこの違いを生んだのは説明スタイルの違いであると指摘します。
説明スタイルとは、起きた事象についてそれをどのように解釈するかのスタイルとなります。この解釈が異なると同じ状況を経験しても得られる影響が変化します。
筆者は特にこの説明スタイルの内、永続性、普遍性、個人度の3つの要素に着目します。
永続性
ある出来事自体もしくはその影響の時間的な継続度に関する認識を指します。
例えば悲観主義の人びとは悪いことは続くもので、自分の人生に悪い影響をいつまでも与えると考えます。
失敗は誰にも一時的な無力感と挫折を与えますが、不幸を永続的な理由で説明する人は一つの失敗をいつまでも引き摺りやすく、無力な期間が長期化しやすくなります。
一方で楽観主義の人は不幸の原因を一次的なものと考え、失敗からの立ち直りが早くなります。
良い出来事に対する反応は真逆となり、悲観主義では原因を一時的なものやたまたまと考えるのに対し、楽観主義では特性や能力、”いつも”といった永続的な理由で説明し、自身の自信を強化し、挑戦や努力が更に出来るという好循環を生みます。
普遍性
ある出来事の理由が他の出来事にも影響する全般的な理由か、ある特定の場面でしか影響しない特定の理由によるものか、影響の範囲の幅に関する認識を指します。
悲観主義の人は失敗の原因を普遍的な理由で説明しがちです。
例えばある交渉に失敗した時、悲観主義の人は自身のコミュニケーション能力が無いからだと思うかもしれません。
コミュニケーション能力に理由を求めてしまうと、交渉自体どころか、仕事以外の場面でも社交を避けようとする誘因となりかねません。一つの失敗がその他の活動のブレーキになってしまうのです。
一方で「その場面の経験が少なかったことが理由で次は対策が取れる」と考える人は、立ち直りも早く他の場面への悪影響も少ないでしょう。
他の視点としての普遍性としては、一つの経験で似たような場面全体に対して評価をしてしまうという状態もあげられ、例えばその組織とは交渉がもうできないと判断してしまうかもしれません。
主語が大きくなる傾向のある人もこの普遍性という特性を持っているといえるでしょうか。
楽観主義の人は、たまたま交渉相手との相性が悪く他の人であればうまくいった、もしくは同じ相手でも機嫌が悪かっただけで次回はうまくいくかもと捉えるため、次の機会へ前向きに挑戦できます。
良い出来事に対する説明パターンは普遍性についても逆転し、楽観主義では自分の能力や特性という普遍的な理由で説明し、一つの成功が他の分野の自信にも繋がるのに対し、悲観主義では特定の場面に限定されると認識してポジティブな影響の拡張性が見られません。
この永続性と普遍的という観点は人の希望度に影響し、不幸な出来事に一時的で特定の理由で説明できる人が希望を手にすると筆者は主張します。
私たちが希望を持っているかどうかは、説明スタイルの二つの側面、普遍性と永続性にかかっている。不幸な出来事に一時的で特定の原因を見つけるのは希望のなせる業だ。原因が一時的であると考えることによって、無力状態を時間的に制限できるし、特定の原因によるものだと思えば、無力さをその状況のときだけに限定できる。反対に、永続的な原因だとみなせばずっと将来にまで無力状態は続き、普遍的な原因だと思えば何をやってもだめだということになる。不運な出来事に永続的で普遍的な原因を見つけるのは絶望のもとだ。
マーティン・セリグマン オプティミストはなぜ成功するのか?p90
個人度
もう一つの説明の観点は個人度で、これは責任の所在を自分に求める(内向性)か、他人や環境に求めるか(外向性)によります。
過度に自分の責任を責める時、自己評価は低くなります。また、悲観主義の人は良いことがあった時はその理由を外部にあると認識するので自信の回復も難しくなります。
ちなみに筆者はこの個人度については、なんでも他人の責任にするのは問題で危険であると指摘し、なんでもかんでも内向性を外向性にするべきではないと注釈します。
唯一の例外はうつ病のときで、この時人は必要以上に自分を責めすぎてしまうため、確実に内向性から外向性に説明方法をシフトするべきと筆者は説明します。
それ以外の場合では、自分を変える意味で重要なのは内向性・外向性ではなく、永続性であり、不幸に対して一時的な説明が出来れば、人は自分を変える原動力を得られると筆者は主張します。
楽観主義が持つ力:成果のみでなく健康にも繋がる?
それでは具体的に現実世界で楽観主義はどのような成果に繋がるのでしょうか?
筆者は前述の自身への説明スタイルという観点を元にした楽観主義診断テストを様々な場面で試し、成果との関係性を紹介します。
生き残りと売り上げへの影響
まず最初に試した場面は、保険会社のまず最初に試したのは保険会社の営業でした。採用の際に実施される様々な適性診断にあわせて、離職率という継続性と売り上げという成果との関係性を比較しました。
その結果、楽観度テストは他の適性診断が予測できない誰が挫折せず生き残るかを予測し、生き残った中でもを他の診断と同等の精度で売り上げ上位者を予測できることが分かりました。
しかし、保険の営業は失敗の繰り返しの中で挑戦を続けて営業につなげていく、楽観主義者向けの少々特殊な環境という印象も受けます。
自分の能力よりも高い成績を収める物
次はより汎用的な観点で、大学での成績に着目した結果を紹介します。その大学では高校の成績を含めた3つの基準を組み合わせて審査を実施していましたが、予測と入学後の成績に乖離があるとし、筆者に成績に影響する別の要素が無いかの調査を依頼します。
筆者の調査の結果、1学期の段階でなんと1/3もの生徒が予想よりはるかに良いか、逆に悪い成績を収めていることがわかったのです。
そして、自分の才能、既存の3つの基準からの予想以上の成績を収めたのは全般的に楽観主義者で、悲観主義者は逆に予想より悪い成績を示す傾向が確認されました。
これは大学という初期の段階ですら、スタートラインに立てるかの評価に関する従来の基準が不完全であることを意味し、本来の個人の可能性の芽を至る所で摘んでいた恐れが示唆されます。
筆者は上記等の結果を踏まえ、才能は過大評価されていると指摘し、楽観度を考慮せずに能力を判断するのはほとんど無意味であると主張します。
私に言わせれば、”才能”は過大評価されすぎている。才能の測定方法は不完全であり、その結果が将来を予測する要素として不完全であるだけでなく、従来の考え方は間違っている。低い得点を補ったり、せっかくの高い才能を損なう作用のある説明スタイルを考慮していなかった。
マーティン・セリグマン オプティミストはなぜ成功するのか?p214
組織における楽観度と成績
また、筆者は調査をスポーツ、それも団体競技に拡大します。メジャーリーグのチームについて、監督やメンバーのインタビューでの発言を調査し、移籍等の影響を差し引いた上で翌年の成績との関係性を調査しました。
その結果、組織として楽観的な説明を好む環境を持つチームの方が、悲観的な説明の傾向があるチームに比較し、翌年の順位が上がりやすい傾向があることを確認します。
特にこの影響はプレッシャーのかかる場面での打率で特に顕著に確認され、年を変えて実施された再調査や他の競技(バスケットボール、水泳)での調査でも同様の結果が確認されました。
つまり、この楽観主義の恩恵はスポーツ、それも団体競技におけるチームの雰囲気・文化という観点でも確認できることが分かったのです。
アスリートやコーチにとってこれらの報告は見逃せない知見となるでしょう。
楽観主義者は長生きする?
更に筆者は世界中かの実験室から楽観主義が良い健康状態を生み出すことを科学的に証明する科学的な証拠がどんどんもたらされており、楽観主義が成績や成果のみでなく、人々の健康にも好影響を及ぼすことを紹介します。
筆者は楽観主義が健康に好影響を与える(もしくは無気力状態が人の健康に害を与える)理由を下記のように4つの観点で説明します。
- 無力状態が言動のみでなく、細胞レベルで機能低下に繋がるため。無力状態に陥ると免疫機能が低下することが動物実験で確認されている。
- 楽観主義の方が健康のための努力や助言に前向きに取り組めるため、悲観主義者は自分の健康は自分の行動でコントロールできないと信じているので、健康のための努力を放棄してしまう。
- 人は不幸が多いほど病気にかかりやすいことが統計で説明されている。悲観主義者はその無力感より不幸を回避しようとできないため、経験する不幸の量が多くなり、その結果病気にかかりやすくなる。
- 親密な友情と愛情関係を保つことは、健康維持に重要であると考えられる一方で、孤独は健康に悪影響をもたらす。楽観主義の方が友情・愛情関係を持ちやすく、彼らより必要な支援を受けたり孤独も回避しやすい。
実際に、説明スタイルを変えることで癌治療に役立てるという試みまで生まれ、説明スタイルを変えるための認知療法により、癌の治療に寄与する免疫細胞の活性が高まることが確認されました。
まだ実際に病気の進行阻止に役立ったか、治療に役立ったかについては十分な証拠が集まっていない状況といえ、楽観主義への考え方のシフトが治療に役立つ可能性が示唆されたのです。
もし楽観主義が健康にまで寄与するのであれば、いよいよその影響力は無視できませんね!
終わりに
今回は楽観主義について、人の説明スタイルや楽観主義の力という部分に着目して整理しました。
楽観主義は各種の成果のみならず、健康、そして人生の可能性を広げる原動力となることが分かりました。
となると次に気になるのは、「後天的に楽観主義になれるのか?」という点です。もし、この特性が生まれつきで決まってしまうのであれば、悲観主義傾向の人は増々悲観に暮れることとなるでしょう。
ご安心ください!筆者は後天的にも楽観主義の考え方を身につけられると主張するのみでなく、様々な角度からのアプローチを紹介しています!次回はそのアプローチについて触れていきますのでお楽しみに!
それではまた次の記事で!