名作を読んでみる「風と共に去りぬ」第五巻-3/3:読書日記

名作を読んでみるシリーズ、「風と共に去りぬ」第五巻、最終巻を読み進めています。初回はこちらで前回はこちら

スカーレットとバトラーは夫婦になったものの、お互いの不器用な感情表現とすれ違いのため、二人の距離は縮まりません。それどころかボリーの出産、スカーレットからの夜の時間の拒絶、アシュリとスカーレットとのスキャンダルと様々な出来事が二人の関係をこじらせていきます。

そして、バトラーとの二人目の子供の妊娠を告げた際、バトラーの屈辱で軽薄な態度に激昂したスカーレットは階段から足を滑らせ病床に臥せることとなったところまでを前回の記事で取り扱いました。

今回は更に二人の関係に決定的な影響を与える出来事が起きてしまいます。二人の関係や周囲の人々の行く末はどうなるのか?

結末へ向けて早速続きを見ていきしょう!


今回は完全に結末のネタバレに触れざるを得ないので、これから読む予定がある方は特にご注意をいただけますと幸いです!

登場人物:今回の記事に関係する人と情報に限定(新潮文庫より引用)

  • スカーレット・オハラ:本作のヒロイン。大農園主<タラ>に生まれ、最初の夫チャールズとの間に長男ウェイドを、再婚したフランクとの間に長女エラを得たが、どちらの夫とも死別した。製材所を経営する。
  • ジェラルド・オハラ:スカーレットの父。妻エレン亡き後自失の日々を送るが、落馬事故により死去。
  • メラニー:愛称メリー。アシュリ・ウィルクスの妻で、ボーと呼ばれる子を生んだ。
  • アシュリ・ウィルクス:スカーレットが想いを寄せるウィルクス家の長男でインディアの兄。スカーレットの経営する製材所に勤めつつ、KKKに関わる。
  • マミー:もとはエレンの実家に仕え、スカーレットの乳母でもあったオハラ家の使用人
  • フランク・ケネディ:スカーレットと結婚し、商店を経営していたが、KKKの活動に関わり落命。
  • ピティパット・ハミルトン:チャールズとメラニーの叔母
  • ピーター爺や:ハミルトン家の使用人
  • ウィル・ペンティーン:復員後、<タラ>を担い、ジェラルド没後にスカーレットの妹スエレンと結婚した。
  • ベル・ワトリング:アトランタで売春宿を営む。
  • レット・バトラー:南北戦争中、密輸で巨利を得た無類漢。戦後は北部人と結託するが、KKK襲撃事件で南部名士たちの命を救う。

第五部

不安はなるべく心の奥底に押しやり、過酷な世界から身を護る例の言葉を唱えながら、今日もまた逃げていくのだ。

「いまは考えるのはよそう。いま考えたら挫けてしまう。あした<タラ>で考えよう。あしたは今日とは別の日だから。」

青々とした綿畑の広がる静かな故郷に帰れば、あらゆる苦悩もかき消えて、千々に砕けた考えをなんとかまとめなおして、人生の指針を見つけられる気がする。

風と共に去りぬ第5巻 ミッチェル p353

階段からの落下により、心にも体にも深い傷を負ったスカーレット。憂鬱な気分を一掃するため、<タラ>にいったん帰ることを決めるシーンです。

あしたは今日とは別の日はどんな苦難にも立ちあがるスカーレットの強さを象徴する言葉です。原文の‘Tomorrow is another day.’はそれだけで有名なので、聞いたことがある方もいるかもしれません。日本で言えば明日は明日の風が吹くでしょうか。


横浜DeNAベイスターズのラミレス元監督が試合後インタビューでよくおっしゃっていたのが、個人的には記憶に残っています。

実際にスカーレットはこれまでもこの言葉で気持ちを切り替え、幾多の苦難を乗り越えており、今回も<タラ>への帰還後、順調な回復をみせます。

スカーレットの立ちあがる強さを象徴すると同時に、<タラ>という土地がスカーレットの力の源となっていることを象徴する場面となります。

「いえいえ、ボーのことではありません。ボーよりもあなたにあるものを差し上げたいのです。お分かりになるでしょうか」

「いえ、想像もつきません」メラニーは面食らっていた。

(中略)

「お力添えくださるなんて、本当にご親切に、バトラー船長。でも、わたしは恵まれているんですのよ。どんな女性も欲しがるものを残らず持っているのですから」

「それはなによりです」レットは言って、急におごそかな顔になった。「ならば、それがいつまでもあなたの元にあるよう、力を貸しますよ。」

風と共に去りぬ第5巻 ミッチェル p362

スカーレットが<タラ>で療養中、バトラーはスカーレットが製材所を手放すように計略を練ります。アシュリに製材所を買い取らせるための計画への協力をメラニーに仰ぎ、上記はその中でのセリフとなります。

バトラーはスカーレットより、むしろメラニーの役に立ちたいと告げますが、メラニーは欲しいものは既に持っていると返します。


ここも、スカーレットとメラニーの性格の対比となる場面ですね。バトラーにはどのように映ったでしょうか。

この場面には、様々な考察が出来そうな意味深なセリフが多く含まれています。特にバトラーがメラニーに「差し上げたい」ものとは何なのかが、大事なポイントと感じます。

個人的には、メラニーが体調より我慢してきたあるものと考えているのですが、そう仮定すると、何故バトラーがこのタイミングでそれを示唆するのか、メラニーが本当にそれを望むのかという点など、すっきりしない点がいくつか出てきます。

意味深さから印象に残った部分であったので、ピックアップしました。

二つの製材所はわが愛しの人であり、誇りであり、この小さな手でつかんだ果実だった。(中略)こういったものと別れを告げるのは、人生のある部分の扉を永久に閉ざすことだった。苦しくてつらくもあるが、思いだすとなつかしさで満ち足りるような人生の一幕でもあった。

風と共に去りぬ第5巻 ミッチェル p374

バトラーの計略通り、スカーレットは製材所を手放すことを宣言します。それもバトラーの売り言葉に買い言葉という、強情な性格が災いした勢いに任せた決定でした。

ここは、自分の人生の誇りとなるものを手放す時の、寂しさに似たスカーレットの心情表現が非常に印象に残ったのでピックアップしました。

そして、そんな大事な人生の誇りをその場の勢いで手放してしまうスカーレットの性格描写も印象的です。


自分だと、何が人生の誇りを担っているのか、考えてみるのも今後の人生の選択を間違えないためにも重要だと感じました。

「わたしを見てちょうだい!わたしがどうやってお金を稼いだか知っているでしょう。わたしがお金を稼ぐようになる前はどんな状況だったかも!あなたは憶えてる?(中略)」

(中略)

「ねぇ、あの頃のわたしたちはだれも幸せだったとは言えないわよね?それに比べて、いまのわたしたちをごらんなさいよ!(中略)」

(中略)

「そして、お金持ちになってきみはとてもとても幸せだった、そうだろう、ダーリン?」レットはやさしい声で辛辣に問いかけた。

(中略)

スカーレットは「でも、幸せだと思って当たり前じゃない!」と叫びかけた。でも、どういうわけか言葉にならなかった。

風と共に去りぬ第5巻 ミッチェル p380-381

アシュリに売った製材所の経営方針を聞いたスカーレット。アシュリは他人を苦しめて得たお金からは決して幸せが生まれないと持論を述べ、囚人のリースによるコストカットというスカーレットの経営方針からの変更を告げます。

アシュリの発言を自分の努力と人生の否定を感じたスカーレットは、現在の自分の栄光を根拠に、どんな方法でもお金を稼ぐことが至上であると反論しようとしますが、自分が幸せであるという宣言が言葉になりません。

ここでは、念願のお金持ちになっても満たされていないという違和感スカーレットの中で表面化していることが描写されます。

言葉にならない叫びの中の「でも」という文頭から、スカーレット自身も自分が幸せでないと自覚していることが読み取れるでしょう。スカーレットは自分の人生の選択に誤りがあったのではと徐々に感じ始めます。

周囲との人間関係、子どもとの愛情、自身の恋愛、いろんなものを犠牲にしながら、過去を振り返らず自分を信じ突き進むことでようやく手に入れた栄光が、幸福に繋がらないという冷たい現実がスカーレットを襲い始めます。

内心でどれだけ嫌っていようと、ヤンキーたちに取り巻かれて過ごし、旧友たちにも縁を切られ、かつての生き方を捨てたのが、いまの自分だ。だというのに、ここへ来てヤンキー支配が終わりを告げたとは。スカーレットはブロック政権の継続に賭けて負けたのだ。

(中略)

ジョージア州にとってこの十年のうちで最高に幸せなクリスマス、スカーレットはまわりを見わたして不安に駆られていた。かつてはアトランタ一の鼻つまみ者だったレットが、いまや一番人気のひとりであることにも、どうしても気づかされた。

(中略)

街の人々はみんな微笑みかえし、嬉々としてレットと言葉を交わし、幼い女の子を愛おしげにみやるのだった。それに引き換え、スカーレットは-

風と共に去りぬ第5巻 ミッチェル p395-396

南北戦争での敗戦後、北部(ヤンキー)勢力の政権がアトランタを含むジョージア州をずっと占拠していましたが、選挙の結果、南部勢力が政権を取り戻した際のスカーレットの心境を描写した場面です。

南部政権の復活は、スカーレットにとっても喜ばしい出来事のはずですが、スカーレットの気持ちは晴れません。

スカーレットはこれまで南部を侵略した北部を憎みながらも、お金を稼ぎと地位の安定のためにヤンキーとの交流を選択します。その結果、南部人からは裏切り者として旧友から見捨てられてきました。

選挙による政権奪還、スカーレットはかつて夢物語と一笑しており、支配が続く北部勢力に取り入ることが現実的と思い込んでいました。この政権の奪還は、結果論としてスカーレットが選択を間違えていたことを意味します。


諸行無常なこの世において、1つを過信した全投資は危険性が高いことの教訓となる場面となります。

さらにこれまで最大の理解者でよき話相手であった似た者同士のバトラーアトランタに受け入れられていることは、スカーレットの孤独をより強調します。

スカーレットは自分にとって交流を結びたい大事な人々はもはや周囲にいないという事実を痛感します。

そしてさらに決定的な事件、愛娘ボニーの事故死が、孤独に苦しむスカーレットに襲い掛かります。

「いま、スカーレットさまは神さまに賜ったものは耐えられると申しました。これまでにもいろんな苦労に耐えてきたお方ですから。でも、レットさまは-。メリーさま、あの方はご自分の意に染まないことは我慢したことがないんです。なにひとつ。それがあの方なんです。それで、ご相談にきたんです」

(中略)

「メリーさま、レットさまは、その-気が変になっちまったのです。お嬢ちゃまを動かしてはいけないとおっしゃって」

風と共に去りぬ第5巻 ミッチェル p410

スカーレットとバトラーとの娘ボニーはバトラーの寵愛を受けすくすく育っていましたが、落馬事故により絶命してしまいます。この事件は二人の関係に決定的なダメージを与えます。

特にバトラーは振る舞いを変えてまで愛を注いでいた愛娘の死にショック隠しきれません。さらに、スカーレットは、ボニーを殺したのは乗馬を監督しておりボニーのわがままを止めなかったバトラーであると糾弾してしまいます。

慰められるどころかさらに傷を負ったバトラーは気が変になってしまいます。スカーレットも自身の振る舞いを後に悔いますが、謝罪や慰めの機会は訪れず二人の距離は決定的に離れてしまう重要な場面となります。

そんな絶望的な家庭状況の中で使用人のマミーが救いを求めたのは、バトラーが唯一一貫して礼節を持って接するメラニーでした。

これまでほとんど動揺を示す場面が無かったバトラーの意外な心の弱さが表れます。一方で、度重なる苦境に対して立ち上がるスカーレットの強さがここでも描写されます。

その素早い立ちあがりの過程では、本人にも強い苦悩と苦労があるのですが、娘の死に対しても薄情な母親としてアトランタ市民の目に映ってしまうという悲しい展開も印象的でした。

メラニーは疲弊したようすで、まつ毛には涙が光っていたが、その顔にはおちつきがもどっていた。

「スカーレットさまに、バトラー船長は明日の午前中にご葬儀をとりおこなうおつもりだと伝えてらっしゃい」

(中略)

「そうよ、バトラーさんが少しお休みになるなら、ボニーのお夜伽はわたしがしますからってお約束したの。さあ、早くスカーレットさまに伝えてきなさい。これ以上気を揉まなくてすむようにね」

風と共に去りぬ第5巻 ミッチェル p424

気が変になり、ボニーの葬式を拒否するバトラーの説得にメラニーが成功する場面です。

ここは本作品で最も意味深な場面の一つだと感じています。メラニーがバトラーをどのように慰め説得したのか、直接的な記述はありません。様々な想像を生む場面としてピックアップしました。

個人的にはメラニーからのスカーレットの敬称が「さま」になっているのも気になりました。大抵親しみより呼び捨てか、「さん」付けであったのですが。このような細かい表現の変更が、意図した描写である可能性があるという構成の緻密さが本作にはあります。

再び沈黙があり、メラニーは力を振り絞ってまたしゃべりだそうとする顔をした。

「アシュリのことも」と、メラニーはつづけた。「だって、アシュリとあなたはー」そう消え入るように言って静かになった。

アシュリの名を聞いたとたん、心臓が止まって、石のように冷たくなった。メラニーはずっと知っていたんだ。

風と共に去りぬ第5巻 ミッチェル p449

アシュリとのスキャンダル階段からの落下による流産娘ボニーの事故死と怒涛の展開が続きますが、スカーレットを襲う悲劇は止まりません。旅行中のスカーレットの元に、メラニーが病気である旨電報が届きます。

スカーレットにとってもはや唯一の支持者と呼べるメラニーの危機に、スカーレットは無事を祈りながらアトランタへ向かいますが、すでに危篤状態であり、スカーレットはメラニーの死を悟ります。

病床で最後の会話を交わす二人。そこでメラニーからの衝撃の発言が上記となります。なんと、親しい人を疑うこと自体を知らなそうなメラニーが、スカーレットとアシュリが愛し合う関係であることを知っていたことが分かります。

スカーレットを含め、周囲はメラニーを理想の貴婦人としてとらえていましたが、誰にも悟らせない一面があったことが分かります。二人の関係を知ったのがいつかにもよりますが、これまでのメラニーの心情がどういったものであったかの見方が大きく変わってきます。

特にスカーレットとアシュリのスキャンダルについては、一貫してスカーレットを擁護し、スカーレットも含めその事件への言及を許しませんでした。

もしこの時に二人の関係を知っていたのであれば、言及を禁じたのは感情の揺らぎによりスカーレットやアシュリとの関係を壊したくなかったためという見方もできると感じました。


また、メラニーは二人目の子供は望めないことはわかっていたはずなのですが、なぜ妊娠してしまったのか。というのも本作品で考察しがいのあるポイントです。本作中では明言されないので、真相は作者の胸の内でしょうか。

退室するスカーレットへメラニーは、バトラーはスカーレットを愛しているので、優しくしてあげてほしいと最後の約束をお願いし、スカーレットは突如出たバトラーの名前に面を食らいながらそれにうなづきます。

「スカーレット、頼むから止めてくれ!ぼくがどんな思いをしてきたと思っているんだ、医者に止められてから-」

「あなたがどんな思いをしてきたかってですって!なら、わたしがどんな思いをしてきたか考えないの-まったく、アシュリ、あなたはとっくの昔に気付くべきだったわよ。愛しているのはあの人で、わたしじゃないってことにね!どうして気がつかなかったの?そうすれば、なにもかもがいまとは違って、こんなことになっていなかったはずよ-(中略)」

風と共に去りぬ第5巻 ミッチェル p460-461

「アシュリという人は実は存在していなかったんだ。わたしの想像のなかにしか・・・」スカーレットは疲れた顔でそう思った。

「自分で造りだしたものを愛していたのよ。いまのメリーのように命のないものを。そう、すてきな衣装を造りだして、それに恋をしていたようなものだわ。(中略)

彼が本当はどんな人か見ようともしないで。そう、すてきな衣裳を愛しつづけていたんだ–肝心の彼ではなく」

風と共に去りぬ第5巻 ミッチェル p465

メラニーから今後のアシュリの面倒を見てもらえないか頼まれたスカーレット。迫るメラニーの死に対し落ち着きを失ったアシュリと会話します。

以前は「メラニーさえいなければ、アシュリと結ばれるのに」と思ったこともあったスカーレット。ある意味その望みが叶ったといえる状況ですが、アシュリはメラニーと結ばれるべきで、自分はアシュリを実際には愛していないことを悟ります。

アシュリへの恋心スカーレットにとっての生きる糧であったのですが、その愛が消えたのにダメージは無く、実際に愛していたのはアシュリ本人ではなく、自分の理想であったことに気付く表現が印象的でピックアップしました。

自分の勝手な理想を押しつけず、相手そのものを見ることの重要性を感じるシーンとなります。


若干、スカーレットが発言を遮ったアシュリのセリフも妊娠の謎を解く大事な伏線となっているような・・・。どうなんでしょう?

わが家!それこそ、わたしがたどり着きたかった場所。あそこにむかって走っていたんだ。レットのもとに帰るために!

そう気づいたとたん、体から鎖が解けるような感覚があり、それとともに、<タラ>にたどり着いて世界の終焉を見た夜から、ずっと自分の夢にとり憑いていた恐怖も消えていった。(中略)あの夜以来、物質的な安泰は手に入れたものの、夢のなかの自分はあいかわずおびえた子どもであり、あの失われた世界で、失われた安らぎの地を探し求めいていたのだ。

風と共に去りぬ第5巻 ミッチェル p474-475

メラニー死去後、1人の時間を求めたスカーレットは一旦自宅に帰ることを決めますが、自宅までの帰り道で長年悩まされていた恐怖の闇の夢の感覚に襲われます。

安全な場所を探し走り続けるスカーレット、自宅が目に入った瞬間にその恐怖は解消され、その瞬間自分が本当に求めていたものは心の安らぎであり、それをもたらすバトラーであると気付きます。

メラニーとの最期の約束という助けもあり、スカーレットはバトラーとお互いに愛し合っていたことを確信し、バトラーへの愛の告白と謝罪をすることを決心します。

「わたしは男が女を愛するのにこれ以上はないというほどきみを愛した。このことは分かってもらえているだろうか?何年も何年も愛しつづけて、ようやく結婚にこぎつけた。戦時中には街を離れて、きみを忘れようとしてみたが、とても忘れられず、つねに舞いもどる羽目になった。戦後は、ここに帰ってくれば危険なのに、きみに会いたさにもどってきて逮捕された。なにしろ愛していたから、フランク・ケネディがあのとき死んでいなかったら、自分で殺していたんじゃないかと思うね。わたしはきみを愛していたが、それを悟られるわけにはいかなかった。きみは自分を愛する男どもをいたぶるからね。スカーレット。男の愛を取り上げて、鞭みたいに相手の頭の上にふりあげる」

風と共に去りぬ第5巻 ミッチェル p493-494

自宅に戻り、バトラーへ愛の告白をしようとするスカーレット。しかし、その告白前にバトラーは離婚をするつもりで、家を出ていくと無情に告げます。バトラーは疲弊しきってしまったとこれまでの想いを吐露します。

バトラーのこれまでの行動の意図や背景が詳細に描写されるセリフとなり、バトラーの愛情が危険を顧みないほど強かったことが伝わります。このバトラーの想いを頭に入れて本作品を読み返すことで、新たな発見が得られると考えピックアップしました。

また、なぜバトラーはスカーレットへの愛を頑なに直接表現しないのかという意図も分かります。流石、スカーレットの理解者、手に入れたものを大事にできないという性格を読みった上での対応であったことが読み取れます。

しかし、その結果はハッピーエンドが待たないすれ違いの連続。相手の心を開くには、まず自分の心を開くことが大事という教訓を示すとも考えられる場面となります。

バトラーの洞察や振る舞いが少しでも鈍く、スカーレットへの愛情が漏れ出て少しでも伝わっていれば、また違う展開になっていたのではと考えてしまいます。

長い目で見れば、真実を告げるよりやさしい嘘をついたほうが良いのだろうか・・・。考えたのち、肩をすくめてこう言った。

「(中略)それよりわたしはいちばん良い時のお姿のまま憶えていたい。一度割れてしまったものを継ぎなおし、死ぬまで壊れた箇所を目の当たりにしているよりね。せめて、わたしがもう少し若ければ-」と、ため息をついた。

(中略)。のべつ嘘をついて、幻滅と程よく折りあいながら暮らしていくという重荷はとても背負いきれん。きみと暮らしながら、きみに嘘をつくこともできないが、なにより自分に嘘をついて生きていくのは無理だ。いまだって、こうして嘘がつけないくらいだからね。今後、きみがどうするのか、どこへ行くのか、気にしてあげたいところだが、それもできないんだ」(中略)

「ダーリン、こっちの知ったことじゃないからさ」

風と共に去りぬ第5巻 ミッチェル p508

バトラーからスカーレットへの本作品中最後のセリフです。スカーレットの元から離れるというバトラーへ、自身の想いを伝えて食いすがるスカーレット。しかし、その想いは絶望に疲労しきったバトラーへは届きません。

バトラーがいなくなったら自分はどうすればいいか分からないと嘆くスカーレットへ、バトラーは面倒を見るどころか気にも掛けられないと告げ、決意は揺るがないことを強調します。

ここは自分の中で上手く言語化できないのですが、不思議な魅力を感じて頭に残るセリフで、今後見返すためにピックアップしました。

愛した男性のどちらも理解できなかった。だから、どちらも失うことになったのだ。そう、手探りならがようやく分かったことがある。もしアシュリという人を理解していたら、愛することはなかっただろう。一方、レットという人を理解していたら、失うことはなかったはずだ。そもそも、自分にはこの世のだれかを本当に理解できたことなどあるのだろうか。

風と共に去りぬ第5巻 ミッチェル p509

バトラーが部屋を出ていき、1人になったスカーレット。自分の価値観を中心に物事を進めてきたスカーレットが、これまでの自分の振る舞いを顧み、他人を理解する重要性を感じ取る場面です。

翻訳者の力量もあると思いますが、文章の美しさが印象に残ってピックアップしました。

自分も価値観を押し付けて、他者を分かった気になっていないか、その結果大事なものを失う危険性が無いか、自分の振る舞いを振り返るきっかけともなる文章です。

敗北に直面してなお敗けを認めない一族の不屈の精神が顔をもたげ、スカーレットは毅然と顎を上げた。レットはきっととりもどせる。とりもどせるに決まっている。そうと決めたら、ものにできない男なんていなかった。

「とりあえず、なんでもあした、<タラ>で考えればいいのよ。明日になれば、耐えられる。あしたになれば、レットをとりもどす方法だって思いつく。だって、あしたは今日とは別の日だから」

風と共に去りぬ第5巻 ミッチェル p511-512

レットの心を引き留めるのは無理だと悟ったスカーレット。唯一の女友達メラニーの死去最大の理解者であったバトラーとの離別という大きなショックを受け、スカーレットは、数少ない理解者であるマミーがおり、自分の力の源である<タラ>への帰還を決めます。

<タラ>への帰還を考えただけで気持ちが上向いたスカーレットは、今後の決意を胸に立ちあがります。そして、スカーレットの強さを象徴する’Tomorrow is another day.’というセリフで物語は締めくくられます。

ここでようやく、<タラ>とマミーが自分に取って重要な存在であることを失う前に認識できている点は、スカーレットの成長と読み取れるかもしれません。

スカーレットであれば、どんな逆境があってもバトラーをまた手に入れるのでは、でもやはりスカーレットだから本当に必要な心の安寧は手からこぼれてしまうかも、とその後の展開の想像の余地を残しながら物語は幕を閉じます。

以上、9回にわたって全5巻の「風と共に去りぬ」の読書日記にまとめてきました。その量に最初は読み切れるか不安もありましたが、読み始めてみたら物語とキャラクターの面白さに引き込まれ、すらすらと読み進めることができました。

今回は(大分選別したのですが、それでも名場面しかなくて・・・・)長くなってしまったので、今回はここまでとします。ただ折角なので、読んでの感想を記事を分けてまとめてみたいと思います!

それではまた次の記事で!

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