「働きやすさを目指すのが正解ではない?」-組織活性化のためのターゲティング:読書日記

どうもです!花粉に対して目と鼻に違和感を覚え始めつつも、春の接近も感じる今日この頃です。皆さんはいかがお過ごしでしょうか?

最近ブログの更新頻度が落ちてきたので、多めの時間確保を目指しています。

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まとめ方で苦戦しているマスロー「完全なる人間」の更新もそろそろ再開したい・・・!

さて、今回取り上げるのは上村紀夫氏の「「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?」(CROSSMEDIA PUBLISHING)です。

30代半ばに差し掛かると会社の中での立場も変わり、個人のみではなく組織のことを考える機会も増えてきました。

ただ、組織の問題点もその原因も様々で、「どこから手を付ければいいか分からない!」というのが、直近の悩みでした。

そんな中で考え方とアプローチを整理する上で役に立ったのが本書です。

どのような切り口で施策を検討すればいいかが紹介されるため、より良い組織を目指す上でどこから手を付ければいいか悩んでいる方に非常にオススメの一冊です。

また、社員のモチベーションアップや離職率ダウンを意図して働きやすい制度や福利厚生を導入したけれども、通りの結果が得られないという経験がある方にも、学びが多い一冊となるでしょう。

それでは早速本題に入りましょう!

本書について

作者について

著者の上村紀夫氏株式会社エリクシア代表取締役・医師・産業医・経営学修士(MBA)であり、戦略系コンサルティングファームも経ている独特な経歴の持ち主です。

株式会社エリクシア(HPのURL)は「医療心理・経営の要素を用いた『ココロを扱うコンサルティングファーム』」として筆者が設立した会社です。

30,000件以上の産業医面談で得られた従業員の声と年間1,000以上の組織への従業員調査で得られた定量的データ、そしてコンサルティング活動で得られた知見を元に「個人と組織のココロの見える化」を目指しています。

本書の概要

会社が解決すべき組織の病とは?

組織を健全に保つことは会社にとって重要な課題です。

人口が低下している日本では、いかに優秀な社員を確保し、メンタルダウンや流出を防いで、会社の総力をどう高めていくかより重要になっています。

その上で解決すべきなのが、「組織の病」です。筆者は「組織の病」を下記の通り定義します。

組織が病んでいると言っても、本書で扱うのは身体の不調やメンタルヘルスの話だけではありません。社員・チームの生産性やモチベーションの低下、職場の雰囲気の悪さ、採用の苦戦、離職など、本書で読んでいるあなたがまさに今感じている課題、それらすべてが”組織の病”です。

「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする? 上村紀夫氏 p4-5

本書は筆者が産業医コンサルティングの経験から築いた、「組織の病」を解決するナレッジノウハウを紹介する一冊となります。

組織の病巣を広げるマイナス感情

そして筆者は「組織の病」を防ぐために解決すべきなのは社員のマイナス感情であると主張します。

マイナス感情は、多くの人が経験しているネガティブ感情を指します。「あきらめ」「落ち込み」「疲労」「不安」「虚しさ」「妬み」「怒り」「逃げ」といったように、(中略)さまざまです。

「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする? 上村紀夫氏 p25

人はポジティブな出来事よりも、ネガティブな出来事により強烈に反応して記憶されるように出来ているため、マイナス感情はモチベーションやメンタルに継続的で大きな負の効果を生みます。

そのため、このマイナス感情を早期に解決することが重要です。

しかし、人事等の担当者は目新しさややっているアピールを手っ取り早くできるプラスを生み出す施策に走りがちであると筆者は指摘します。

そして人は良いことにはすぐ慣れてしまい印象に残りづらいため、問題の解決に繋がりません。

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ここに社員のためを思った施策がうまくいかないことがある原因が潜んでいます

その一方で、対処が難しいマイナス感情は放置されてしまいます。

マイナス感情は自然解消されないので蓄積され、さらに周囲に伝染するため組織に蔓延して「組織の病」を生んでしまいます。

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不平不満が多い人と話していると、自分もネガティブな気持ちになることありますよね・・・。

「組織の病」を回避・治癒して組織の健全性を保つには、マイナス感情の対処が必須となるというのが筆者の主張です。

マイナス感情を整理する3つのカテゴリー

筆者はこのマイナス感情を整理するために発生源となる要素について下記の分類を提案します。

  • 心身コンディション:抑うつ、疲労、将来への不安、病気など
  • 働きやすさ:業務の量、ワークライフバランス、人間関係、人事制度など
  • 働きがい:強み、成長、居場所感、つながり、評価など

この3要素がバランスよく満たされている社員は、快適な職場で、元気に、前向きに仕事ができているといえるでしょう。

筆者はこの3要素のバランスが重要であると強調します。

ある要素の悪化他の要素の悪化も導きます。また、どれか1つが優れていても他に問題があれば、モチベーションやメンタルの低下、離職による人員不足などの問題を引き起こします。

筆者はこの3要素を「個人活性」と呼び下記のようなピラミッド様の関係を持つと説明します。

本書p81の図を参考に作成

闇雲に施策を打つのではなく、どの要素への対策が必要かという分析が重要となります。

施策のターゲティングの重要性

上記の通り、「組織の病」を生むマイナス感情原因は様々で、傾向は会社や業種により大きく異なります。

マイナス感情を対策しようとしても方向性が間違っていると、空振りに終わってしまったり、社内格差の拡大で逆効果を生んでしまったりする可能性まであります。

そのため、自分の組織がどのような問題を抱えどの問題を解決すべきかというターゲティングが重要であると筆者は強調します。

このターゲティングの上で役に立つ筆者が紹介する組織改革のカテゴリー分けが下記となります。

  • WHO(誰に向けた施策なのか):優先的に、「誰の」または「どの層の」マイナス感情を対策するのか?
  • WHAT(課題の優先度):どの課題に優先的にアプローチするのか?
  • HOW(どのようにアプローチするか):施策を考え実行していく段階

筆者は上記の内、WHOとWHATを明確に設定することが、「ターゲティング戦略」に必要であると主張します。

筆者は組織でどのようにターゲティングをしていくか、複数のパターンを例示しながら考え方やアプローチ方法を紹介していきます。

記載も例示もシンプルで分かりやすく、大変理解しやすい一冊という印象です。

本書の構成

本書は下記の通り、6章+αで構成されます。

  • 序章:なぜ組織は「病んでいく」のか?
  • 第1章:マイナス感情の感染メカニズム
  • 第2章:マイナス感情の発症メカニズム
  • 第3章:マイナス感情の伝染メカニズム
  • 第4章:組織活性化のための「ターゲティング戦略」
  • 第5章:組織活性化のための「正しいデータ活用法」
  • 終章:「社員を幸せに」する前にやるべきこと
  • 特別付録:あなたの組織はどのタイプ?組織活性4分類
  • おわりに

第3章までで組織が病んでいくメカニズムの説明、第4章からはアプローチ方法の説明と章構成も非常にスッキリと整理されています。

本書で学んだ点

最も勉強になった点:人材セグメントによって有効なアプローチは異なる

筆者の主張する人材セグメントとは

健全な組織を目指すための施策にターゲティング戦略が必要であるならば、対象となる人材のセグメント分けが必要となります。

筆者は下記の人材セグメント分類を提案します。

  1. 優秀人材:すでに組織の牽引役となっている人材、一般的には40歳以上
  2. ハイポテンシャル人材3-5年後に優秀人材となるであろう人材、すでに頭角を表し始め幹部候補として認識されていることが多い
  3. 立ち上がり人材入社から1年以内の人材意欲や能力はあるが、知識・経験の浅さにより十分に結果を出せていない
  4. 普通人材:やるべきことをきちんとこなす人材、意欲や熱量は平均的な水準
  5. ぶら下がり人材:仕事をしないわけでないが、組織との方向性の違い等からあまり意欲的に見えない

なるほど、社員の不満を解消しようとした結果、⑤のぶら下がり人材の要望ばかりを聞いていては、①~②のセグメントは不公平感を感じ離職し低モチベーションの社員の割合が増えるため、組織は良くなるどころか停滞してしまうでしょう。

これは個人的な偏見ですが、ぶら下がり人材は長く居座るために会社への不満の声も大きくなりそうです。

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一方で自身も不満を言うだけで組織を停滞させるぶら下がり人材になっていないか心配だったり・・・。

組織の方針と傾向による調整は必要ですが、この内で特にハイポテンシャル人材立ち上がり人材優先するべきと筆者は主張します。

このセグメントの人材ドンドン流出してしまうと、活気のある人材が残らず組織全体にマイナスの感情が蔓延しやすくなります。

それでは実際にどのように優先順位付けするべきなのでしょうか?ここでポイントとなるのが人材セグメントによる離職パターンの傾向です。

離職のパターンと人材セグメントによる傾向

人が会社を辞めるパターンは様々です。筆者はそのパターンを下記のように分類します。

  • ☆積極的離職:自分の希望を叶えるための離職
  • ☆消極的離職:今の環境から逃れるための離職
  • ☆離脱:心身の健康の悪化で働けなくなること
  • 自己都合:家族の転勤、出産育児などライフイベントによる離職
  • 会社要因:解雇、退職勧奨、整理解雇による離職

が付いているものは活性3要素の低下により起きる、本書で注目されるパターンです。

本書のp118の図を参考に作成

そして、人材セグメントによりこれらのパターンの発生傾向は下記の通り異なります。

本書のp186の図を元に作成

どの人材セグメントを優先的にカバーしたいかにより、取るべきアプローチが異なることがわかります。

働きがいのミスマッチ優秀・ハイポテンシャル人材が離職しがちなのに対し、ぶら下がり人材は働きやすさが許容できる内は不満を言いながらも組織に残る傾向が読み取れます。

働きやすさを上げようとした結果、優秀な人材が流出し、消極的な人材のみが残り組織活性が下がってしまうからくりがここから読み取れます。

また、同じ働きやすさにアプローチする施策でも、立ち上がり人材に恩恵があるもの、ぶら下がり人材にしか魅力として映らないものという人材セグメントによる効果の違いも起きるでしょう。

組織の状態にあわせてどのセグメントに対処すべきかターゲティングし、のマイナス感情にアプローチをするかポジショニングが効果的な施策には必要となります。

あなたの組織はどのアプローチを選択するべきか?

そして、組織が目指す方向性会社が持つマイナス感情の傾向によって、どの人材をターゲットとし、どのようなアプローチが必要となるかが決まるという点がパターンで例示されていて非常に学びとなりました。

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それほど問題でないセグメントをターゲットとしてしまうと、不公平感拡大を生み他のセグメントのマイナス感情の原因にもなりかねません。

ハイポテンシャル人材をあえて引き留めないことで、流動性やブランドイメージに繋げるという方針もあることに驚きました。

組織を良くできそうな施策は意外と簡単に色々思いつきます。社員の不満は人それぞれで多様なためです。

ただ、闇雲にすべてを試すわけにはいきません。事前調査や事後評価に手が回らず、やっただけの自己満足に陥る可能性が高まりますし、人材セグメントのバランスの悪化につながる可能性もあるためです。

このような事態を回避するためにも、本書で学んだ優先順位付けは非常に有用となるでしょう。

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若干難しいのはターゲティング戦略が、対照外の人に伝わると不公平感というマイナス感情の原因となってしまう点ですね。

行動に取り入れるには?:適切なゴール設定のための網羅的な分析

個人的に行動に取り入れる上での肝は適切な情報収集と情報分析だと感じました。ここが適切にできないとターゲティング戦略もうまくいきません。

しかし、多くの部署はこのようなプロセスを勉強・体験する経験は限られると思います。

実際、私も会社の状況を把握するのに苦戦しています。まず必要な情報を集める段階ですら一苦労です。

本書もこのステップで気を付けるポイントをいくつか紹介していますが、特に参考になったポイントを2つ紹介します。

従業員調査の見るべきポイントをずらさない

組織の状態、組織活性を見るうえで有用なアプローチは従業員調査です。しかし、この従業員調査も闇雲にやっては空回りに終わってしまいます。

筆者は下記の通り、ポイントをずらないことの重要性を主張します。

従業員調査で重要なことは、「社員の労働価値を把握し、組織が提供している価値とのミスマッチを見つけること」にあります。それを把握することで、マイナス感情の蓄積を予測できます。

「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする? 上村紀夫氏 p226

このポイントのずれは必要な情報の漏れや、誤った施策の選択につながってしまいます。

調査の前にで何を確認したいのかという仮説や目的の設定の重要度というのは、最近の仕事で最も痛感した学びの1つです。

組織活性を1つの指標だけでみると危険

また、調査は網羅的に実施することが重要です。

働きやすさのみにしか焦点が当たらない指標もあり、この指標のみで評価を行うと働きがい等の他の指標の検討が漏れ必要なマイナス感情にアプローチできなくなる恐れがあります。

組織活性を把握するには複数のデータを組み合わせることが必要であると筆者は主張します。その例示が下記となります。

本書p233の図を元に作成

組織では多様な場所で様々な調査が実施されています。

部門やチーム間で情報を共有し、重複による余計な工数を避けて効率化を図るとともに、調査に漏れている項目がないかの特定戦略的ターゲティングのための大事なステップとなります。

おわりに

以上、上村紀夫氏の「「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?」(CROSSMEDIA PUBLISHING)の読書日記でした。

非常に明快な分類と例示内容がスラスラ入ってきて感動した一冊です。

組織の改革に取り組むことになったものの、どこから取り組めばいいか迷っている方取り組みが思い通りに上手くいかずに苦戦している方などに非常におススメです。

あなたが引き留めるべき人材セグメントはだれで、そのためにはどのようなアプローチが効果的か?

戦略的なターゲティングを含め、組織の活力を取り戻すために必要な思考方法・分析方法を学ぶことが出来ました!

それではまた次の記事で!

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