多様性を実際に活かすために必要なことは?-読書日記1/2

どうもです!遂に12月に入りました。今年もあと1か月!寒さも強くなってきましたので、体調に気を付けていきましょう!

現在の私のテーマは傾聴や共感によるコミュニケーションスキルの強化です。

前回はその中で基本的なスキルとなる「聴く力」を網羅的に学びました。今回は多様性という具体的な目的を持ってコミュニケーションスキルを学んでいきたいと思います。

取り上げる本はマシュー・サイド氏の「多様性の科学」(株式会社ディスカバー・トゥエンティワン)です。

様々な考えや視点を持つ人が集まることで、いろんなアイディアが生まれそうではありますが、実際に上手くいくのでしょうか?

これまでの人生の中で多様性により革新的なアイディアが生まれた瞬間を実感したことがありませんし、その方法も知りません。

多様性の力というのは幻想なのか?それとも活かすために必要な要素が欠けていたのか?それを知るために本書を選びました。

それでは早速本題へ入っていきましょう!

本書について

筆者について

筆者は英「タイムズ」紙の第一級コラムニスト、ライターであるマシュー・サイド氏です。オックスフォード大学を首席で卒業しながら、卓球でオリンピックに二度出場という、高レベルな文武両道の経歴の持ち主です。

著書にはなぜ人や組織は同じ過ちを繰り返し失敗から学べないかという謎に迫った「失敗の科学」(株式会社ディスカバー・トゥエンティワン)があり、非常に読みやすく勉強になる一冊なのでこちらもお勧めです。

本書について

多様性の種類

多様性が大事とはよく聞きますが、人によって多様性の定義が異なったり具体的な効果については言及がなかったりなぜ大事なのか具体的に説明するのは難しいです。

本書では多様性性別、人種、年齢、宗教による「人口統計学的多様性」ものの見方や考え方が異なる「認知的多様性」に大きく分類します。


一般的に多様性というと「人口統計学的多様性」を指すことが多いように感じます。

多様性により創造性や成功を導くために重要なのはどちらかというと「認知的多様性」となり、この観点でメンバーや意見を集めることでより網羅的な視点を形成できます。

背景の差による「人口統計学的多様性」「認知的多様性」を生む大きな要因となりますが、「人口統計学的多様性」という観点のみで機械的にメンバーを集めても「認知的多様性」が生まれない場合があります。

筆者は下記の通り例示します。

たとえば2人のエコノミストがいるとしよう。1人は白人の中年男性で同性愛者。もう1人は黒人の若い女性で異性愛者(中略)しかし彼らが同じ大学に通って、同じ教授のもとで学び、同じような経済モデルを使っていたらどうだろうか?(中略)

次の2人のエコノミストはどうだろう?どちらも白人の中年で眼鏡をかけている。(中略)しかし一方が「マネタリスト」でもう一方が「ケインズ派」だったらどうだろう?どちらも経済派の一派だが視点は非常に異なる。一見すると画一的な2人だが、問題への向き合い方に関しては多様性がある。

マシュー・サイド 多様性の科学 p92

多様性を活かすためには「人口統計学的多様性」のみでなく、どのような背景を持ちどのような能力が期待できるかという観点も重要となるのです。


闇雲に異なる意見を集めても生産性の無い支離滅裂な議論を生む恐れがあります。領域を超えた幅広い観点と共にどのような能力が必要かという仮説も必要となります。

画一的集団が生む死角

優れた組織を作ろうとする場合、効率的な方法としてその道の専門家やエリートを集めればいいのではという考えが真っ先に浮かびます。

しかし、その方法は複雑で変化の激しい現代では通用しないアメリカ合衆国の対外情報機関であるCIAを例示して筆者は主張します。

CIAはその使命を果たすため、採用の基準を厳しく設定し、限られたエリートのみを集めていた過去があり、白人、男性、アングロサクソン系、プロテスタントという単一の属性を持つ職員ばかりが採用されていました。

その結果起きたのが視野の盲点です。

CIAの職員は個々は優れていますが、同様の背景を持ち、同様のもののとらえ方をしやすい、多様性が乏しい状況でした。

その結果、下記の通り集団の認識が狭まり議論や対策は狭い範囲で完結していまいます。

本書p67の図を参考に作成

閉じた世界の中で完結してしまうと、自分たち以外に世界があること自体に気付けず、その世界の外ではある行為や事象のメッセージが変わることに気付けません。

9.11という過去最大のテロの主犯は洞窟暮らしであり、CIAはその有様より相手が自分たちを脅かす存在となり得ない「時代錯誤の無知な連中」と軽視してしまいました。

その振る舞いが彼らの宗派のルーツに則り強いメッセージ性を持っていたことに気付けませんでした。

その結果、CIAは様々な情報を目にしてはいましたが、9.11という脅威への兆候として認識することが出来ませんでした。

事件後国内ではCIAの責務を問う批判が噴出する一方、CIAは優秀な人材がベストを尽くした結果であり、悲劇は回避できなかったと主張します。

確かにCIAの職員は優秀であり職務を怠けていない勤勉な個々でした。その一方、集団としてその優秀さを示すことが出来ませんでした。

筆者は画一的な組織という前提に問題があったことを指摘し、下記の通り多様性の重要性を主張します。

実際、分析官一人ひとりに欠けているものは何もなかったとさえ言えるだろう。しかし集団で考えた場合、話は別になる。CIAの職員は個人個人で見れば高い洞察力を備えているが、集団で見ると盲目だ。そしてこのパラドックスの中にこそ、多様性の大切さが浮かび上がってくる。

  マシュー・サイド 多様性の科学 p58

人類の最大の強みは集団脳

我々人類(ホモ・サピエンス)の最大の強みは知能であると考えがちですが、実際は集団脳の活用であることが分かってきています。

集団で知識を共有し未来に残すことの繰り返し人類は発展を遂げてきました。

本書では絶滅した旧人類であるネアンデルタール人との比較を例示します。

ネアンデルタール人ホモ・サピエンスよりも大きな脳を持っていたとされています。

知能と脳の大きさは比例するため、単純な知能ではホモ・サピエンスはネアンデルタール人に劣っていたということになります。

ここで、なぜネアンデルタール人でなく、ホモ・サピエンスが生き延びたかのかという疑問が生まれます。

そして、ホモ・サピエンスを生存に導いた理由集団脳となります。

ネアンデルタール人は個々では優れたひらめきがあったかもしれませんが、それを共有するという習慣が乏しかったため、そこからの発展もなく、ひらめきを得た個体が亡くなると、そのアイディアも失われてしまいます。

一方でホモ・サピエンスは情報を共有し合うことで、少しずつでも文明が発展し後世に受け継がれていきました。

テクノロジーや知恵やアイディアは、生理的・文化的な進化を誘導し、社会や組織の在り方にも変化をもたらすことで、生存への有意性が生まれたと筆者は主張します。


例えば簡易的な水筒の発明は、持久力に必要な発刊量が高い個体の生存を可能にし、持久力を持つ個体が優位となります。このように発明と相性の良い特性が受け継がれやすくなります。

そのため、我々の能力を最大化するには、この集団脳を最大限に活用することを重要視しなければなりません。

クローン部隊では集団脳が活かせない

そして、集団脳を活かすためには多様性が重要な要素となります。集団脳異なるアイディア考えの組み合わせにより発展します。

ここでも優れた人間を単純に成績順に集めた場合の弊害を筆者は指摘します。

優れた人間を集めても同じような背景、考え方を持つクローンを集めたような部隊では、集合脳は活かせません。

筆者は例示として、10人の集団で1人10個のアイディアを出してもらった時、有益なアイディアの総数がいくつになるか問いかけます。

単純に10×10とはならず、アイディアの重複の数により、最終的な数は変動することに気付くでしょう。

例えば、クローン部隊である場合、個々がどれだけ優秀でも思いつくアイディアは似通うため、総数は大きくなりません。

完全なクローンであれば、全て重複するためわずか10となってしまします。

一方多様性があるグループでは、重複が少なくなるため、その総数は10の2,3倍、もしくは10倍となる場合も想定できます。

多様性によりアイディアが増えればそれだけ創造性や成功の可能性は高まります。しかし、筆者はここで一点下記の通り注意します。

多様性は高い集合知を生む要因となるが、それには根拠が必要だ。対処する問題と密接に関連し、かつ相乗効果を生み出す視点を持った人々を見つけることがカギとなる。

マシュー・サイド 多様性の科学 p93-94

融合のイノベーションを起こすには

また、アイディアの融合革新的なイノベーションを生み出すためにも重要です。

イノベーションには改善を繰り返していく斬新的なイノベーションと、異分野のアイディアを組み合わせることによる融合のイノベーションの二種類があると言われています。

この融合のイノベーション世界を変える革新の多くを占めていると筆者は主張します。

実際にウェブ・オブ・サイエンス誌上の1790万本を対象にした調査では、極めて反響の大きい論文想定外の分野の組み合わせから生まれているという結果が示されています。

一方で、人は知らず知らずの内に先入観に支配される生き物です。

これまでのやり方から外れた提案分野外の人間の意見中々受け入れることが出来ません。

現在、当たり前になっているキャリーケースですが、当初発案者は鞄会社から取り合ってもらえなかったと言います。

鞄に車輪を付けるというシンプルなデザインですらこのような抵抗があるということは、複雑化と専門化が進んだ現代社会では分野同士の障壁は増々厚くなっているでしょう。

現代社会を生き残る組織を作るためには、異分野の人間が交流する環境づくりや、先入観を捨てて物事を考える習慣付けをするような社員教育などの融合のイノベーションを活性化する取り組みが重要となります。

本書の構成

本書は下記の通り全7章で構成されます。

  • 第1章 画一的集団の「死角」
  • 第2章 クローン対反逆者
  • 第3章 不均衡なコミュニケーション
  • 第4章 イノベーション
  • 第5章 エコーチェンバー現象
  • 第6章 平均値の落とし穴
  • 第7章 大局を見る

各章、実例→筆者の主張→筆者の主張と実例の照らし合わせ→結論という分かりやすい構成であり、補足する研究結果や例示も充実しているため、内容がスラスラ頭に入ります。

小説のように読めるという口コミも見かけましたが、まさにその通りと感じる一冊で、読み物としても面白いのに筆者の主張や学びも整理しやすいという優れた一冊となります!

ここまで本書の概要でした。読んだ感想はまた次の記事で整理したいと思います。

それではまた次の記事で!

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