どうもです!9月なのにまだまだ暑い時期が続きますね;夏バテしないように体調管理に気をつけて参りましょう!
今回のテーマは熱は熱でも心の熱が尽きてしまった状態、「燃え尽き症候群」を扱います。
燃え尽きといえば「明日のジョー」の名場面などが思い浮かびますが、現実世界でも燃え尽き症候群は発生し、我々の生活を脅かす存在です。そして近年労働環境での労働者への要求の高まりにより、そのリスクは増すばかりとなっています。
身近なリスクでもある燃え尽き症候群ですが、その定義、症状、原因、そしてその対策についてはあまり知らないのが現状ではないでしょうか?
今回は燃え尽き症候群に関する研究に取り組んだ心理学者のクリスティーナ・マスラーク氏とマイケル・P・ライター氏による「燃え尽き症候群の真実」(Amazonリンク)(トッパン・プレンティスホール、高橋恭子氏訳)を参考に燃え尽き症候群に関する知識の整理を目指します。
「燃え尽き症候群は何により引き起こされるのか?」そして「どんな対策が有効なのか?」を知る参考となりましたら幸いです。
今回は燃え尽き症候群の特徴と、その原因となる人と仕事の間のズレ、そして燃え尽き症候群によりもたらされる弊害を整理していきます。燃え尽き症候群の解決については下記記事となります。
燃え尽き症候群への2つのアプローチとは?-読書日記それでは早速本題に入りましょう!
燃え尽き症候群とは
背景
筆者らは近年の労働環境の変化により、仕事や周囲のものへしらけ、距離を保ち、あまり深くかかわらないようにしている人々、つまり燃え尽き症候群にある人の数が増えていると指摘します。
仕事は生きるために必要な側面もありましたが、自身の能力の発揮や社会・周囲への貢献により人生を充実させる活動でもありました。
以前整理した「自由への逃走」で積極的な自由を導くのは愛と仕事である通り、仕事は人生を充実させる重要な要素であると考えています。
競争が加速し生産性が重要視される現代では、労働者に求められる要求は増加するばかりです。
テクノロジーは進化していますが、労働時間の短縮には十分寄与しておらず、むしろ専門性や情報量の増加により仕事の複雑性化させ負荷を強めている側面もあります。
求められる要求や仕事の量と質が労働者の制御範囲を超え、仕事は人生を充実させる場というよりはただ指示に従って要求をこなすだけの無味乾燥な時間と感じやすい環境になっています。
そのような環境で筆者らが問題視しているのは人と労働環境間のズレであり、このズレが大きくなると燃え尽き症候群のリスクが高まると筆者らは主張します。
さらに元々燃え尽き症候群はソーシャルワーカーや教師などの複雑なコミュニケーションが求められるが見合った報酬が得られにくい分野で主に確認されていた状態でしたが、このような環境変化により他の職業でも同様の問題が増加していると筆者らは指摘します。
つまり燃え尽き症候群はアニメやドラマの世界、そして一部の労働環境の問題ではなく、われわれの身近に迫る現実のリスクであることを意味します。
具体的にその特徴や原因、対処を知ることは、自身のリスクを回避するのみでなく周囲の人の対処の支援や労働環境整備による組織の健全化にも役立つでしょう!まずは燃え尽き症候群とは具体的にどのような状態を指すのか見ていきましょう。
燃え尽き症候群とは?
燃え尽き症候群とはどんな状態?
燃え尽き症候群はどのような特徴を持つのでしょうか。これまで頑張ってきた人が急にやる気を失ってしまうようなイメージがありますが、実際はどうなのでしょうか?
本書では燃え尽き症候群は下記のように説明されます。
燃え尽き症候群は、自分という人間と、自分がやらなければならないことのあいだのズレを示すしるしだ。それは価値観、威厳、気力、意志の交代-人間的な衰退-を表す。時とともに徐々に休みなく浸透し、人々をらせん状に降下させる回復のむずかしい病気だ。
クリスティーナ・マスラーク、マイケル・P・ライター「燃え尽き症候群の真実」p24
燃え尽き症候群は主に仕事環境で引き起こされますが、その影響は精神の衰退という仕事以外の活動・生活にも影響を及ぼすことがわかります。また、徐々に悪化していくという点も厄介です。
燃え尽き症候群の3つの特徴
さらに筆者らは燃え尽き症候群には「疲労・しらけ・無力感」という特徴があると紹介します。
疲労
仕事の要求や大きな変化によるストレスへの最初の反応として「疲労」が紹介されます。無理が続くと人は精神的にも肉体的にも消耗してしまいます。
燃え尽きと聞くとこの消耗した状態がイメージとして最初に浮かびやすいでしょうか?
この消耗した状態では仕事のクオリティは上がりませんし、仕事へのモチベーションも上がりません。
モチベーションが上がらないとなると仕事はやらされ仕事の割合も多くなり、疲労の原因となるつまらないものとなってしまいます。
しらけ
次に紹介される特徴は仕事や職場の人間関係に対して興味を失い、遠ざけるような態度を取ってしまうようになる「しらけ」です。
燃え尽き症候群は労働環境におけるギャップが生むストレスが原因となります。このしらけはそのストレスを軽減するための無意識の心の防衛反応となります。
期待が大きいほど裏切られた時のショックも大きくなるという葛藤を経験したことがある方も少なくないのではないでしょうか?
確かに「どうせうまくいかない」と考え深入りを避けていた方が、どのような結果でもショックを抑えられるかもしれません。
しかし、このような否定的な態度はその人の幸福な人生とよい仕事をする能力を大きく損なうと筆者らは警鐘します。短期的な防衛反応も長期的には弊害の方が大きくなるのです。
無力感
三つ目の特徴は「無力感」です。上手くいかない状況が続くと人は無力感を覚えます。
無力感は人から自信を奪い、全ての物事が上手くいかないように感じます。もし何かうまくいってもそれを自分のおかげと感じられなくなってしまいます。
周囲の人も自信が無い人は信頼できないので仕事も割り振りづらくなり、成果や自信を得るための機会も失われてしまいます。
自分には何もできないという自信の無さを、結果が裏付けて強化してしまう負のループに陥ってしまいます。
これらのいずれかの特徴に心当たりがあったら燃え尽き症候群に陥り始めていないか要注意です!
燃え尽き症候群の原因
それではどのような要因が燃え尽き症候群を引き起こすのでしょうか?筆者らはその原因は個人ではなく組織にあると指摘し、下記のような人と仕事のあいだの6つのズレを紹介します。
- 過重労働:人員削減による仕事の集中、仕事量の増加、仕事の複雑化
- 裁量権の欠如:裁量権の減少、マイクロ管理の重圧
- 不十分な報酬:仕事の増加に見合わない報酬、内面的な満足感が得られない
- 共同体の崩壊:人間関係の分断、チームワークの崩壊、組織内での孤立化
- 公正さの欠如:組織方針の言動の不一致、組織と個人間の情報格差
- 価値観の対立:短期目標と長期視点の乖離、風通しの悪い一方的な関係
気づいた方もいると思いますが要素間で関連性を持つものもあり、一つが損なわれるとその他も損なわれたり、逆に一つが回復することで他も改善する可能性があります。
それではそれぞれについて見ていきましょう!
過重労働
過重労働は最も燃え尽き症候群の原因としてイメージしやすいかもしれません。
燃え尽き症候群の特徴の一つは疲労であり、過重労働は精神的にも身体的にも疲労を生みます。
現代社会はテクノロジーの発達で情報量が爆発的に増えると同時に仕事の専門家・複雑化が進んでいます。
組織が短期的な採算や効率性を最重要すると、キャパを超えた社員へのノルマの強要や、コストカットのための人材削減により仕事の集中が起こりがちです。
また複雑化した仕事はその管理のための無駄な仕事の増加や、要求される難易度や異なる立場の人とのコミュニケーションにより、身体的にも精神的にも疲労を与えます。
このような状況が続くと労働者のエネルギーや時間は限界を迎えて燃え尽き症候群を生み、長期的には組織への多大な弊害を生むこととなります。
現在の職場の危機は、三つの面で仕事量に影響を与えている。つまり、仕事が集中し、より多くの時間を要求し、より複雑になっている。当然、息抜きをするひまなどとてもない。
クリスティーナ・マスラーク、マイケル・P・ライター「燃え尽き症候群の真実」p57
裁量権の欠如
裁量権があること、つまり仕事の中の優先順位、仕事のやり方、予算の使い道を自分で決められることはプロとして仕事をするための基本的条件であると筆者らは主張します。
この裁量権はコントロール感と言い換えることが出来るでしょう。そしてこのコントロール感はストレスや健康度と関連することが報告されています。
- コントロール感と仕事のストレスの関係:Meier, L. L., Semmer, N. K., Elfering, A., & Jacobshagen, N. (2008). The double meaning of control: Three-way interactions between internal resources, job control, and stressors at work. Journal of Occupational Health Psychology, 13(3), 244
- コントロール感と活動・健康度の関係:Rodin, J., & Langer, E. J. (1977). Long-term effects of a control-relevant intervention with the institutionalized aged. Journal of personality and social psychology, 35(12), 897.
裁量権が無い状態は、自分の仕事をコントロールできず、物事を決められた通りに進めるしかない状況を指します。
そのような状況ではストレスが増え疲労に繋がるのみでなく、試行錯誤の楽しさや自分の価値の実感という仕事の面白さも失われてしまい、「しらけ」の状態を生むでしょう。
組織内で行う仕事のほとんどは他の人との協力で成り立つため、CEOですら完全な裁量権を持つことは難しく裁量権は相対的なものである筆者らは説明します。
完全な裁量権というのは幻想であり、自分が特に価値を感じている業務もしくは負荷が大きいと感じている業務にターゲットを絞って裁量権を増やす工夫するのが現実的と考えます。
自分の裁量権を少しでも増やすには上長、他部署の人とうまく人間関係を築き、意見を取り入れてもらいやすくすることが有効な手段の一つでしょう。
先日取り上げた「人望が集まる人の考え方」(レス・ギブリン氏、訳:弓場 隆氏、ディスカバー・トゥエンティワン)がその参考になるでしょう。
人望がある人のコミュニケーションとは?キーワードは自尊心不十分な報酬
次に紹介されるのは不十分な報酬です。この要素は実質賃金が下がり続けている日本ではより注意が必要な要素かもしれません。
承認欲求とあるように、人間は自分の価値を認めてもらいたいという本能的な欲求を持っています。
仕事が増えて複雑化しているのに、報酬という自分の評価は下がるという環境では、自分は正当に評価されていないのではないかと感じ、しらけや無力感を生みかねません。
労働環境として仕事に対して適正な報酬が支払われる仕組みがあるかというのは組織の体制の重要なポイントとなります。
一方で報酬というのは金銭的なものに限らず内面的な満足感も重要であり、会社の使命を果たすと同時に労働者が内面的な満足感を得られる環境を整える重要性を筆者らは指摘します。
現在の職場の危機は、三つの面で仕事量に影響を与えている。つまり、仕事が集中し、より多くの時間を要求し、より複雑になっている。当然、息抜きをするひまなどとてもない。
クリスティーナ・マスラーク、マイケル・P・ライター「燃え尽き症候群の真実」p57
組織の使命は何かを労働者に伝えその使命に沿った目標の設定という情報発信と、労働者は何に価値観を持っておりどんな活躍を望んているかというヒアリングという情報収集が、この環境整備のカギになると感じました。
共同体の崩壊
4個目の原因は共同体の崩壊です。
職場において職の安定性の消滅、短期的な利益の追求、人々に対する配慮の欠如が発生すると共同体の崩壊につながります。
現代の仕事の多くはチームワークにより成り立ちます。この共同体の質は仕事の成果に影響すると共に、厳しい状況を乗り越える支えとなります。
多くの人にとって職場は長い時間を過ごす場です。リモートが増えたとしても、そこでの人間関係の質は所属する人に大きな影響を与えます。
職の安定性が無くなると労働者の組織への帰属意識が薄れるとともに、長期的な関係が前提でなくなるため、従業員同士の関係性も希薄となります。
また短期的な利益の追求は功利主義を従業員に強いるとともに、シビアなノルマを課すため、従業員同士の競争を強いることでチームワークを破壊します。ここに職の不安定さが加わるとこの競争は生き残りをかけたより壮絶なものとなります。
このような状況になるとチームワークによる成果が期待できなくなるのみではなく、不要なトラブルや対立が発生し組織の時間やエネルギーを大きく浪費する原因となり、組織に大きな損失をもたらすこととなります。
公正さの欠如
次の原因は公正さの欠如で、公正さを維持するには信頼、率直、敬意の三つの重要な要素が必要と筆者らは主張します。
組織に共同体が生まれると、人々はおたがいを信頼してチームワークでそれぞれの役割を果たし、自分の思っていることを素直に話し合い、おたがいを尊重しあう。組織が公平な行動をとるということは、組織に貢献するすべての人間の価値を認め、どの人も重要であると示すことである。
クリスティーナ・マスラーク、マイケル・P・ライター「燃え尽き症候群の真実」p75
短期的な利益の追求は従業員に負担を強いることも少なくなく、組織と従業員の間での信頼関係崩壊の一因となりえます。
組織の為に頑張っているのに、組織は自分を評価してくれない、それどころか労働環境を悪化させている。このような状況では組織を信頼できなくなります。
そして、現代の激動の環境が率直な社内コミュニケーションを阻害します。早期の情報公開はライバル会社との競争の妨げとなったり、受け手の印象のコントロールの困難性により混乱を招くリスクがあるため、組織はギリギリまで情報を隠しがちです。
その結果、共有は施行のギリギリで率直で両方向のコミュニケーションは出来なくなり、組織全体で後手後手の指示やコミュニケーションとなることで従業員の不満を募らせることとなります。
また、上記のような意志決定プロですでは、社員の意見や想いは反映されにくくなるため、社員への敬意も不足する結果となります。
従業員は上の決定に従わされるのみで組織の意志決定に参加する機会がない環境はコントロール感の喪失や無力感の原因となり、燃え尽き症候群のリスクを高めます。
これらの積み重ねにより組織内の公正さは崩壊していきます。
価値観の対立
最後の要因は価値観の対立です。これは組織と個人間の対立もありますし、会社が掲げる建前の使命と実際に社内でノルマとして課される会社の本音とのギャップも含まれます。
本書内の例では、夕方に多くの顧客を持ち顧客サービスを重要視しているとある融資担当者が、所属する銀行が出したコストカットを目的とした勤務時間短縮(閉店時間を17時から15時へ変更)命令に対し、自身の使命を果たすことに限界を感じたエピソードが紹介されます。
自身が必要と感じることに取り組めない。これは裁量権の低下を意味するとともに、仕事への関心を失わせる原因となります。
取り組む仕事が無意味でつまらないものと感じるようになり「しらけ」を生み、自分の想いは尊重されないという環境に対する「無力感」までも生まれます。
このような価値観の対立は使命感と善意を持った従業員に労働の矛盾という強い負荷を強い、燃え尽き症候群のリスクを高めます。
所属する組織に燃え尽き症候群の兆しが見える場合は、上記6つの要因を精査することで原因特定に繋がるでしょう。
燃え尽き症候群の代償
上記のような労働者と労働環境のズレが燃え尽き症候群を生むとどのような代償が発生するのでしょうか?
個人と組織の両方の観点からみていきましょう。
個人の代償
燃え尽き症候群は気力の後退のみならず、発症した本人に下記のような深刻な影響を及ぼすことを筆者らは指摘します。
- 頭痛、胃腸病、高血圧、肩こり、慢性疲労などの身体的不調
- 不安、抑うつ、不眠のような精神的不調
- お酒や薬への依存
- しらけなどの否定的な感情による人間関係の悪化
- 仕事の量と質の低下、失職
燃え尽き症候群はその原因となる仕事だけでなく、基本的な健康であったり、プライベートにも深刻な影響を及ぼします。
以上より個人の人生にとって、燃え尽き症候群を回避する重要性がわかります。
組織の代償
また、筆者らは燃え尽き症候群は個人ではなく社会環境の問題であり、職場が働く人をないがしろにするときに、燃え尽き症候群の危険性が高まり、その代償は燃え尽き症候群を発症する個人に限定されず、組織全体に影響を及ぼすと主張します。
まず労働環境を整備していれば得られたはずの労働者の大きな貢献、特にエネルギーや集中を要する生産性や創造性は失われます。
原因は労働環境にあるのでこのような影響は複数人に及ぶでしょう。
また、純粋な仕事の成果という観点のみでなく、労働環境への影響も見逃せません。
仕事や職場の人間関係に「しらけ」を示す人の存在は、人間関係のトラブルや周囲の人のモチベーション低下という形で周囲へも悪影響を及ぼします。
上記の通り、共同体の崩壊は燃え尽き症候群の原因の一つとなるため、燃え尽き症候群のリスクをさらに高める負のループが生まれます。
もともと責任感が強く周囲の評価も高いエース的存在の社員が燃え尽き症候群に陥ることも少なくなく、そのような人が燃え尽き症候群になった時の周囲への影響力はより大きくなるでしょう。
責任感の強さから高い理想の設定をしがちでギャップの原因となります。また、責任感の無い人はそもそも燃え尽きるほど仕事に没頭できません。
さらに燃え尽き症候群によって下がった仕事の量と質は、周囲のメンバーの負担増という形で燃え尽き症候群のリスクを広げていきます。
燃え尽き症候群を個人の問題として対策を放棄している組織は、長期的な視点で大きな代償を払うこととなると筆者らは警鐘します。
以上、燃え尽き症候群の3つの特徴「疲労・しらけ・無力感」とその原因となる下記6つのズレについて整理しました!
- 過重労働:人員削減による仕事の集中、仕事量の増加、仕事の複雑化
- 裁量権の欠如:裁量権の減少、マイクロ管理の重圧
- 不十分な報酬:仕事の増加に見合わない報酬、内面的な満足感が得られない
- 共同体の崩壊:人間関係の分断、チームワークの崩壊、組織内での孤立化
- 公正さの欠如:組織方針の言動の不一致、組織と個人間の情報格差
- 価値観の対立:短期目標と長期視点の乖離、風通しの悪い一方的な関係
そのようなリスクが自分の職場にある時はどうすればいいのでしょうか?燃え尽き症候群への対策を次回整理していきます。
それではまた次の記事で!