「自由からの逃走」を図を交えて整理してみる-読書日記_12

エーリッヒ・フロム「自由からの逃走」(東京創元社)についての読書日記、今回は最終章第七章「自由とデモクラシー」の後編です。

現代で我々がどのように自発的な活動を起こし、積極的な自由を達成するかがテーマになります。

前回独創的な思考の難しさを整理しました。

今回はそれらを踏まえつつ、人生を自分のものとして充実させるために参考となるポイントが出てきます。

実際の行動にどう生かせばいいのかもいいかも考えつつ整理していきましょう!

過去記事はこちら: 背景情報の整理第一章: 自由-心理学的問題か? 第二章:個人の解放と自由の多様性

第三章 宗教改革時代の自由 : 前半後半第四章:近代人における自由の二面性、第五章 逃避のメカニズム:前編中編(権威主義)後編(破壊性、機械的画一性) 第六章 ナチズムの心理 前半後半

自由と自発性

人間が真の自由を謳歌するのは不可能なのか?

ここまで前回第四章:近代人における自由の二面性を中心に、積極的な自由を達成するための多くの障壁が紹介されてきました。

積極的な自由を達成する過程での障壁

結果として人々は障壁に阻まれて逃避行動へ向かってしまい、手に入れたはずの自由を謳歌できません。

現代の、特に日本の主な逃避行動は匿名の権威への服従機械的画一性による自我の喪失がメインとなるでしょう。

このような障壁の前では、積極的な自由の実現により人々が自由を謳歌する世界は幻想にすぎないのでしょうか?

筆者は積極的な自由は決して幻想ではなく、そのためには自我の実現が要になることを主張します。

そしてこの自我の実現のためには、感情理性という両者を備えた個人の持つ力を、自発的な行動により余すことなく表現し、個人が真のパーソナリティを確立することが重要な点とします。

われわれの自我の実現はたんに思考の行為によってばかりでなく、人間のパーソナリティ全体の実現、かれの感情的知的な諸能力の積極的な表現によってなしとげられると信じる。これらの能力はだれにでもそなわっている。それらは表現されてはじめて現実となる。いいかえれば、積極的な自由は全的統一的なパーソナリティの自発的な行為のうちに存する。

自由からの逃走 p284

この真のパーソナリティとは、外部からではなく自分の内部から生まれた自発的な欲求の実現に向けて行動していくことで形成されます。

そしてここから自発性という重要な要素について深堀していきます。

自発的とは何を指すのか

始めに大事なことは自発的活動が何を指すのかということです。

筆者は自我による自由な活動と定義し、活動は個人の感情的、知的、感覚的な諸経験と自由意思に基づいた創造的な活動であると説明します。

個人の性格や能力、経験により培われたもの、感じたものにより自発的活動の元となる内面からの欲求が形成されます。

この活動は決して外部からの要求に応えることを目的としたものではなく、自分の内的な欲求に応じたものとなります。

この自発性は下記のような前提条件が必要となります。

  1. ひとが自我の本質的部分を抑圧しないとき
  2. 自分が自分自身にとって明瞭なものなったとき
  3. 生活のさまざまな領域根本的な統一に到達したとき

偽りやごまかしなく自分と向き合うことで自分にとっての真の理想像を特定し、思い描いた理想像に向けて真摯に妥協無く歩み続け、その努力活動が場面により使い分けられるのではなく、生活のすべてで一貫している状態を指していると解釈します。

自発性の条件

自発性がもたらすもの

筆者は自発性自我の実現独創的な思考、そして積極的な自由の実現に必要なものとします。そして自発性によって何がもたらされるかを解説します。

一次的な絆から解放された人々は消極的な自由のみでは孤独感と無力感による不安に苛まれ、自我が弱められてしまうことを整理してきました。

ここで自発性にもとづく積極的な自由が、自我の弱体化を回避して孤独の恐怖を克服する唯一の道であると筆者は主張します。

この理由として自我による自発的な活動によって、個人を社会や自然そして自分自身に対しても新しい関係により繋ぎあわせることができるためです。

この自発的な活動の具体例として挙げられるのが「愛」「仕事」となります。

自発的な活動における愛の役割

を前提とした関係は所有や支配による相手を手段として利用するような関係ではなく、自他の自我を尊重しつつ個人同士を結び付ける関係となります。

愛による関係の特徴はその目的が相手の存在自体となるため、逃避行動と異なり人間の手段化が起こりません。

これはお互いに本心から個性を尊重しあう関係であるため、関係の構築や継続に無理や嘘は必要ありません。

この他者を否定せず自分を偽ることもない関係は、個性の発揮を促しながら不安の原因となる孤独感を解消します。

自発的な活動に分類される仕事とは?

次は仕事についてですが、一概に仕事といっても強迫観念により生まれるものは該当しません。他者からの強制集団への服従による仕事は自発的な活動に繋がらないのです。

創造という要素が必要となります。

仕事もいま一つの構成要素である。しかしその仕事とは、孤独を逃れるための強迫的な活動としての仕事ではなく、また自然との関係において、一方では自然の支配であり、一方では人間の手で作りだしたものにたいする崇拝や隷属であったりするような仕事でもなく、創造的行為において、人間が自然と一つとなるような、創造としての仕事である

自由からの逃走 p274

この創造的な仕事には、自らの欲求から湧き出る独創的な思考とそれを実現するための健全な成長が重要となります。

前者の難しさは第四章で整理しましたが、その独創的な思考に成果や手応えが無ければ、それは無力感を生む原因となりえます。

どんなに独創的であっても周囲の評価が得られなければ芸術家は生きていけませんし、革命家も挑戦が失敗すれば罪人として裁かれるという例が筆者から掲示されます。

個人として他者や集団に依存することなく自身の立てた目的のために生きていくことで自分の人生の価値や意味を感じられていることが重要となります。そしてそのためには健全な成長が重要な要素となります。

「人間が自然と一つとなる」という点は解釈が難しいと感じています。これは社会を含めた自分の外部の環境自然と定義し、その自然を否定も服従することなく尊重してその恩恵を受けながら相互に良い影響を与えあえる関係を構築することと解釈しています。

ここは下記文言も参考にしています。

もし個人が自分自身について、および人生における自分の位置についての根本的な懐疑を克服するならば、もしかれが自発的な営みにおいて、自然にたいしてそれを包含するような関係をたもつならば、もしかれが自発的な営みにおいて、かれは個人として、強さを獲得し安定をうる。

自由からの逃走 p289

活動そのものの重要性

筆者が指摘するもう一つの重要な着眼点は、自発的な活動人生へ誇りと幸福をどのようにもたらすのかという点です。

筆者は自発的な活動による恩恵は、その活動の結果ではなく、自我の強化活動自体というその過程によってもたられると主張します。

これは自発的な活動により得られた地位や財産、名誉が大事なのではなく、自発的な活動に取り組み日々の積み重ね自体が重要であるという主張となります。

お互いを尊重し合う仲間と共に自身の本当にやりたい仕事/活動により自分らしく生きていく生活は、充実感にあふれたものとなるでしょう。

逆に過去に積み上げた栄光がどれだけあっても、その後の生活が無気力孤独なものとなれば、幸せな日々とはいいがたいでしょう。

現代社会ではこの価値の逆転現象が起きている点を筆者は指摘します。

同じようにわれわれは、自分の人格的な性質や努力の結果を、金や特権や権力のために売ることのできる商品と考えている。こうして、重点は創造的行為の現在の満足でなく、完成された生産品の価値におかれる。

自由からの逃走 p289

自我の独自性

ここまで積極的な自由の実現のために、真のパーソナリティの確立自我の発達が重要であり、自発的な活動がそれを育むと筆者の主張を整理してきました。

ここからは自我がどのように発達するかという点と、自我の独自性により懸念される問題点にたいする筆者の主張を整理していきます。

自我の独自性をもたらす健全な成長とは?

自我が独自性を持つためには、健全な成長過程が重要となります。

自我の成長が阻害されると下記が難しくなり、結果として他者や集団への依存度が高まることで偽の自我が形成されます。

  • 自分の欲求に気付くこと
  • 自分の幸せにつながるの目標を立てること
  • 自分の立てた目標に時間を費やすこと

パーソナリティの形成は生まれつきもった心身の素質育った環境積み上げた経験の違いにより生まれた個性を基盤とします。

この個性が尊重され、その性質を活かす方向に成長することを、筆者は自我の純粋な成長として呼びます。

個性を基盤とした方向への純粋な成長

互いの個性が尊重され増幅し合う環境がこの成長にとってか欠かせない要素となるでしょう。

そして独自性を尊重して育てることこそが人間の文化にとっての最も重要な成果となり、現代ではこの成果が危機にさらされていると筆者は主張します。

真の理想とは

ライフワークになるような人生規模の目標を立てるためには真の理想が重要となります。

この真の理想はその内容の是非ではなく、他者から押し付けられたものではない、自分の本当の幸せにつながる欲求を表現するものを指します。

まだ実現されていないとしても、個人の成長と幸福という目標にとって望ましいものを求めようとする欲求を表現している。

自由からの逃走 p292

自分の目標が自分の成長と幸福に結びつく真の理想であるか、他者からあたられた仮の理想ではないかという見極めが重要であり、自身の掲げる理想が何であるかについて、批判的に分析することの必要性を筆者は強調します。

仮の理想の例として、本書ではファシズムが取り上げられます。ファシズムは国家による集団での理想の追求となりますが、その目的の実態は逃避的な行動による不安からの解消となります。

この逃避的な行動根本的な解決にならないことは第五章で整理した通りであり、個人の目的は集団から与えられた外部的なものへと差し替えられてしまいます。

このような偽の理想は、達成しても個人の成長や幸福につながらないという点が分析の際のポイントとなるでしょう。

個人の独自性と社会の関係

独自性を考える上での問題提起として、個人の独自性の尊重は個人主義を加速させることで協調性が失われ政治的な混乱を生むのではないかという懸念があげられます。

ここで前提として、積極的な自由が実現した個人は孤独感と無力感による不安が解消されているため、他者を手段化するような逃避への衝動を持ちません。

またお互いの人生の肯定を原則としているため、その過程や目標に他者や社会への還元を導くという利他的な性質を持ちます。

そのため、この独自性は第四章で取り上げられた近代的な利己主義とは異なり、その衝動に破壊性や権威主義といった他者の否定や他者に害をもたらすような危険性を持ちません。

結果として積極的自由による個々の独自性の発展は、政治的な混乱をもたらさないと筆者は主張します。

人々の人生を充実させる合理的な経済組織とは?

一方で筆者はそのような自由が実現された世界はいまだ存在したことはないという現実を指摘します。

現代では人間の道具化が進んだ結果、個人の欲求は外部から与えれた仮初のものとなり、空虚な個人主義が横行しています。

個人の自発的な欲求に基づく目標の実現を助ける経済組織を組み立てる必要性を筆者は主張すると同時に、本章の題名にも出てくるデモクラシーに言及します。

自由の勝利は、個人の成長と幸福が文化の目標であり目的であるような社会、また成功やその他どんなことにおいても、なにも弁解する必要のない社会、また個人が国家にしろ経済機構にしろ、自己の外部にあるどのような力にも従属せず、またそれらに操られないような社会、最後に個人の良心や理想が、外的欲求の内在化ではなく真にかれのものであって、かれの自我の特殊性から生まれてくる目標を実現しているというような社会にまで、デモクラシーが発展するときにのみ可能である。

自由からの逃走 p297

筆者は個人の自発的な目的に寄り添う社会を作るデモクラシーを真のデモクラシーを提唱します。

それは社会が成員にもたらす基本的な原理(日本国憲法でいえば健康的で文化的な最低限の生活)を強化・発展しながら、個人の自発的な活動による自由創意自発性を強化する合理的な経済組織となります。

人は環境に影響される生き物であるため、個人の自我を強める健全な成長を促す社会環境が重要となります。

実際にこれまでの章で社会の性格構造と人々の性格構造間での影響を実例をもとに確認してきました。

この影響は社会から人々への一方方向ではないため、人々の性格構造がこのような社会を形成するためのきっかけとなるかもしれません。

このような組織を形成する上での重要なポイントを筆者は下記の通り列挙します。

  • 純粋な活動の機会が個人に回復されること
  • 社会の目的とかれ自身の目的とが、観念的ではなく現実的に一致すること
  • 個人の目的が、人間の理想からして意味と目的をもっているからこそ、その仕事に責任を感じ、積極的に努力と理性とを注ぐこと
個人と合理的な経済組織の関係

最後に筆者は合理的な経済組織形成の上での具体的な問題点として、社会構成の計画個人の積極的な共同とのジレンマを取り上げます。

計画の規模が大きくなるほど、個人的な独自性を発揮できる人数が少数となる危険性があります。

筆者はこの解決策として組織間の合理的協調的な努力、そして組織の最小単位も十分な権限を持つことように分権することを提案します。

筆者は下記の通り主張して本編を締めくくります。

人間が社会を支配し、経済機構を人間の幸福の目的に従属させるときにのみ、また人間が精神的に社会的過程に参加するときにのみ、人間は現在かれを絶望-孤独と無力感-にかりたてているものを克服することができる。

自由からの逃走 p302

終わりに

以上12回にわたって「自由からの逃走」を整理してみました。

現代社会で生きる我々にとっても気づきが得られるポイントが多かったと思います。

自分の持っている自由の価値を認識して、自分の幸福のために活用出来ているかという点は自分の人生を充実させるために大事な考察点です。

また積極的な自由を実現する要となる独創的な思考についても、自分の立てている目標が自発的な精神活動から生まれているかという批判的な検討が重要な点となります。

今後は図でまとめた部分を中心に1記事で流れを纏めてみて、どういう風に行動に移すかという点の考察が出来ればなと考えています。

それではまた次の記事で!

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