エーリッヒ・フロム の「自由からの逃走」(東京創元社)について、読書日記をまとめていきます。
本書は過去に読んだことがあるので、その内容を復習しながら深く読んでいく予定です。
また、図を使って整理していくので、興味はあったけど読むのを躊躇していた方には、内容の全体像を掴む助けとなる記事を目指します!
今回はその導入の前に、背景情報を整理していきしょう!
今回は下準備なので図は少なめです。
筆者について
本書の筆者はドイツ出身の社会心理学者であるエーリッヒ・フロムです。
wikipediaを情報源としていますが、主な情報を下記に整理してみました。
略歴
主な略歴は下記の通りです。
- 1900年 ユダヤ教正統派の両親の間にドイツのフランクフルトで誕生
- 1931年 フランクフルト大学で講師に
- 1934年 アメリカへ。その後複数の大学で教鞭を取り、また教授となった
- 1941年 「自由からの逃走」発表
- 1974年 スイスに移住
- 1980年 スイスの自宅で死去
1931年で講師となりますが、その後にナチスが政権を掌握した後に、スイス・ジュネーヴに移り、さらに活動拠点をアメリカに移しています。
これはナチス政権の成立を丁度ドイツ国内で実体験として観察していたことを意味します。
研究背景としてこの経験が大きな影響を持っていることが本章の内容からもうかがえます。
思想と功績
主な思想と実績は下記の通りです。
- ドイツの社会心理学、精神分析、哲学の研究者
- フロイト以降の精神分析の知見を社会情勢全般に適応した
- マルクス主義とジークムント・フロイトの精神分析を社会的性格論で結び付けた
また、筆者は心理学者ではなく社会心理学者として紹介されます。
個人や患者を取り扱う心理学者と異なり、この知見を社会というマクロな対象にまで適応した点が大きな功績の1つです。
これにより適応範囲が患者個人を中心として限られていた心理学の可能性は、全人類が関係する社会を取り扱うまで大きく広がります。
また、その過程で全く異なる分野のマルクス主義と精神分析の知見を結び付けた点も特筆すべき点でしょう。
心理学の適応範囲の拡大と異なる分野との融合がどのような形で行われるのかも本書の注目のポイントの1つです。
本書について
本書の発行は1941年であり、丁度第二次世界大戦中となります。
民衆が時代の変化やそれに伴い与えられた自由に対しての不適合という問題点について解説されます。
そしてこの個人の自由への不適合がどのように権威主義やナチズムを生み出したのかを著述します。
自由に対する不適合は、現代のわれわれにも非常に参考になる点だと思うので、多くの人に読んでほしい内容です!
自由は人々が求める好ましいもののはずなのに、その自由からの逃走のという逆説的で非常に興味をひくタイトルになっていますね。
本書の構成
本章の構成は下記になります。
- 第一章 自由・・・心理学的問題か
- 第二章 個人の解放と自由の多様性
- 第三章 宗教改革時代の自由
- 第四章 近代人における自由の二面性
- 第五章 逃避のメカニズム 権威主義、破壊性、機械的画一性
- 第六章 ナチズムの心理
- 第七章 自由とデモクラシー 個人の幻影、自由と自発性
- 付録:性格と社会過程
本ブログでは基本的に毎回2、3章ずつ進めていこうかなと考えています。
主に一から三章が人間の精神と自由の関係と、近代に入る前までの時代背景を説明しています。
そして、第四、五、六章では近代で実際に発生している自由とパーソナリティの問題を取り上げ、ファシズムとその代表例としてのナチズムという実例へと切り込みます。
第七章はここまで取り上げた問題を解決するためにどうすればよいかという分析と処方箋に該当する部分となります。
時代背景とキーワード
20世紀に入るまでに、民衆の生活や生き方に影響を与えるような大きな社会構造の変化が毎世紀のように発生しています。そしてそのスピードは産業革命以降さらに加速度的に上昇しています。
この社会構造の変化は多大な発展と自由を世界にもたらしましたが、民衆はその大きな変化に完全に適応することができませんでした。
この不適合は自己実現を妨げ孤独感や無力感を引き起きし、この負の感情は民衆を本題の「自由からの逃走」へと導きます。
そして、社会はさらに歪な構造となり、結果として民衆の不適合が社会をさらに極端な方向へ加速させます。
本書を理解する上で重要な時代背景とキーワードを簡単に確認しておきましょう。
歴史の内容についてはこちらのサイト(世界史の窓様)を参考にしたので、より詳細に確認したい場合はそちらもご参照いただければ幸いです。
ルネサンス(時期:14-16世紀)
ルネサンスは文化復興として訳されることが多く、人間本来の文化を取り戻そうとするヨーロッパにおける文化と芸術を中心とした運動を指します。
この活動以前は人は封建社会と神中心の世界観により束縛されており、個性の発揮や自由な活動は制限された時代でした。
職業や住む場所も生まれによって固定される時代ですね。
ルネサンスによりこの束縛からの解放が起こり、より人間にフォーカスをあてた思想や芸術が発展します。
例えば絵画でもテーマは宗教画が中心でしたが、この頃から自由なモチーフへと移行します。
しかし、このような思想は一部のブルジョワに限定されたもので、一般的な市民はまだ封建社会の中にいる状況でした。
宗教革命(時期:16世紀)
現在も欧米はキリスト教の国という印象ですが、当時の人々の生活に与える影響は現在とは比較にならないほどで、神の代理人としてのローマ法王を頂点とした教会が絶対的な権威が支配していました。
しかし、お金を払えば罪を免除される免罪符等の所業をきっかけに、疑問を感じた信者から聖書を元にした純粋な信仰への回帰を訴えたプロテスタントという宗派が誕生します。
中心人物としてはドイツのルター、スイスのジュネーヴのカルヴァンが挙げられます。
この宗教革命により、人々は教会という支配から解放され始めます。
これは一見、人々が自由に近づくための好ましい出来事と感じますが、一部の人間にとっては与えられてきた生きる意味と集団への帰属の喪失を意味し、不適合の原因ともなります。
また、プロテスタント達はその勤勉さという性質により、社会基盤をより変化させる原動力に繋がります。
封建主義の崩壊(時期:12-18世紀)
中世ヨーロッパは主従関係、農奴制などを軸とした封建主義による社会を形成していました。
しかしこの社会は、上記の運動や変化と並行して様々な要因により徐々に崩壊していきました。
最終的にはフランス革命が決定打となります。
要因の例としてはペストによる農業労働力の減少に伴う土地の運用価値の減少が挙げられます。
これにより領主は所有している土地を手放す決断を迫られました。
また、貨幣の流通により個人が土地以外の保存性の高い価値を保有することが可能となり、生まれながらの身分を逆転することも可能となったことも要因の一つです。
地位、職業、居住地が生まれた時に決まってしまう社会から、自分で選択して勝ち取っていく現代の社会へと変わっていくこととなります。
産業革命、資本主義の台頭(時期:18世紀半ばから19世紀)
近代、現代への方向性を決定づけたのは産業革命です。
工業化の発展により、産業のパワーバランスが完全に変化します。
また、資本を元に労働力と機械を集約したり、資本を活用して更に多くの資本を手に掴む資本家が力を強めます。
個人が所持する資本がより良い生活を過ごすために重要となる資本主義社会の到来です。
この頃から出自に関係なく莫大な資産を所有することに成功する資本家の存在が珍しくなくなります。
一方、そのような自由度が増した社会であるからこそ、成功者と失敗者の線引きというレッテルが強調されてしまします。
自分の人生における決定権とともに、責任も大きくなります。
これまでは生まれで人生がほぼ決まっていたので貧しさは出自のせいと諦めることができたのが、資本主義社会により貧しさはその人に原因があるという風潮へと変化していきます。
この変化は個人に無力感を与える要因となります。
ファシズム(時代:20世紀前半)
第一次世界大戦から第二次世界大戦の間に目立った思想としてファシズムがあります。
詳細な定義は難しいので省略しますが、独裁による国家第一主義や帝国主義といったイメージでしょうか。
ここでは国や指導者があり、そこに人々が自身の個性や人権を犠牲として、帰属している状況がポイントです。
本書ではその1例としてのナチズムと、民衆の性格構造との関連について記載されています。
ここでは簡略化のため、広義としてのファシズムを取り扱っています。
マルクス主義(時代:19世紀~)
資本論の筆者としても有名なカール・マルクスとその協力者のエンゲルスにより提唱された理論。
資本主義社会における労働者からの止まらない搾取、人間の道具化を問題視し、この問題点の解消のために労働者階級からの闘争による社会主義への移行を提唱します。
現状、本来の理論に沿って労働者階級が主導した社会主義国家は無いので、本当にうまくいくかは机上の議論に留まります。
格差や人間の道具化は人間から生きる目的を失わせる要素となります。
社会構造の変化により自由が与えられたはずのに頑張っても豊かな生活にたどり着けない、生きる意味も失われていく。
資本主義は自由競争という建前の元で社会の発展を加速させる原動力となりますが、その反面で適応できない民衆には不利益をもたらす危険性が内在しています。
以前は不自由な生活ではありましたが、教会と神や領主など、自分の帰属先への奉仕という生きる意味は約束されていました。
精神分析
精神科医ジークムント・フロイトにより開発された心の分析を用いて精神疾患を治療する方法です。
人の無意識にアプローチすることが特徴であり、現在は催眠療法も活用されます。
このアプローチにより、これまで捉えることが難しかった深層的な意識を分析することが可能となります。
元は個人に対する治療方法でしたが、この分析を通して提唱された理論は様々な分野に活用されており、今回の「自由からの逃走」もその1つとなっています。
終わりに
あまり長くなりすぎてもと思い簡略に紹介してきましたが、今後の日記を進めていくうえで重要な部分は適宜更新していくかもしれません。
事前の予備知識の整理はこれまでとし、次回から本書の内容に入っていきましょう!
それではまた次の記事で!