名作を読んでみるシリーズ、「風と共に去りぬ」の第二巻を読んでいきます!初回はこちら。
自暴自棄で愛の無い相手と結婚した直後にアメリカ南北戦争が勃発し、子持ちの未亡人となったスカーレット。当時の風習に従って喪に服したうんざりした日々を過ごしていましたが、常識破りのバトラーの導きにより周りの目という名の檻からの解放が徐々に見えたところまでが第一巻でした。
第二巻では南北戦争の火の手がスカーレットが移住していたアトランタまで迫ります。スカーレットの運命はどうなるのか、お嬢様として何不自由なく育てられてきたスカーレットが戦火の中でどのような振る舞い/決断を見せるのかがポイントとなります。
第二巻あらすじ(新潮文庫より引用)
南北戦争が始まると、スカーレットの夫チャールズはあっけなく戦死した。遺児を連れてアトランタへと移ったものの、未亡人の型にはめられ、鬱屈した日々を送るスカーレットに、南北間の密輸で巨利を得ていたレット・バトラーが破天荒な魅力で接近する。戦火烈しくなる一方のアトランタを、レットの助けで脱出したが、命からがら帰り着いた故郷〈タラ〉は変わり果てていた――。
登場人物:今回の記事に関係する人と情報に限定(新潮文庫より引用)
- スカーレット・オハラ:本作のヒロイン。<タラ>の大農園主オハラ家の長女。個性的な美貌と激しい気性の持ち主。
- ジェラルド・オハラ:スカーレットの父。アイルランド移民で身一つから大農園の主に成り上がった。
- エレン・オハラ:スカーレットの母。フランス貴族の血を引く貴婦人。
- アシュリ・ウィルクス:スカーレットが想いを寄せるウィルクス家の長男。音楽と本とヨーロッパ文化を愛する。
- チャールズ・ハミルトン:メラニーの兄でスカーレットの最初の夫だが、南北戦争で戦病死。
- ピティパット・ハミルトン:チャールズとメラニーの叔母
- メラニー:献身的な心の持ち主。アシュリと結婚する。
- レット・バトラー:密輸で巨利を得る無頼漢。社交界の嫌われ者だが、不思議な魅力でスカーレットに接近する。
第二部
結婚により親戚となった間柄の関係で、アシュリの結婚相手のメラニーとアトランタで同居するスカーレット。アシュリは戦場から妻のメラニーに手紙を出しますが、スカーレットはその手紙の盗み見が習慣となっています。
スカーレットはしばし手紙の束を胸に押し抱いたまま、アシュリを愛しく思いながら立ちつくしていた。彼に対する気持ちは、初めて恋に落ちた日からちっとも変っていなかった。
風と共に去りぬ第2巻 ミッチェル p20
アシュリに対する想いがいまだに変わっていないことを直接的に表現しており、スカーレットの少女らしい一面が変わらず存在していることが伺える一文となっています。
「(中略)おおせのとおりわたしは下の下の人間です、いけませんか?ここじゃ自由の国であり、人は自分の意志で下の下になることもできる。図星をさされて激怒するのは、あなたのような偽善者だけです、親愛なるレディ。心はどす黒いくせにそれを隠そうとしているんだな」
風と共に去りぬ第2巻 ミッチェル p38-39
久しぶりのパーティで再会した後、レット・バトラーはスカーレットが住むピティパットに訪れるようになります。相も変わらずバトラーはスカーレットに辛口なコメントを送ります。
しきたりに沿わない自分を下の下と評しながらも、周りの目を気にして本心を出せないスカーレットのような生き方を偽善者であると言い切ります。
自由の国といわれながらも、多くの人が自分の本心を出せていないというギャップが印象的でピックアップしました。
この辺りから文中でのバトラーの表記が「レット」とファーストネーム呼びになっている点も印象的でした。スカーレットとレット間の距離が縮まっていることを暗に示しているポイントなのでしょう。
たしかに上流社会の人々の生活にはくだらない習慣がたくさんある。現実に反して、心はいつも亡き夫を思っているふりをしなくてはならないとか。バザーでダンスをしただけで、みんながとんでもなくショックを受けたり。ほかの若い娘たちとほんのちょっとでも違うことをしたり、言ったりすると、眉をつりあげて見せるあの頭にくる態度。南部の伝統にはこんなに飽き飽きしているのに、それでもいざそれをレットがこきおろすのを聞くとひやりとした。本音はそつなく伏せておく人たちの間で長年生きてきたから、まさに自分が思っていることを他人が口にするのを聞くと、動揺せずにはいられないのだった。
風と共に去りぬ第2巻 ミッチェル p77
頭で南部の伝統に不満があっても、レットが同様の発言をしたときは感情が動いてしまうというスカーレット内の矛盾を示す場面です。論理と感情の内、本心や欲求をコントロールするのは論理というイメージがありましたが、ここでスカーレットの行動を縛っているのは感情のようです。
以前ブログで紹介した本で、感情は人が社会で生きていくために必要な行動を促す重要な要素であることを学びました。ここでも感情が、スカーレットを社会に染まった(周りから浮かない)対応へ強いており、学んだ内容と一致した表現で印象に残りました。
また、育つ環境が人の行動に影響を与える点も表現されていて興味深いと感じました。
「(中略)スカーレット、メラニーはか弱い女だが、きみは強い。この先、自分の身になにがおきようと、きみが彼女のそばいいると思えば慰められる。約束してくれるね?」-アシュリ
「するわ、約束する!」スカーレットは声高に答えた。その瞬間、死がその指先で彼の肘にふれるのが見え、どんなことでも約束する気になった。
風と共に去りぬ第2巻 ミッチェル p151
クリスマス休暇で戦場から戻ったアシュリ。妻のメラニーが常に横にいるため、スカーレットはアシュリと中々二人で話せません。休暇最終日にようやく二人で話す機会を掴んだ場面での会話です。
アシュリへの憧れを捨て切れなスカーレットは、アシュリがまだ自分を愛しているはずだと信じています。そんな中でようやくつかんだ二人きりの時なのに、恋敵となるメラニーの世話という酷な頼まれごとをされたスカーレットは落胆します。
しかし、その後、アシュリから死への覚悟をとその予感を感じ取ったスカーレットは、アシュリに死んでほしくないいという気持ちの昂ぶりからメラニーの面倒をみることを約束します。
好きな人から「きみは強い」と断言されるのは、当時の女性としては中々酷なのではという点で印象に残った点でした。確かにこの強さというのはスカーレットという人物を魅力的にする重要な要素なのですが。
第三部
メラニーは弱々しく微笑んだ。「わたしの面倒を見るってアシュリに約束してくれたのでしょう。お願いしておくからって、あの人、言ってたわ」(中略)メラニーはなにも気づいていない。好きな相手には善いところしか見えなくなってしまうのだろう・・・たしかにアシュリにはメラニーのことは気にかけると約束した。ああ、アシュリったら!きっともう何か月も前に亡くなっているのに!いまごろになって、あなたとの約束の手がのびてきてわたしを捕まえるとは!
風と共に去りぬ第2巻 ミッチェル p256
スカーレット達が住むアトランタに敵軍が迫ってくる一方で、アシュリの子を宿したメラニーの出産も迫っている状況です。アトランタから避難をし<タラ>に帰りたい、しかしメラニーはとても移動できるような状態じゃない。
様々な困難が近づき決断を迫られ、更にスカーレット自身はアシュリが既に死んでいると考えていてもなお、彼と交わした約束が呪いのようにスカーレットを縛るのが印象的でした。そしてこの約束により引き起こされる様々な苦難がスカーレットをどう変えるかもこの中盤の見どころだと感じました。
レットは立ち上あがると、胸に片手をあてておどけたお辞儀をした。
「愛しい人よ」レットは静かにつづけた。
「きみの鋭い知性に敬意を表し、このさいまどろっこしい口説き文句は抜きにして、わたしの愛人になってほしいとお願いしよう」
風と共に去りぬ第2巻 ミッチェル p290-291
多くの人がアトランタから避難する中、メラニーのために避難できないスカーレット。そこへレットが訪ねます。
レットはこれまでスカーレットへの気持ちを明確には示していません。スカーレットはアシュリを愛していながらも、レットが自分を愛しているのかという疑問や、自分に告白させることはできないかという想いが浮かびます。
そこにはいつも翻弄してくるレットに対する勝利という目的もありますが、レットに対する不思議な気持ちの存在にも気づきます。
そんな中でレットから出てきた言葉が上記となります。スカーレットはその発言に勿論激怒し、貴婦人にあるまじき暴言を交えながらレトラーを追い返します。
スカーレットとレトラーの関係が決定的となるシーンなのかなと思いピックアップしました。
「ああ、スカーレット、こんなところにいてはだめよ。ウェイドを連れて逃げてちょうだい」-メラニー
(中略)
「なにをばかなことを。わたし、怖くなんかないわよ。あなたを置き去りにするわかげないでしょ」
風と共に去りぬ第2巻 ミッチェル p354
いよいよメラニーの出産が近づくシーンです。しかし、敵軍もアトランタに迫っており、医者やお産婆も捕まらずスカーレットとお付きのプリシーのみで赤ちゃんを取り上げなくてはいけない事態となります。
戦火が近づくアトランタから避難したいという本心を隠して、メラニーを見捨てないことを宣言するセリフとなります。危機的な状況でも弱音を表に出さず約束を果たそうとするスカーレットの強さが見られる一場面と感じました。
「それでも家に帰るわ !」スカーレットの甲高い声は割れて、しまいに悲鳴のようになった。 「帰るのよ!止めても無駄よ!絶対に帰るんだから! お母さまが必要なのよ! 止めようとしたら殺すわよ! 帰ったら帰る!」とうとう長い緊張のたがが外れて堰を切ったように、恐怖とヒステリーで涙があふれ頬に流れ落ちた。
風と共に去りぬ第2巻 ミッチェル p375
アトランタ目前に迫った敵軍。メラニーも出産を終え、アトランタからの逃亡を図るスカーレット。その中で唯一の頼りとなるレットに助けを求めます。どこも敵に囲まれていてどこに向かおうというのかというレットに、スカーレットは故郷の<タラ>に連れていくよう伝えます。
<タラ>方面は多くの敵がいて、<タラ>自体も敵の手に落ちている可能性を考慮し、レットはそれは出来ないと答えますが、極限状態の連続でスカーレットはついに感情が溢れ出てしまうシーンです。
いつも強い姿勢を崩さなかったスカーレット、しかしこの時まだ19歳であり、本来もちあわせていた子供らしい一面が久々に溢れでます。この姿に思わずレットも<タラ>に向かうことを了承します。
レットは手にした手綱を緩めたまま、 身じろぎもせず隊列を見送っていたが、その浅黒い顔には妙に不思議な表情が浮かんでいた。
風と共に去りぬ第2巻 ミッチェル p375
(中略 )
「ねえ、 レット」スカーレットは彼の腕をつかんでささやいた。「あなたがいなかったら、 私たちどうしていたかしら?あなたが入隊していなくてよかったわ!」レットがこちらをむいて、 一瞥をくれた。
(中略)
レットの目にはもはやからかいの色はなかった。剥きだしの怒りと、とまどいに似たなにかが、そこには宿っていた。
レットの用意した馬車に乗り、スカーレットはアトランタから<タラ>へ避難します。そんな中退却する味方の隊列と遭遇します。南部軍も含め、お国のために戦うことを馬鹿にしていたレットはその隊列にも嘲る態度を示しますが、その隊列を見ている内に表情と様子が変わります。
スカーレットのささやきにも、いつもの調子での返しはありません。ここはレットの心情に大きな変化があり、その原因は何なのかという考察のしがいがあるシーンだと思います。
レットの様子の変化の直前では、スカーレットと変わらない背丈の少年が疲労で倒れ、仲間におぶられていく場面が描写されます。そんな少年でさえ疲弊し苦しんで闘っている姿を目の当たりにした一方、自分はいったい何をしているのだという罪悪感に似た気持ちが生まれてきたのではないかと考えますが、考察が少し素直すぎる気もします。
ここの心境変化に関する描写が無いか、気を付けて読み進めていく予定です!
「分かってくれとか赦してくれとか、言うつもりはない。もっともきみがどう思おうと知ったことではないがね。いずれにせよ、わたしはこんな愚行を犯した自分を、この先、決して理解しないし赦しもしないから。自分の中にこれほどのドン・キホーテ精神が残っていたとは、こまったもんだ。(中略)」
(中略)
「愛しているよ、スカーレット。わたしたちは似た者同士だからね。おたがい裏切り者だし、身勝手でどうしようもないやつだ。自分の身さえ安泰であれば、全世界が滅びても屁とも思わない」
風と共に去りぬ第2巻 ミッチェル p398
レットがスカーレット達を道中に放置し、南部軍に入隊すると決意表明をする場面です。印象的な台詞の連続でどこをピックアップしようか悩みました。
先ほどの心情の変化を「ドン・キホーテ精神」と評していることから、彼の中の騎士道精神のようなものがトリガーとなっていると推測できます。頭の中ではそれが不合理な選択と分かり明言もしながらその道を選ぶというのが印象的なシーンでした。
あとドン・キホーテ精神を「残っていた」と表現したのも気になりました。色々ないざこざを経て、ごろつきのような性格となったと描写されていましたが、真っすぐな青年だった時期もあったのでしょうか。
また、まだ続きを読んでいないので推測ですが、スカーレットに対する気持ちを一番素直に表現しているのがこのセリフではないかと思います。以前は愛していないと言っていたバトラーですが、スカーレットへ愛の気持ちがあることを認めます。
<タラ>へむかう長い旅の途上で、娘時代というものをどこかへ置いてきたようだ。新たな経験をするごとに跡がつく柔らかなおもちゃの粘土では、もはやなかった。千年もつづいた気がするこのはてしない一日のどこかで、粘土は硬化してしまったのだ。(中略)スカーレットは大人の女になった。青春時代はもうおしまいだ。(中略)自分の重荷は自分で背負う。重荷というのは背負える強さをもつ者にあたえられるのだから。いま高みから世界を見おろしながら、この身に起こりうる最悪の事態に耐えてきたのだから、自分の方はもうどんなものだって背負えるほど強いんだ、そう考えても意外には思わなかった。
風と共に去りぬ第2巻 ミッチェル p466-466
レットから放置をくらい、なんとか自力で<タラ>までたどり着いたスカーレット。待っていたのは戦争で変わり果てた<タラ>、そして何よりもショッキングであったのが敬愛する母エレンが前日に亡くなっているという訃報であり、父ジェラルドもそのショックから立ち直れていない状況でした。
決死の避難からの疲れを癒す間もない悲劇の連続、そんな夜の自分の部屋での描写となります。スカーレットの生き方が大人の女性へと変化する決定的な場面と感じたのでピックアップしました。その気持ちの変化が粘土の比喩で表現されます。
スカーレットはもはや少女ではなく<タラ>の女主人として、<タラ>を守ることを決意します。この覚悟のかっこよさに惹かれる人も多いのではと思います。
第三巻では<タラ>を守るために奮闘するスカーレットの姿がみられるでしょう。どんな困難がやってきて、それに対してスカーレットはどう対応するのかに注目です!
それではまた次の記事で!