論語×経営論?「青天を衝く」ための心構えとは?-読書日記

これまでは独自路線で読みたい本を選らんできましたが、今回はなんと流行に乗り大河ドラマの主人公の著書を読みました。

今回はビジネス書としてのフォーマットで読書日記をまとめましたが、内容が非常に面白かったので、気になるフレーズをまとめて考える深読日記も後日作成したいと思います。

今回の本

今回は 日本資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一氏「論語と算盤(そろばん)」(角川ソフィア文庫)です。

筆者について

渋沢栄一氏の詳細な経歴はwikipediaや現在放映中の「青天を衝け」に譲りたいと思います。

農家の出自より、尊王攘夷志士、将軍家臣、海外渡航、大蔵省勤務を経て実業家へと、大河に取り上げられるのも納得の波乱万丈な人生ですね。

実業家としては現在のみずほ銀行となる第一銀行の設立を指導し総監役を務めたり、現在も続く名高いあまたの会社の経営や立ち上げ支援に携わります。


日本製紙や東京ガス、東京海上日動、キリンホールディングス・・・一部の抜粋だけでもその数業界の広さに驚きます。

そのほか生活困窮者救済事業である養育院の運営や癌研究会の設立という福祉・医療、現在の一橋大学である商法講習所の運営指南などの教育分野等にも携わります。

資本主義といわれると、金儲け利己主義のような良くない印象を抱く方もいるかもしれませんが、取り組みと経歴を見ると、その印象は筆者には該当せず社会/国家への還元国家の繁栄という点への関心が強かったことがわかります。

その多大な業績に対して、お札の肖像画や大河ドラマになるまでにその知名度が高くなかったことに驚きを隠せません。

概要

今回の「論語と算盤」、タイトルだけではどのような内容がイメージが付かないという方も多いのではないでしょうか?


私も正直想像ができませんでした。

国語と数学の本なのかな?という印象を持つ方もいるかもしれません。

論語は有名でありまだ内容が想像しやすいですが、算盤のほうは何を指しているのかのイメージが湧きづらいですね。

算盤とは?

算盤は数学というわけではなく商売経営に該当します。

そのため、国語と数学のような基礎教養本ではなく、現在の資本主義社会での生き方を学べる実用書という立ち位置が近くなります。

論語と商売って相反しないの?

道徳礼儀修養等を尊重する儒教の根本となる論語は、利益発展を追求する商売資本主義的な考えとの相性は良くなさそうに思えます。

しかし、渋沢氏は論語は利益や富を持つことを否定してはいないと主張し、相性の悪さを否定します。

むしろ、長期的で継続的な発展のためには、論語で学べる姿勢や心構え、習慣が重要であると説きます。

論語算盤(商売、経営、資本主義)渋沢氏がどのようにとらえて融合していくか、というのが本書の見どころです!

本書は論語の考え方を、現代の資本主義の社会で実践するにはどうすればよいか長期的で本質的な発展を達成するにはどのような姿勢と心構えが必要かを指南する書ととらえることが可能です。

その実践の姿勢は本書や経歴からも見て取ることができ、有言実行の筋の通った人物という強い魅力を感じさせてくれるでしょう。

多く社会を益することでなくては、正径な事業とは言われない。仮に一個人のみ大富豪になっても、社会の多数がために貧困に陥るような事業であったならば、どんなものであろうか。如何にその人が富を積んでも、その幸福は継続されないではないか。ゆえに、国家多数の富を致す方法でなければいかぬというのである。

論語と算盤 p240

章の構成

本書の構成は下記の通り10章から成ります。各章で最も大事と思うところを右に抜き出してみました。

  • 処世と信条:仁義道徳とその教本としての論語の重要性について、商売における論語の有用性について
  • 立志と学問:常に学業と仕事に勤勉に取り組むこと、大小の立志の一貫の重要性について
  • 常識と習慣:意志・知恵・情愛の適度な調合による完全な常識の形成、良習慣を身に着ける重要性について
  • 仁義と富貴:商売における仁義道徳の重要性について、富の社会への還元の義務について
  • 理想と迷信:趣味を持って仕事にあたり理想へ近づく可能性を高める
  • 人格と修養:人格の要素について、修養の目的と注意点について
  • 算盤と権利:個人の富と国家の富の関係、格差の調和、善意の競争と悪意の競争について
  • 実業と士道:武士道を実践する重要性について、商業家にとっての信の重要性について
  • 教育と情誼:孝のあり方について、精神修養教育の重要性について
  • 成敗と運命:運をつかむために重要な姿勢、運命を切り開くために必要なこととは

章に分かれていますが、内容はそれぞれ幅広い内容となっていますので、個人的感想として、タイトルから各章の内容を網羅するのは難しいです。

一部複数の章で同じ考えや主張が繰り返す項目がありますが、それだけ筆者が重要ととらえているものと考えられますね。

一方で、本書では各章に対して「この章ではここに注目」が追記されており、初めて読む方でもどこに注目すればいいのかの着目がしやすいのがありがたいです。

読むのをオススメしたい方

論語を読んでも自分の行動に活かせなかった、苦戦している方

私のことですね。

読書をいかに行動と実際の生活に活かすかというのは、読書の価値を高めて時間を有効活用する上で大切なポイントです。

論語自体でも実践の大切さを説いていますが、時代背景や文化の違いにより、具体的にどう行動に移すかという方針を立てることができませんでした。

さらに論語は弟子とのやりとりを元に構成されるので、読者はそこから何を孔子が言おうとしているのかを読み取る必要があります。

これも論語をはじめて読んだ人がつまづくポイントでないかと思います。


だからこそ自分で考える力を養うきっかけとできたり、面白みが増すという長所があります。

その点、本書は近代の、それも学者ではなく実業者の目線で論語を紐解いてます。

そのため、日常のどの振る舞い、習慣に考えを取り入れることができるかのイメージをふくらませることができる一冊です。

本書を読んでからもう一度論語を読むと以前は気づけなかった新しい発見に出会えるでしょう。


本書は論語以外にも儒教の重要な経典をとりあげており、私は過去「孟子」を読んだ際は理解が及ばず全く自分の行動に活かせることができなかったので、その観点でも勉強になりました。

仕事や勉強への取り組み方に迷いや悩みがある方

現在の生き方やその多くの時間を占める仕事や勉強への取り組み方はこれでいいのか。

これは自分の人生の軌道が間違っていないかを見直すために重要な問いとなります。

本書は論語を通して仕事や勉強への取り組みで注意が必要な点についての指南が散りばめられています。

これをただの机上論や理想論ではなく、すでに長期的に体現してきた筆者の実体験を伴う意見となるので強い説得力があります。

さらにこの点を一方的ではなく、失敗することや逆境もあると認め、その時の心構えにも触れるという広い視野から解説しています。


この広い視野と柔軟性も後述する中庸で大事なスキルとなり、筆者の一貫性を感じます。

そのため、害となる圧迫的な精神/根性論とは異なり自然に無理のない範囲で内容を受け止めることができると思います。

蓄財や成功が自分の幸せに結びついていないなと感じている方

資本主義社会でよく使われる成功の指標はです。

しかし、富がそのまま幸せに直結しないということは、多くの例から納得できると思います。


お金があるほうが幸福を感じている人の割合は多いと思いますので、お金の重要性は否定しませんが、単純相関とはならないですよね。

自分の計画通りに取り組みが上手くいったのに想像していたほどの満足度は得られなかった順調に資産や貯金は増えているけど幸福度の高まりを感じない大きいお金が突然入ったけど散在してしまった

そのような場合は、何か自分を幸福にしてくれる大切な要素見落としているのかもしれません。

本書は道徳から外れた功利主義が陥りがちな問題点も指摘し、長期的な発展と幸福のためには論語による心の修養で磨かれた商才が必要であると解説します。

そのため、本当に自分が自分の見落とし見落としているものが何かに気付くきっかけとなる可能性があります。

この見落としていた要素自分の人生の方針を修正する上で非常に重要になります。

下記はその一例となります。

道徳上の書物と商才は何の関係が無いようであるけれども、その商才というものも、もともと道徳をもって根底としたものであって、道徳と離れた不道徳、欺瞞、浮華、軽佻の商才はいわゆる小才子、小悧口であって 、決して真の商才ではない。ゆえに詳細は道徳と離るべからざるものとすれば、道徳の書たる論語によって養える訳である。

論語と算盤 p22

商売というのは人の社会の中で実施するため、そこには道徳が適応される。とすれば、本当の商売には道徳の学習が必要となり、論語を学ぶこと商売に求められる能力も自然と向上すると解釈しています。

一方、短期的な金儲けのテクニックというのは、長期的な幸せにつながりませんし、本書でも紹介はされません

そのため、本書にそちらを期待していた方は注意が必要です。

読んで感じたポイント

一番印象に残ったポイント

本書で頻出するキーワードの一つに「中庸」があります。

中庸とは

本書はこの中庸の重要性を説くとともに、本書内で中庸自体をまさに体現していると感じた点が印象に残りました。

中庸は日本国語大辞典だと「どちらにも片寄らないで常に変わらないこと。過不足がなく調和がとれていること。また、そのさま。」と説明されます。

中庸は儒教でも重要なキーワードであり、核となる4経典の内の1つのタイトルが「中庸」となっているほどです。

さらに論語の中でも「過ぎたるは、なお及ばざるが如し」孔子が中庸の重要性を説く場面が登場します。

人間は不足を補おうと目がいきますが、過剰になった時に気付いてブレーキをかけるのは難しいです。そしてこの過剰は身を滅ぼす原因となりかねません。

そのため、この中庸の重要さを認識し、自分の生き方や方針のでバランスが崩れていないかを振り返ることが重要です。

中庸の実践は簡単ではない

中庸とはちょうどいいところを目指す、言葉にすれば簡単ですが、実践は非常に難しいです。

いったいどこがちょうどいいポイントなんだろう?実際に取り組もうとした人にあがる共通の疑問符だと思います。

また、私は始めこの中庸を一次元的な量や程度の観点でのみ考えておりましたが、この考え方だと色々な不具合が出ていきます。

どのくらいがちょうど良いのかについて、状況の変化にあわせ修正や調整が必要となりますが、視野が狭い状況で1つの方針を調整すると今度は他の要素のバランスが崩れ、1要素のみを考えるだけでは不十分だと感じました。


簡略な例でいうと、仕事の量をほどよくコントロールしようとし過ぎて出世へのモチベーションが無くなるとか。

また、全てのことで程よくを目指そうとしていると、どんどん平均化脱個性化の道へ、自分らしい姿から遠ざかっていく気もしました。

中庸実践のお手本

その経験から私は中庸とは、複数の方針や選択肢と要素について、その本質を見極めて良い部分と欠点を把握し、その長所を生かして組み合わせて融合することであると個人的に定義しています。

この融合という昇華がないと、ただの中途半端なつまらない取り組みに終わってしまうと考えております。


最近の例ですと、CMにまでその言葉が使われてきた行動経済学も、異分野の組み合わせですね。

この昇華には、1つの考えに囚われたり他の考えを拒絶することなく、視野の広さ柔軟性を持ちながら実践を継続することで対象の本質まで深く理解すること、広い視野で実践と学習を連動してつみあげていく習慣が重要となります。

論語算盤という一見関連がないものを、それぞれの本質を読み解くことで、実用的な考えへ昇華するという筆者の本書での取り組みは、まさにこの融合のお手本であると感動しました。


「一番印象に残った点」の記載に熱が入りすぎてしまったので「面白いと感じた点」は次の記事で記載したいと思います!

行動に取り入れるなら?

自分の仕事や勉強の取り組み方や習慣を見直してみる

今回の本は心構え習慣に関して勉強となる本となります。

そのため毎週ランニングの時間をする、毎日20分英語の勉強をするなどの分かりやすいTo doを直ぐに設定することはできません。

自分の行動や習慣に活かすためには、自分の働き方や日々の過ごし方を振り返り、振り返った結果をもとに参考にすべきポイントを特定とする段階が必要と考えます。

何を参考にすべきかについて、個人的には下記を基準にしています。

  1. 自分が重要と感じた点:価値観としても合うものや、課題と感じているものである可能性が高いです。この基準が一番分かりやすいでしょうか。
  2. 散れ入れ方のイメージが付きやすいもの、すぐ試せそうなもの:行動変化や習慣改善にもコスパが重要です。それがうまくいけばさらに難易度の高い挑戦に取り組む勇気となります。まず試しにやってみるというのも大事ですね。
  3. 頻度が多い行動や習慣に関係するもの:頻度や回数が大きいほど改善の効果は高まります。1番と重複する方もいると思います。
  4. 自分の価値観と遠いと感じた点:異なる価値観は自分にとっての新しい発見や、中庸の達成に欠けていた要素の補完につながる可能性があります。ただ異なる価値観を完全に自分のものにするのは非現実的だと思うので、どういう狙いや長所、短所があるかを考え、部分的に取り入れることでバランスを取ることが有用なアプローチと考えます。

また、その学習内容も長期的な幸せ、人生の価値を高めるための姿勢となる分、成果が出るまでは時間が掛かり継続が特に重要となります。

本書と論語の継続的な読み返しや、目標を明文化する、仲間を作るなどの継続するための工夫が有効となるでしょう。

論語と比較して読んでみる

論語を読んだことがないと本書の理解が難しいと思うので、基本的には論語を先に目を通すことをオススメします。

最初は内容のイメージがつかなくても、本書を読むことでイメージしづらかった対応する箇所の意味を捉えることが可能となります。

ただ、論語の内容を知らなくても渋沢氏が説く内容には説得力があるため、本書を論語への関心を高めるきっかけとするアプローチも問題ないでしょう。

本書は、孔子の言行の意図や狙いを理解するヒントとなるため、論語を読み理解するハードルは大きく下がります。

また、既読の方でも上述の通り、本書を読んだ後では論語の印象や解像度が変わります

そのため、本書をきっかけに論語を再び手に取ると、習慣の改善につながるような新しい学びがあるかもしれません。

純粋な解説本と比較し、実践することによるメリットが伝わる本書は、紀元前より長期に渡り愛される東洋の考え方を良く学ぶきっかけとして非常に有用であると考えます。

終わりに

近代とはいえ少し昔の本なのと、歴史等の基礎知識が必要となる箇所もあるので、現代の本と比べると読むのに時間が掛かりました。

しかし、それでも全体的に納得感が強い現代でもその力を変わらず発揮する一冊と感じました。

渋沢氏を お札の肖像画とするこの機会に、士魂商才勉強の目的を持つ重要性、そして知識のみではなく精神面での修養の重要性を説くところは、中学校の教科書に盛り込んだ方が良いんじゃないかなとまで感じたほどです。


中学校時代からその考えに触れておきたかったなと個人的に感じたためですね。

タイトルは「論語と算盤」となっていますが、本書はどちらかという商人に対し論語による心構えを指南する書という方向がつよいと感じました。

現代、ほとんどの方が資本主義社会における経済活動に携わっているため、本書の内容を有用と感じる方は当時より多いかもしれません。

正しい経営と商売とはなんであるか、それを達成するために必要な日ごろからの取り組み方や勉学の習慣、心構えが主に紹介されます。

そのため、商売や経営面での必勝法即効性のテクニックというのは本書の守備範囲外となります。

しかし、この小手先のテクニックは直ぐに使える分、汎用化や環境の変化に弱いという弱点ががあり価値がなくなるのも早いという特徴があります。

一方、身に着けるのが難しい分差別化を生むため、心構えを身に着けることの長期的な価値は高まります。

さらに本書は紀元前から学ばれている孔子の言行をまとめた「論語」を基ととしているので、その普遍的な価値としての信頼性も抜群です。

さらに、この論語に基づく修養が、本当の商才にもつながると渋沢氏は説きます。

インターネットが登場し、情報社会となった現代でも、どんな人でも参考になる点が必ずある1冊です。

是非、お札の肖像化や大河ドラマと旬に乗っているこの機会に手を取っていただければと思います!

それではまた次の記事で!

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