今年も早いものでもう4月になりましたね。皆様は今年の桜を十分に満喫できましたでしょうか?4月といえば年度も変わり変化の季節。新しい環境へ挑戦する人や人間関係に変化がある人も多いですね。
環境の変化や新しい人間関係に対しワクワクされている方もいる一方で、「新しい環境に馴染むのにいつも時間が掛かるんだよなぁ」、「直ぐに色んな人と仲良くなれる人がうらやましいな」と悩みを抱える方も少なくないでしょう。
今回取り上げるキーワードは「内向型」です。内向型を取り扱う本やメディアでの露出も増え、「内向型」という言葉に聞きなじみや見覚えがある方もいらっしゃると思います。環境の変化や新しい人間関係に不安や悩みを持つ方は、「内向型」という特性を強く持つ可能性があります。この「内向型」という特性は脳の働きの個人差による影響を受けます。
一方で環境の変化や新しい人間関係を苦にしないばかりか、楽しみとできる方は「外向型」という特性が強い可能性があります。
「人と直ぐに仲良くなり、新しいことにドンドン飛び込んでいける人、活発な議論を好む人」が皆様の周りでもいらっしゃるのではないでしょうか。
では、「「内向型」が悩みの原因となるのなら、矯正すべきものなのか?」というのが今回のテーマです。脳の仕組みの個人差が「内向型」と「外向型」という特性に影響を与え、それぞれに強みがあるというのが今回取り上げる本のポイントです。
内向型人間の特徴を知ることは内向型である人の可能性を広げ、外向型の方とのコミュニケーションも円滑にする上でも役立ちます。それではさっそく本の内容を見ていきましょう!
今回の本
今回読んだ本はスーザン・ケイン氏の「Quiet-内向型人間の時代」(訳:古草秀子氏、講談社)です。
「内向型」、「外向型」と聞くと、「外向型」の方が行動的で社交的で社会からの評価も高い、というイメージをお持ちではないでしょうか?実際会社の求人や評価基準、学校の通信簿で、その真逆の慎重さや寡黙さが求められることはありません。
しかし本書の副題が「社会を変える静かな人の力」となっていることからもわかる通り、内向型も実は大きな力を持っていることを主張する一冊となります。
筆者
スーザン・ケイン氏はウォール街の弁護士からライターへ転身し、企業や大学などでコミュニケーション、交渉術の講師を務めています。またコミュニケーションやリーダーシップ・スキルの向上を目的とする非営利教育団体(トーストマスターズ日本のリンク)から、最高栄誉のGravel賞を授与しています。TEDにもTalkがありますので、お時間ある方は是非ご視聴ください!
経歴を見ると、筆者はコミュニケーションの達人で、コミュニケーションに苦労しない外向型のようなイメージを受けます。しかし、本書の冒頭で筆者自身も交渉やスピーチから逃げたい衝動に駆られる内向型あり、だからこそ内向型が自分の能力を正当に評価して最大限に発揮するための方法を模索してきたと告白します。
「はじめに」の最後でこの本に込めた思いを筆者は下記の通りつづります。
もし、あなたがこの本から得られることがたったひとつだけだとしたら、それは自分自身を新しい観点から見るようになることであってほしい。新しい自分を見つけることは、人生を変える効果を生みだす。
Quiet-内向型人間の時代 はじめに p23
本書の構成
本書は大きく4つのパートと最終章を含めた12の章で構成されます。今回のテーマとした「「内向型」が悩みの原因となるのなら、矯正すべきものなのか?」については、主に第4,5章で述べられます。
- はじめに
- パートⅠ 外向型が理想とされる社会
- 1章:”誰からも好かれる人”の隆盛
- 2章:カリスマ的リーダーという神話
- 3章:共同作業が創造性を殺すとき
- パートⅡ 持って生まれた性質は、あなたの本質か?
- 4章:性格は運命づけられているのか?
- 5章:気質を超えて
- 6章:フランクリンは政治家、エレノアは良心の人
- 7章:ウォール街が大損し。バフェットがもうかったわけ
- パートⅢ すべての文化が外向型を理想としているのか?
- 8章:ソフトパワー
- パートⅣ 愛すること、働くこと
- 9章:外向的にふるまったほうがいいとき
- 10章:コミュニケーション・ギャップ
- 11章:内向型の特性を磨く方法
- 終章 不思議の国
- 「内向性・外向性」「内向型・外向型」という言葉について
個人的にはパートⅣの「愛すること、働くこと」という名前が、以前整理した「自由からの逃走」で取り上げた「積極的な自由」を実現するための方法とリンクしているのが印象的でした。
積極的な自由とは、自主的かつ積極的な活動に活用される自由であり、成長・個性の発揮・能力の発揮に繋がるため、人生を充実させる要因となります。
筆者も愛と仕事を人生における重要な活動と見なしていることが読み取れます。内向型の人にとって愛と仕事において、どのように立ち振る舞えば自身の能力を発揮できるかについても知見を得られる一冊です。
内向型と外向型とは?
今回の記事では内向型と外向型とは何なのかという点について整理していきたいと思います。
ユングによる内向型と外向型の提唱
著名な心理学者カール・ユングによる「心理学的類型」と題した本における性格理論の中で、内向型と外向型という分類は初めて登場しました。内向型と外向型は下記のような特徴があるとされます。
- 内向型:自己の内部の思考や感情に心を惹かれ、ひとりになることでエネルギーを充電する
- 外向型:外部の人々や活動に心を惹かれ、十分に社会で活動しないと充電が必要となる
回答を元に16の性格タイプに分類するマイヤーズブリッグスタイプインジケーター(MBTI)性格検査)はユングの「タイプ論」を元に作られています。
現代の研究における内向型と外向型の定義
ユングによる提唱後、このテーマを多くの研究者が取り扱ってきましたが、内向型と外向型に関する万能の定義はまだありません。研究者により定義が異なっているためです。本書では研究者の見解間の共通点に着目して議論を進めています。
内向型と外向型を分類する上で共通する定義は、上手く機能するために必要な外部からの刺激レベルが異なるという点です。
外向型の人は刺激が少ないと物足りなさと不安を感じ、快適な状態を保つために多くの刺激を必要とします。そのため、人付き合いに積極的かつ主導的で、新しい挑戦や社会での活動を強く求めます。集団での活動でも疲弊せず、エネルギーを充電するための必要な場となります。
一方で内向型の人は少ない刺激でも十分な刺激として受け取ります。そのため、ゆっくりと慎重に行動し、限られた交友にエネルギーを注ぐことを好みます。逆に刺激が強すぎる環境では居心地の悪さを感じます。
内向型と外向型は生まれつきで決まる?
「内向型」と「外向型」の刺激レベルの違いについては脳の構造の違いによる影響が見つかっています。
1989年にハーバード大学で開始した研究で、発達心理学者のジェローム・ケーガン氏は4500人の生後4カ月後の赤ん坊のを光やにおいなどの外的な刺激を与えたに対して強い反応を示す「高反応グループ」と大きな反応を示さない「低反応グループ」に分類しました。
分類された赤ん坊は成長後に再度研究室に呼び出され、どのような性格になっているかの調査を受けました。その結果、高反応グループの多くは内向型に典型的な思慮深く慎重な性格に、低反応グループの多くは外向型に典型的なおおらかで自信家の性格に成長していることが分かりました。
心理学で個人の性質を気質と呼びます。ケーガン氏の研究結果は生まれつきによる気質が、成長後も人の性格と大きな関係性を持つことを示唆しています。内向型という性格は人付き合いや活発な活動が嫌いなのではなく、刺激に対して過敏な気質により生まれる強い刺激を避けようとする衝動により形成される可能性が高いのです。
内向型と外向型を決める脳の構造
それではこの生まれつきによる気質、刺激への反応の強弱はどのように決まるのでしょうか。生理学の研究がその答えを明らかにします。
食欲や性欲や恐怖という根源的な本能を司る扁桃体という器官が脳にあります。扁桃体の役割を筆者は下記の通り説明します。
扁桃体は脳内の感情スイッチの役割を担っており、外界からの刺激を受けるとそれを脳の他の部分へ伝え、神経系に指令を出す。その機能のひとつは、外界の新しいものや脅威になるものの存在(中略)を即座に感知して、瞬時に闘争-逃走反応の引き金を引くことだ。
Quiet-内向型人間の時代 4章 性格は運命づけられているのか? p130
闘争-逃走反応とは差し迫った危機的な状況で生き延びるために身体のスイッチを切り替える、種族の生存を支えてきた重要な機能です。
ケーガン氏は扁桃体の興奮のしやすさが赤ん坊により異なり、刺激に対して「高反応」と「低反応」という反応の違いを生みだしていると仮説を立てています。
扁桃体の反応が強い場合、少ない刺激に対しても危機的状況にいるような指令が神経系に出されます。その結果、緊張状態が生み出され居心地の悪さを感じるようになり、高反応のグループは強い刺激を避けるようになります。
扁桃体の機能により運命は決まってしまうのか?
次の疑問はこの扁桃体の機能により「内向型」と「外向型」という特性が完全に運命づけられてしまうのか?という点です。筆者もケーガン氏も遺伝や気質により特性と性格が100%決まるという考えを否定します。
人の性格は非常に複雑な要素が絡み合い、性格を決める要因に関する研究は完了していません。高反応か低反応かという違いも「内向型」と「外向型」という特性を決める上での要素の一つにすぎません。人の性格は先天的な気質だけでなく、生まれ育つ環境による後天的な影響も受けます。
さらに人の行動や選択は性格により完全に支配されるわけではありません。筆者も着目すべき問題点を下記の通り提案します。
生まれつきの気質は環境や自由意志とどのように影響し合うのかという問いのほうが重要なのかもしれない。気質とは、どの程度逃れられない運命なのか。
Quiet-内向型人間の時代 4章 性格は運命づけられているのか? p140
人は時には自分の性格に反して、苦手と思われる活動や立ち振る舞いに挑戦する必要があります。内向型は自身の目的を達成するためには沈黙から離れ刺激の多いコミュニケーションの場に出向く必要がありますし、外向型の方もリスクを抑え集中的な活動をするためには内向型的な慎重で孤独な振る舞いが有効となります。
自分の性向とあわないが重要な活動に、自分の意志で挑戦できる余地があるのかという問いは、生まれつきの気質にとらわれずに自身の可能性を広げる上で重要であり、本書の重要なテーマの一つです。
一方で特筆すべき点としては、人は自分の気質に沿った環境や経験を選びがちです。気質に沿った環境や経験の方がストレスが少なく快適な状況を保てるためです。
そのため後天的な要素も気質の影響を受けやすいことに注意が必要です。気付かない内に自身の性向を強化する選択が繰り返されます。外向型と内向型は共に互いの欠点を補う長所があるため、どちらかへの過度な偏りは人生の可能性を狭めかねません。
無理のない範囲で、たまには自分が慣れない新しい活動への挑戦を取り入れることも、自身の特性のバランスを保ちながら特性の長所を活かすために重要となります。
内向型寄りの自分としては社会とのつながりの場を広げるために、Twitterの開始が一つの挑戦でした。Twitter開始から一年経とうとしているので、そろそろ別のアプローチが出来たらなと考えています。
内向型と外向型はどちらが優れているのか?
内向型と外向型という性向に対し、どちらが優れているのか?というのは気になる疑問です。結論としてどちらも長年の進化の過程で選択された優れた性質で、甲乙を付けることは出来ません。それぞれ活躍できる場面や環境は異なりますが、どちらも種の生存に必要な能力をもたらします。
慎重で臆病な動物はエネルギー消費が少なく、リスクや危険を回避しやすいという長所があります。また人間的な活動では、孤独は集中力を生み出すのに必要な環境になりますので、創造性を生み出しやすいという利点があります。
逆に活発で大胆な動物は、エサがより豊富なより良い住処を見つけやすいという長所があります。また人間的な活動では、精力的な活動が可能で説得力にあふれ、チャンスに出会いモノにできる可能性が高いという利点があります。
どちらが優れているのかではなく、これらの特徴に属した振る舞いを場面に応じて使い分けることが理想となります。しかし、気質という生まれながらの特性のため、自分の性向にあわない振る舞いを続けるのは大きなストレスを生みます。
自分に取って好ましい環境は何なのかという自己理解、そしてどのような時に立ち振る舞いを変えるべきなのかという基準の整理が大事なポイントとなります。
「内向型」と「外向型」という分類の注意点
重要なポイントは「内向型」と「外向型」の二つのタイプに単純に分類できないということです。70%外向寄りといったように割合で示されますし、両方の性質を同じ程度持つ両向型の人もまれにいます。
また人の性格や思考をはじめとした人格は「内向型」と「外向型」という一つの基準のみで決まりません。多くの要素が複雑に絡み合って形成されます。内気ではない内向型の人もいますし、内気かつ外向型の人もいます。
また、内向型の人も状況に応じて外向型のように振る舞うことで自身の能力を最大化できます。
一番危険なのは性向を意識し過ぎて、自分や周囲のの可能性を狭めてしまうことです。例えば、内向型の人だからディスカッションの場は任せられないと機会を取り上げたり、外向型の人とは分かり合えないと決めつけ人間関係を切り捨ててしまったりが懸念されます。
性向はあくまで一つの傾向であり、自分の能力をより発揮して可能性を広げるためのヒントとして活用するように注意する必要があります。
読むのをオススメしたい方
理想の自分と現実の自分とのギャップに悩む内向型の人
「もっと活動的に振舞いたいけど思い通りにいかない」、「周りが求める理想通りに振舞いたいけど疲弊してしまう」、このような場合は自分の性向にあわない理想を描いている場合があります。
自分の性向にあわない理想を目指すことは自分の不向きなことにエネルギーを使うため消耗が多くなるのみでなく、本来持っている長所を捨てることにもつながります。
特に現代は外向型を理想として社会が作られています。「外向型」と聞くと、行動的で社交的で社会からの評価も高いというイメージをお持ちではないでしょうか?実際に会社の求人や評価基準、学校の通信簿では「外向型」の振る舞いが高く評価され、その真逆の慎重さや寡黙さが評価されることはありません。
そのため内向型の人は知らず知らずのうちに不向きな性向へ誘導されている危険性が高いです。
自分の性向を把握することで、自分の向き不向きや潜在的能力をより正確に整理できます。その中の一つの要素が「内向型」と「外向型」となります。自分自身の力をどのように発揮すればよいかがわかれば、人生の可能性は大きく広がります。
本書は内向型の人が力を発揮するのに何が必要で、どのような時に外向型の振る舞いをするべきなのかを整理します。後半の記事は内向型の人が力を発揮するためにどのような工夫が必要かについて本書の内容の一部を整理予定です。
外向型の人には不要な一冊か?
一方で、外向型の人には読む価値がない本かと聞かれれば、外向型の人でも読む価値が高い本だと回答します。外向型の人にとってはコミュニケーション力向上や他者理解に繋がる一冊となるためです。
なぜなら、世界の1/3-2/3の人は内向型といわれているためです。日本よりも外向型の文化というイメージがある米国でさえ約50%が内向型であるという結果が得られています(参考:Revenge of the Introvert(内向型の復讐))。
そのため、社会的な活動で内向型の人との交流は避けられません。実際周囲に、なぜそのように振舞うか動機や理由が分からない方がいるかもしれません。このコミュニケーションギャップは「外向型」と「内向型」という特性の差による可能性があります。
本書を読むことで、「外向型」と「内向型」という特性の差によるコミュニケーションギャップを乗り越え、相互理解を達成するヒントを得られます。
むしろ外向型の人の方が気づきや学びの多い一冊かもしれません!
また、本書でも外向型のリーダーが最も能力を発揮する時は、内向型のメンバーが多い時であるという研究結果が紹介されます。自身がリーダーとなった際に、チームの潜在能力と自身の特性・能力を最大限に発揮するためにも、参考となる1冊です。
後編は本書で印象に残った点と実際の行動に取り入れる上でのポイントを整理します。
それではまた次の記事で!