こんにちは!皆様いかがお過ごしでしょうか?人によっては10連休にもなるGWももう後半、リフレッシュしつつも実りのある機会としたいですよね。
私は行動の根底となる関心の輪を広げるために、複数の視点からの入門知識を学びたくて、「パフォーマンスがわかる12の理論」(鹿毛 雅治氏編、金剛出版)を読みました。
「自由からの逃走」、「フロー体験」や「内向型人間の時代」など、ブログ開始当初から取り扱いたかったテーマをまとめることができたので、次に着目するテーマを探し中です。
名著や論文を幅広く紹介する本が最近は多く出てきているので、テーマを探す上でとても便利になりました。
読書の内容や知識を行動にどう移すかというのはこのブログでも重要視しているポイントなので、パフォーマンスに関して理論をまとめた一冊を選びました。
心理学の知識がどのようにパフォーマンスにつながるのか?という疑問について学んだ点と、社会人の勉強として、自分の関心のあるテーマをみつけて、どう深堀していくのかという一例をお届けします!
今回の本
本の概要
今回は「パフォーマンスがわかる12の理論」(鹿毛 雅治氏編、金剛出版)を読みました。副題は「クリエイティブに生きるための心理学」入門!となっており、絵画や仕事の面でも活かせる内容があればという期待も込めて手に取りました。
日常生活でも何気なく使用するパフォーマンスという言葉は何を指すのか?について、そしてそのパフォーマンスについて、心理プロセスのみでなく、環境とのコミュニケーションという切り口も含めた様々な視点で考える機会を与える1冊となっています。
慶応義塾大学教職課程センター教授の鹿毛 雅治氏編集の元、パフォーマンスに関わる心理学を取り扱う著者陣がそれぞれの章を担当し、合計12の理論としてまとめあげられたのが本書になります。
鹿毛 雅治氏はモチベーションや教育心理学についての著書を多く出しており、今回の本の姉妹本にもなる「モチベーションをまなぶ12の理論」も編集されています。こちらの本も時間を見つけて読んでみたいと考えています。
今回の本の構成
理論毎で12に分かれた章同士のつながりはほとんどなく、各理論毎に独立・完結する構成となっています。12の理論と章の構成は下記の通りです。
- 「パフォーマンスの心理学」への招待:鹿毛 雅治氏
- Theory1 :成らぬは人の為さぬなりけり| モティベーション:鹿毛 雅治氏
- Theory2 :思考のパフォーマンスを高める| 思考/メタ認知:三宮 真智子氏・山口 洋介氏
- Theory3 :「両刃の剣」の使いよう| 感情:遠藤 利彦氏
- Theory4 :練習でのパフォーマンスに満足してしまうなかれ| 記憶と運動の学習理論:村山 航氏
- Theory5 :最高のパフォーマンスを発揮するために| 自己認知/意識:外山 美樹氏
- Theory6 :よりよく学ぶためのヒント| 自己調整学習:犬塚 美輪氏
- Theory7 :意識と無意識のパフォーマンス| 潜在意識:及川昌典氏
- Theory8 :ストレスとのつきあいあた| ストレスマネジメント:田上 明日香氏・鈴木伸一氏
- Theory9 :行動からパフォーマンスを考える| 行動分析学:坂上 貴之氏
- Theory10:パフォーマンスの生態学| アフォーダンス/生態学的アプローチ:野中 哲士氏
- Theory11:集団の愚かさと賢さ| コミュニケーション\協同:飛田 操氏
- Theory12:リーダーシップをどのように発揮すればよいのか| リーダーシップ:蔡 芢錫氏
- あとがき
パフォーマンスに関する心理学について、様々な視点から切り込む理論が揃っていることがわかります。
この本のお気に入りポイント
本書の読んで良いなと感じたポイントは下記2点です。
- パフォーマンスという共通のテーマについて様々な角度から考えられる
- 基本情報や根拠となる引用された論文一覧と推奨される図書の紹介が各章ごとにある
まず入門書として有難いのは、様々な切り口から一つのテーマを考えられる点です。何か新しいことを学ぼうとするとき、最初の一冊目の影響がどうしても大きくなります。
その結果一冊目の作者の結論のみで満足し、情報が偏ったまま勉強を止めてしまうことも起こります。今回の本は複数の著者による理論がまとめられているため、いろんな視点で心理学、そしてパフォーマンスについて考えることができます。
もちろん、編集者の好みや色がどうしても出てしまう点は注意が必要とは思います。
さらに、入門書という立ち位置から基本的な定義や前提となる研究から、引用した論文が非常に丁寧に紹介されています。この引用論文は自分で気になる情報を更に調べる上でとても役に立ちます。
引用論文も含めて情報を確認することで、わかっているつもりでいたけど実は理解が不足していたところを、しっかり補填することが出来ます。基礎知識を固めることは新しい分野の勉強で非常に重要です。
また、独学で勉強をする上で、一冊読んだ次に何を調べるべきかというのはよく出る悩みです。本書では各章ごとに3冊の推薦図書が紹介されているため、気になったテーマの深堀をスムーズに進めることが出来ます。
この本の注意点
今回の本は副題にもある通り、あくまで入門書扱いとなります。この一冊を読めばパフォーマンスが劇的にあがるというたぐいのものではありません。
パフォーマンスを改善したいんだけど、どのように取り組めばわからないというときに、「こんな研究成果や視点があるよ!」と視野を広げて解決のための糸口を与える一冊となります。
そして本書によって興味が湧いた切り口から、引用された論文やオススメの図書を読むことで深堀して、具体的な自分の問題の解決につなげていくというその後のアプローチが必要となる点は注意が必要です。
人により人格や置かれた環境、目指すものは異なるので、全ての人の問題を解決する絶対の答えはありません。そのため本書に限らず、読書を行動につなげようとする際は、自分に合うかという取捨選択と自分の状況や行動に置き換えるための具体化がどうしても必要となりますね。
本書で学んだ点
最も印象に残った点:感情はパフォーマンスに正負の影響を与える両刃の剣
感情にまつわる負のイメージ
「Theory 3「両刃の剣」の使いよう」で、感情はパフォーマンスに正負両方の影響を与えるという点が印象に残りました。感情が負の要素だけでないというのは知っていたのですが、感情がどのように正の影響を与え、どのように感情を使いこなすかという点については知識がありませんでした。
現代社会では「感情的」という言葉はネガティブなイメージを与えます。感情が欲望や衝動を生み、それを知性・論理がコントロールしている、だから、感情は悪で常に知性と論理で物事に取り組まなければならないというイメージをお持ちの方もいらっしゃると思います。
私もどちらかというと感情寄りの人間なので、感情を隠して知性・理性のみで動くことを目指していた時期もあります。
これまでの感情の取り扱いは、欠乏動機による衝動的な動機付けを生む一方で、学業・労働・社会活動・自己実現などの価値的活動に対しては障壁となると考えられてきました。
純粋知性のもろさ
筆者は感情を司る脳の部位を損傷してしまった人のケースを紹介して、感情を失った純粋知性のもろさと感情の必要性を主張します。
知性に関するテストやパーソナリティ・道徳判定テストで問題が無い一方で、脳の損傷により感情部分が抜け落ちてしまった方のケースが取り上げられます。失職や家族を失うという大きな負のイベントについても、彼は淡々と他人事のように語っており、まさに感情が失われた状態でした。
感情が人生に負の影響を与えるならば、彼は知性・論理のみで物事を考える純粋知性の所有者となり、感情の負の影響を受けない理想の存在となりそうです。しかし結果はそうはなりませんでした。感情を司る脳の機能が失われた人を対象にした実験では、失敗や痛みを伴って学習する機能が低下していることが示唆されました。
筆者は下記の通り総括します。
感情が人の意思決定及びその後のプランニングを援助する重みづけ信号として機能し、行為の選択肢の瞬間的な切り捨て・絞り込みに関与していることを主張するものであると理解できよう。
Theory3 :「両刃の剣」の使いよう| 感情:遠藤 利彦氏 p100-101
パフォーマンスに対して悪者とされがちな感情ですが、人が情報を処理して行動に移すためのプロセスで重要な機能を持っているのもまた事実のようです。そのため、感情を押し殺すことはパフォーマンスを上げることにつながらず、感情との上手な付き合い方を学ぶべきであることがわかります。
感情が生む正の影響
次は感情がどのように我々の判断やパフォーマンスに役立つのかを具体的に見ていきましょう。本書では下記が紹介されます。
- ネガティブな感情を伴う経験学習によるリスクの察知、危険の回避
- 社会的行動に必要な道徳的振る舞いを導く
- ポジティブな感情による心身の健康、思考や行動範囲の拡大
人は経験を通して何がリスクで、どうすれば危険を回避すればよいかを学びます。この学習に役立つのが、「苦汁」をなめるようなネガティブな感情となります。ネガティブなものも含めて感情が失われると、失敗が悪いものとして認識されないまま、いつまでも同じ過ちを繰り返す結果となります。
また人間社会で過ごす上でも感情は重要となります。人間は互恵的な生き物であり、与えられたものにはお返しをしようとしたり、助け合ったりすることで集団社会を形成してきました。
互恵性を持つ人間の集団社会では、犠牲を払い他者を助けることが時に求められます。一時でも自分に不利益をもたらす道徳的な振る舞いは、自分の利益追求という観点では非合理的であり、純粋知性では選択されない振る舞いとなります。
純粋知性とは別の、同情や義憤、共感、罪悪感という多様な感情が道徳的な振舞いの原動力となります。道徳的な振る舞いは一時的に損を生むかもしれませんが、集団社会で生きる人間には欠かせません。
互恵性が高い人間社会では、利己的で利益を独占したり他者を裏切ったりする人を排除しようとする動きが出るため、独善的な振る舞いは長期的な利益を生みません。短期的には損であっても、他人との信頼関係や互恵性を維持する道徳的な振る舞いこそが、人間社会において長期的で安定な利益をもたらすパフォーマンスを導くと考えられています。
そして、ポジティブな感情はそれ単体でパフォーマンスへ正の影響を与えることが研究されています。ただ、このポジティブな感情による影響は文化や人により結果が異なるため、注意が必要であることを筆者は補足します。
感情知性(両刃の剣)を使いこなす四肢モデル
感情知性を使いこなすための1例として四肢モデルを筆者は紹介します。
- 感情の知覚・同定:自分の感情をいかに正しく言語化・認識できるか
- 感情の促進および思考への同化:感情を問題解決や創造活動といった自分の思考や行動にどう活かすか
- 感情の理解や推論:法則や因果関係の理解
- 自他の感情の制御と管理:感情に開いた態度で、TPOに沿っていかに制御するか
その他使いこなすための名著をいくつか紹介した後、下記の通り筆者は本章を締めくくります。
私たちがこの感情知性という考え方において心しておくべきことは、(中略)まずは素直に感情に耳を傾け直感的にふるまおうとし、そこから少し時間をかけて戦略的に理性や推論を働かせるということなのかもしれない。あるいは、直面している社会的文脈や目標に対して敏感になり、そこで自然に生起してくる種々の感情を、ちょっと冷めたスタンスで、認知的な内省と組み合わせることによって、それを賢く活用する方法を経験的に学んでいくことになるのだろう。
Theory3 :「両刃の剣」の使いよう| 感情:遠藤 利彦氏 p118-119
直感的な振る舞いをどれだけ前面に出すかという違いはありますが、まずは自分の感情を素直に受け入れて認識する。そして、それに従うべきか修正するべきかを知性的に活用する方法を試行錯誤しながら学んでいく姿勢が求められると考えられます。
感情との上手い付き合い方の重要性を感じたため、筆者が紹介した本を早速読んでみようと決めました。またこちらのブログでも各書について紹介できればと思っています!
面白いと感じた点:本番のパフォーマンスを上げるための練習が必要
練習でのパフォーマンスと本番でのパフォーマンスは連動しない
また面白いと感じたのは「Theory4 :練習でのパフォーマンスに満足してしまうなかれ| 記憶と運動の学習理論」で、練習でパフォーマンスを上げることが本番のパフォーマンスを上げることに直接繋がらないという点です。
練習方法には練習でのパフォーマンスが直ぐに上がるものと、中々上がらないものがあります。複数の実験が紹介され、前者の方が練習直後では高い成績を示す一方で、一定の期間を明けてから再度データを取ると後者の方が成績が良くなっているという逆転現象が確認されています。
練習の中で上達と手応えを感じやすいので実施者にとっては前者の方が効果が高く思えますが、実際は後者の方が長期的に記憶され柔軟性も身につく練習法であることが示されます。
本番を見すえていない単調な練習に対して、「練習のための練習をするな」、「本番のための練習をしろ」とよく言われますが、心理学的な観点から裏付けられた考えであることが分かり面白かったです。
本番のパフォーマンスを上げる上げる練習方法
では実際にどのような練習方法が本番のパフォーマンスに繋がるのでしょうか?本書では具体例として下記が紹介されています。
- 分散学習:学習を一度で完結させず、忘れそうなタイミングで繰り返し復習して記憶を定着させる。
- 様々な文脈で練習する:本番を想定して条件や場面を変えて練習する。
- 過学習:出来た・覚えたと思っても追加で学習し、定着が曖昧な情報を長期記憶とする。
- テスト形式:問題を作り、解く過程で記憶を呼び起こそうとすることで記憶の定着度を高める。
- 少し遅れてまとまったFB:自分で考えて調整する余地を作る。頻回の過度なFBは考える余地を失くす。
ポイントはいずれも練習中は効果を中々実感しづらい点、そして通常の練習方法と比較して負荷が掛かる点です。そのため、その効果を信頼できなければ負荷が少なく単調な練習方法に逃げてしまいがちです。
本章の内容は直ぐに効果が実感できず大変だけど、長期的な記憶と柔軟性を定着させて本番のパフォーマンスを上げるための練習方法に取り組むべき意義を教えてくれます。なんとなくではなく、裏付けがある情報の方が信頼しやすいため、大変な練習にも取り組むモチベーションを上げてくれる章であると感じました。
学生時代に知りたかったなというのが本音ですが、まだまだこれからも勉強・練習しなくてはいけないことは山積みなので、今回学んだ内容を生かして勉強・練習方法を工夫していきたいと思います!
行動に移すためには
本書は入門書という名前の通り、知識を広げるための一冊となります。そのため、直接行動に活かすというよりは、どのようにその後の勉強に繋げるかが重要となります。
本書についてその後の勉強につなげるには二つの方向性を検討できます。
基礎知識を固める
1つは引用された論文を確認することでそれぞれの基礎知識を固めることです。
正確な情報を知るためには、まとめられた情報のみでなく実際の研究やデータに基づく一次情報を確認することが重要です。
しかし、0から論文を検索するのは門外漢からするとハードルが高いですし効率も悪いです。本書では各著者に引用されるほど一定の信頼性が見込める論文と著書のリストを入手でき、またその概要を把握してから読み始められます。
そのため、気になったテーマについて引用された部分以外のデータも含めて各テーマの基礎・前提となる大事なデータを勉強できます。今回の本については下記二種類の論文検索を組み合わせて論文検索をしました。
Google Scholar
1つ目は論文検索で有名なGoogle Scholarです。
発行年数を指定したり引用や特許のチェックを外したり検索対象を絞ると、効率よく検索できます。あとは「日本語のページ検索」を選択していると、国内の論文しか出てこないので注意が必要です。
論文記事を検索可能、検索対象が幅広いため設定で検索の絞り込みが必要
PubMed
また、生命・生物・医学系の論文であればPubMedの使用も選択肢です。
Free full textにチェックを付けると、無料で読める論文を検索できる点と、Google Scholarに比べ検索のノイズが少ない点が、使いやすい点です。
今回の本で引用された論文は歴史的なものもあるためか、無料のものも少なからず含まれています。
実際の行動へ活かすためテーマについて深堀する
2つ目は実際の行動に活かすためにテーマを深堀することです。
特に本書は入門向けであり、各章のページも限られるため、実際の行動に結びつけるためのヒントの具体性はどうしても低くなります。自分の人生にどう生かすかというヒントを得るためには、推奨された図書を手掛かりに、関心のあるテーマを深堀する必要が出てきます。
ここでのテーマの選び方は、純粋な興味や好奇心という基準もありますが、自分のパフォーマンスの中でどこを改善するべきかというのも一つの基準となります。
個人的には自己効力が致命的に足りていないと実感しているので、自己効力に関する図書を次に読む予定です。
また、今回詳細には取り上げられませんでしたが、「Theory11:集団の愚かさと賢さ| コミュニケーション\協同」、「Theory12:リーダーシップをどのように発揮すればよいのか」については、会社での仕事に直接活かしやすいポイントもありましたので気になる方は是非!
おわりに
以上、「パフォーマンスがわかる12の理論」(鹿毛 雅治氏編、金剛出版)を読んでの読書日記でした。
本書のように複数の視点からの概論や名著、論文の情報を集めた書籍は、何か新しく課題や勉強するテーマを探そうとするときに非常に便利です。
この種類の本は、どのテーマを深堀するか、次にどのように学習を進めるかを考えながら読むと、目的意識が高まると同時に読了後のアクションもスムーズになるので、より身につく読書にできます。
過去読んだ本では、「世界の経済学 50の名著 (5分でわかる50の名著シリーズ) (ディスカヴァーリベラルアーツカレッジ) (LIBERAL ARTS COLLEGE)」が気に入っています。経済学は学生時代触れていない分野であったので、横断的に知識を広げて、何を深く勉強するべきかを調べる上でとても役に立ちました。
大きなタスクが終わった後の若干燃え尽きてしまった時や、次に取り組むべき課題のネタがつきてしまった時、今回の種類の本は非常に役に立つ書籍となります。
漠然と興味がある分野に対して勉強を始めるための一歩としても時短本となるため、興味がある分野があるけど中々手を付けるきっかけが見つからない方にもオススメです!
それではまた次の記事で!