名作を読んでみるシリーズ、「風と共に去りぬ」の第三巻を読んでいきます!初回はこちら。
想い人であるアシュリの妻であるメラニーと同居しながらアトランタで暮らしていたスカーレット。南北戦争の戦火は遂にアトランタまで迫ります。
メラニーの出産という窮地も乗り越えた後、命からがら故郷<タラ>まで戻ります。しかし、そんなスカーレットを待っていたのは戦争で荒れ果てた故郷の姿と敬愛する母エレンの死でした。
終わらない逆境の連続、そんな中で<タラ>を自分で守ることを決意したところまでが第二巻でした。第三巻は逆境続きの中で懸命に抗うスカーレットの姿と、新たに迫る危機へのスカーレットの決意とその行方が注目ポイントとなります。
第三巻あらすじ(新潮文庫より引用)
命からがら故郷<タラ>農園に帰還したスカーレットだったが、母は病死し、父はショックで自失していた。残された人々を率いて、私が故郷を再建するほかない。この土地だけは誰の手にも渡さない!-しかし南部の住民には過酷な重税が課せられ、農園を売らなければならない危機の瀬戸際に。スカーレットは金策のため、自らの身をレット・バトラーに差し出す決意を固めたのだが・・・。
登場人物:今回の記事に関係する人と情報に限定(新潮文庫より引用)
- スカーレット・オハラ:本作のヒロイン。<タラ>の大農園主オハラ家の長女に生まれたが、夫を失い、遺児ウェイドとともに帰郷した。
- ジェラルド・オハラ:スカーレットの父。妻エレンの病死のために自失してしまった
- メラニー:愛称メリー。アシュリ・ウィルクスの妻で、ボーと呼ばれる子を生んだ。
- アシュリ・ウィルクス:スカーレットが想いを寄せるウィルクス家の長男。南北戦争に従軍後、<タラ>に身を寄せている。
- マミー:もとはエレンの実家に仕え、スカーレットの乳母でもあったオハラ家の使用人
- ポーク、ディルシー、プリシー:オハラ家の使用人一家
- スエレン、キャリーン:スカーレットの妹たち
- フランク・ケネディ:スエレンの婚約者
- チャールズ・ハミルトン:南北戦争で戦病死したスカーレットの第一の夫でメラニーの兄
- ピティパット・ハミルトン:チャールズとメラニーの叔母
- ウィル・ペンティーン:身寄りのない南軍復員兵で<タラ>で働く
- レット・バトラー:密輸で巨利を得る無頼漢。社交界の嫌われ者だが、不思議な魅力でスカーレットに接近する。
第三部
スカーレットは<タラ>復活のために、現状把握に努めます。<タラ>周辺の様子を見回っている際に、アシュリがいたウィルクス家の屋敷が焼け落ちていることを知ります。
ようやく立ちあがって、黒焦げになった<トウェルヴ・オークス>の廃墟をふたたび目にしたとき、スカーレットは頭を高くあげていた。その顔からは、なにかが-若さと、美と、心にひそむ優しさがきっぱりと失われていた。過ぎたことは過ぎたこと。死んだ人たちは帰らない。(中略)自分の気持ちと人生にも切りをつけたのだった。過去にもどるすべはない。前進あるのみ。
風と共に去りぬ第3巻 ミッチェル p22
思い出のある場所の変わり果てた姿に様々な想いを抱き、空腹や疲労も重なった結果、一時は庭に突っ伏してしまうスカーレット。そして立ち上がった時のスカーレットの描写が上記となります。
本作品はこれまででもスカーレットの変化と決意を示す描写があり印象的ですが、ここもその一つと考えピックアップししました。この過去ではなく、現在、そして未来への前進という部分はスカーレットと他のキャラクターとの大きな違いを生むポイントです。
貴族暮らしが長く、奴隷でさえも過去の暮らしを忘れられない状況。その郷愁から解き放たれず、前に進めない人が多く描写される中、スカーレットの未来へと進もうとする姿勢は非常に魅力的に映ります。
「(中略)恐れを知らないせいで、ずいぶん困ったことにもなったし、幸せも逃したよ。神さまは女を怖がりで臆病なものとしてお造りになったから、恐れをしらない女というのはどこか不自然なんだよ・・・スカーレット、いつでも恐れるものを持っておおき-愛するものを持つべきなのと同じだからね・・・」
風と共に去りぬ第3巻 ミッチェル p76-77
とある事情で馬を手に入れたスカーレット。遠くへの探索が可能となり、戦火を免れた邸宅を見つけます。そこに住むフォンティンの「祖母さま」がスカーレットに掛けたセリフが上記です。
スカーレットは抽象的な人生訓よりは、具体的な現状の解決策を希望したいたため、あまり響いていない様子が描かれています。
そして私も恐れるものを持つことを薦める意図がかみ砕けていないのですが、若干伏線めいた描写と感じたので後程振り返れるようにピックアップしました。
恐怖というのは、リスクを回避するブレーキとなったり、今持っているものの大切さに気付ききっかけとなったりするとは思うのですが、そのような直接的で無骨な意図ではないような気もします。
一瞬、初めて見る物のように眺めていたが、ぷっと吹きだした。安らかでどこまでもおだやかな笑い声が響いた。「こんなことを思いつくのはあなたしかいないわ」メラニーは声をあげ、スカーレットの首に抱きついてきてキスをした。「こんなおかしなお姉さんがいるのはわたしぐらいよ!」
風と共に去りぬ第3巻 ミッチェル p112
北軍が<タラ>の屋敷から物品を強奪していく際、1人の兵士が屋敷に放火します。その火をスカーレットとメラニーは必死に消化し、屋敷を何とか守った後の場面です。
屋敷以外の財産をすべて失ったと思われた状況で、スカーレットの機転で財産の一部を巧妙に隠し通していたことにメラニーが感嘆します。
苦境を乗り越えてきたスカーレットとメラニーがこれまでより一段階信頼し合える関係になったのかなと感じた箇所のためピックアップしました。
「それでも、自分が施しを受けているなんて思いも寄らないんでしょう。この先もずっとね。戦争が起きようと決して変わらないあの人たちの一員なのよ。あいかわらず何事もなかったみたいに考えたりふるまったりする-(中略)わたしはこれから一生、あなたを背負っていくことになるんでしょう。でもキャスリーンまで抱えこむのはごめんだわ」
風と共に去りぬ第3巻 ミッチェル p177
前取り上げた場面では、同志のような信頼関係が築ける予感もあった二人ですが、決して重なることのない価値観の違いが描写された場面です。
このセリフは、自分たちと同じ貴族の身分であったキャスリーンという女性が、本来結婚相手に選ぶはずもないような北部出身の貧乏な男性と結婚することを報告しに来た後のものです。
その反応はスカーレットは混乱しつつもあくまで現実主義的視点で生きていくのにやむを得ない選択肢と考えるのに対し、メラニーはそのような結婚はありえない選択肢で死んだ方が救われるとまで言い切るという違いが見られます。
未来を生きようとするスカーレットにとって、メラニーは他の人々と同じで過去のまま生きる存在として、壁を明確に感じています。多くの危機を乗り越えてきた二人ですが、メラニーにはその経験による変化は起きていないことが分かります。
わたしのアシュリ- 親愛なる人へ もうじきあなたの元へ帰ります-
スカーレットは言葉もなく、そっぽをむいた。それ以来、お客がある時にはふだんより多めに食べ物が供されるようになったことにメラニーは気づく。スカーレットの本心としては、ひと口でも惜しみたいところだろうが。
風と共に去りぬ第3巻 ミッチェル p196
南北戦争は終結しましたが、交通も今ほど発展していない当時、アシュリも含め兵士の戦地や収容所からの帰還はまだ続いていました。地元への帰路において、帰還兵は恵みを求めて<タラ>に立ち寄ります。
兵士に多くの施しをしたいというメラニーと、限られた食材を少しでも節約したいというスカーレット間で葛藤が生まれます。メラニーは兵士への施しにより、アシュリにも食事を届けている気持ちになると主張した後の描写が上記となります。
最初の一文は、アシュリから来た生存を知らせる手紙を受けてのスカーレットの反応となります。メラニーに向けられた手紙ですが、「あなた」とはスカーレットを指しているものだと受け取っており、スカーレットにアシュリへの想いという乙女心が残っていることが分かります。
その想いもあってか、スカーレットがメラニーの意向に沿って、本心に反った行動を取る場面となります。スカーレットの中のアシュリへの想いを確認できる場面で印象てきであったのでピックアップしました。
ここまでが第三部となります。ここまでで結構長くなってしまったので第四部は後編に分けます!
それではまた次の記事で!