名作を読んでみる「風と共に去りぬ」第三巻後半:読書日記

名作を読んでみるシリーズ、「風と共に去りぬ」第三巻を引き続き読んでいきます!気になる場面が多すぎて前後編に分かれてしまった後半が本記事です。初回(第一巻)はこちらで、前回(第三巻前半)はこちら

クライマックスに向けて気になる場面が更に増えていったら、何記事になるのかが少し不安な今日この頃です笑 

前置きは最低限として、早速続きを見ていきましょう!

登場人物:今回の記事に関係する人と情報に限定(新潮文庫より引用)

  • スカーレット・オハラ:本作のヒロイン。<タラ>の大農園主オハラ家の長女に生まれたが、夫を失い、遺児ウェイドとともに帰郷した。
  • ジェラルド・オハラ:スカーレットの父。妻エレンの病死のために自失してしまった
  • メラニー:愛称メリー。アシュリ・ウィルクスの妻で、ボーと呼ばれる子を生んだ。
  • アシュリ・ウィルクス:スカーレットが想いを寄せるウィルクス家の長男。南北戦争に従軍後、<タラ>に身を寄せている。
  • マミー:もとはエレンの実家に仕え、スカーレットの乳母でもあったオハラ家の使用人
  • ポーク、ディルシー、プリシー:オハラ家の使用人一家
  • スエレン、キャリーン:スカーレットの妹たち
  • フランク・ケネディ:スエレンの婚約者
  • チャールズ・ハミルトン:南北戦争で戦病死したスカーレットの第一の夫でメラニーの兄
  • ピティパット・ハミルトン:チャールズとメラニーの叔母
  • ウィル・ペンティーン:身寄りのない南軍復員兵で<タラ>で働く
  • レット・バトラー:密輸で巨利を得る無頼漢。社交界の嫌われ者だが、不思議な魅力でスカーレットに接近する。

第四部

「ああ、ウィル、終戦と同時に、うちのごたごたも済んだものばかり思っていたわ!」

「それどころか」ウィルは提灯顎の田舎臭い顔をあげ、女主人の顔をじっと見据えた。「うちのごたごたは始まったばかりです」

(中略)

「だったら」スカーレットはうろたえながら応えた。「だったら-なんとかして三百ドルつくらないとね」「そういうことです-ついでに虹と月も一つ二つ、つくりますか」

風と共に去りぬ第3巻 ミッチェル p224

新たな脅威として、<タラ>に苛酷な重税が課せられることを知る場面です。戦争さえ終われば悲劇は終わり元の生活に戻れるという希望がありましたが、その希望も断たれ、復活を目指すスカーレットに対し重い追い打ちがのしかかります。

戦争が終わっても悲劇は終わらないということを痛感する場面であり、昨今の状況を鑑みて考えさせられることが多かったのでピックアップしました。戦勝側がルールを決める権限を握り、敗戦側をとことん痛めつける。始まってしまった戦争が長引きより泥沼化する要因の一つと感じました。

追加徴税の額は三百ドル手持ち十ドルわずかの<タラ>にとっては絶望的な額。しかし用意できなければ、故郷の地<タラ>を手放さなければならないという苦境がスカーレットを襲います。


無茶な状況の打開を「虹と月を作る」とした表現は中々ユニークで気に入っています。

「経験があるからよく分かる。しかしぼくが恐れているのは飢えではないんだ。しかしぼくが恐れているのは飢えではないんだ。怖いのは、われらが古き時代が消え去り、あの長閑な美しさのない世の中に直面することだ」

(中略)

「(中略)あなたはライオンの心臓を持ち、想像力というものをみじんも持たない。ぼくはこのふたつの特質が羨ましいよ。現実に直面することを厭わず、ぼくのようにそこから逃げようとしない。」

風と共に去りぬ第3巻 ミッチェル p242-243

<タラ>を手放さなければならないかもしれないという苦境に対し、アシュリに助けを求めるスカーレット。しかし、アシュリの反応は期待からほど遠いものでした。

両者の見ている世界の違いスカーレット以外の人物から描写されているのは珍しいと感じます。現実主義で未来に向かうスカーレットと、過去の生活を忘れられず現実を受けられないその他の人々という両者には大きな壁があります。

個人的にはマズローの欲求五段階説と照らし合わせると、しっかり順序を踏んで欲求の達成を積み上げていこうとするスカーレットと、自己実現のような上層の欲求にしか関心が無いアシュリという対比とも考察出来ると感じました。

その上で「想像力というものをみじんも持たない」という点で、重要な課題に全力で取り組む上では、余計なことを考え過ぎず目の前の行動に集中することも肝心なのかなという印象も受けました。

「愛しているとも、その勇気も強情さも火のような情熱も一切容赦のないところも。どれぐらい愛しているかって?いまさっきぼくは自分と妻子を守ってくれるこの家の厚意を踏みにじり、どんな男もうらやむ最良の伴侶を忘れそうになった。つまり、それほどだ。(中略)」

スカーレットは入り乱れる考えを必死で整理しようとするうち、氷柱を刺しこまれたかのような冷たい痛みを胸に感じた。

風と共に去りぬ第3巻 ミッチェル p251

上記の続きで、名場面が続きます。アシュリの本心をどうしても確かめようとするスカーレットにアシュリが想いを打ち明ける場面です。

物語初期からスカーレットの中の大事な気持ちであったアシュリへの想いが決着した決定的な場面だと感じてピックアップしました。

アシュリの言葉自体はスカーレットが長年求めていたもののはずでした。しかし、スカーレットの反応は喜びではなく、むしろ悲しみを匂わせるものとなっています。個人的な考察としては、ここはスカーレットの中で唯一残っていた少女的な感情が終結を迎えたことが表現されていると読み取りました。

少女の頃からの届かぬ憧れという熱量からアシュリへの気持ちは続いていましたが、原動力はそこのみであり、現実から逃げる現在のアシュリへの愛情は薄れてしまっていると考えます。

そのため、自分の想いへの確認という長年求めていた結果を手に入れた今、原動力は目的とともに失われ、アシュリへの想いも消えてしまった。そして、同時にスカーレットの中の唯一残っていた少女的な想いが消えてしまうという事実が、冷たい痛みとして表現されていると読みました。


ここは皆様がどう考察しているか特に気になる箇所です。

「でも出て行く必要は無いでしょ」スカーレットはきっぱりと言った。

「わたしが一度は必死で追いかけた人だもの、家族共々ひもじいい思いをさせるわけには行かないわ。もうこんなことは二度と起こらないし」

スカーレットは踵を返すと、(中略)屋敷への道をもどりはじめた。(中略)スカーレットのそんな姿は、それまでに聞いた彼女のどんな言葉より胸にこたえた。

風と共に去りぬ第3巻 ミッチェル p254

引き続き、スカーレットとアシュリの場面です。スカーレットへの気持ちに揺らいでしまったアシュリは、同じ過ちを繰り返さないよう<タラ>を出て行くと発言しました。

そんなアシュリにスカーレットはそんなことは二度と起こらないと伝えます。ここからスカーレットもアシュリへの想いが終わっていることを自覚していることが読み取れます。

最後のアシュリの胸にこたえたものは何かというのは、隠していたスカーレットへの想いが終わったことの痛感か、目の前の問題に真っすぐ対峙しているスカーレット現実から目を逸らし続けている自分との対比によるものか、考察のしがいがありそうです。

「これからわたしに、この家に、南部全体に、どんなことがふりかかるか、この人たちはまるで分っていないんだ。いくら困ったことになろうと、そこまで酷い目に遭うわけがないと未だに思っている。(中略)

あぁ、みんなどういう物知らずなの!いつまでたっても気づかないんだわ!これまでと全く同じように考えて生きてくだろうし、なにがあろうと変わることはない。(中略)

この人たちは決して変わらない。変わることができないんだわ。変わったのはわたしだけ-わたしだって、できれば変わりたくなかった」

風と共に去りぬ第3巻 ミッチェル p284

<タラ>にかけられた莫大な税金を支払うため、大きな決断をするスカーレット。そして金策のためのアトランタに向かう前のパーティでの周りの様子を見てのスカーレットの気持ちが上記となります。

ここもスカーレットと他者の違いがスカーレット視点で描写される一文ですね。ここでは特に、「できれば変わりたくなかった」というスカーレットの本音に切なさを感じ、印象に残ったためピックアップしました。

また、変化の速い現代において、時代の流れに取り残されないように柔軟な気持ちを持たなければならないという訓示のようなものも少し感じました。

「もう嘘はやめるとして、きみが面会にきた真の目的はなんだ?わたしとしたことがきみの手管にころっと騙されて、自分は大切に思われているんだ、この人に心配されているんだと思うところだった」

「もちろん、心配しているわ!それどころかー」

「いいや、しているもんか!ヤンキーがわたしをハマンより高く吊るそうと、きみはどこ吹く風だろう。その手が、重労働の跡を隠せないように、きみの気持ちも顔にはっきりと書いてあるよ。わたしの何かを手に入れようとしているんだ。(中略)」

風と共に去りぬ第3巻 ミッチェル p350

金策のために向かったアトランタで、お目当てのレット・バトラーとの面会を果たしたシーンです。バトラーは黒人を殺した罪を疑われ、投獄されていました。スカーレットは面会の場で、バトラーとの結婚を取り付けようとしますが、重労働で荒れ果てた手により嘘がばれてしまいます。アシュリとのシーンと引き続き、第三巻は名場面が多いです。

もし手により嘘がばれなかったら、どんな展開になっていたのか?スカーレットはバトラーをお金を手に入れる手段とした利用の関係のみで終わったのかそれともまた別の何かが生まれたのかが気になる場面です。

また、スカーレットに裏切られることとなったバトラー。自由奔放に過ごしてきた彼が、この時どのような感情をいただいていたかという点も考察のし甲斐があるポイントです。激昂等がないので、どんな感情かが読み取りにくいというのもバトラーらしいなとも感じました。

「それでも言っておくよ。現時点できみにあげられるのはアドバイスぐらいしかなさそうだからね。よく聞きたまえ、有益な助言だ。男からなにかを巻きあげようと思ったら、さっきみたいにうかつな物言いは禁物だ。もっとさり気なく、もっとそそるようにしないといけない。そうすれば、もっと実りがあるだろう。昔の君はそうゆう手管を完璧に心得ていた。(中略)」

(中略)

この人ったら、自分は吊るし首になりかけているし、わたしは悲惨な目にあっているというのに、よくもまぁ、へらへらふざけられていられるわね。スカーレットは呆れてそう思ったが、レットがポケットに入れた両拳を固く握りしめていることには気づいていなかった。わが身の不甲斐なさにいらだつように。

風と共に去りぬ第3巻 ミッチェル p367-368

バトラーとの会合の終わりの場面です。両拳を握りしめる様子から、バトラーの心情を読み取るヒントがようやく得られます。この様子から、金銭目的で迫られていたことが分かっても、スカーレットへの気持ちは残っていることが伺えます。

そして、目的が純粋な愛情なのかは不明ですが、スカーレットの窮地を救いたいが、投獄され資金も動かせずどういしようもできない自分への無力感がいらだちを生んでいると読み取れます。

また、他の男との婚姻を薦めることにもつながる助言も送る点も気になりました。上記のようにバトラーのスカーレットへの想いは消えていません。それでも、自分ができる唯一の手段として、スカーレットへの想いと背反する助言を送るところは、スカーレットを何としても助けたいという気持ちの表れなのかと印象に残りました。

「だったら、わたし、どうすればいいんですの?」宙を泳いでいたスカーレットの目がフランクを見あげ、あなたならなんでもご存じでしょう、教えてください、と言わんばかりにすがりついてきた。

「うむ、すぐにお答えできませんが、なんらかの策を考えておきますよ」

「ええ、頼りにしていますわ!あなたってとても聡明な方ですものね-フランク」

風と共に去りぬ第3巻 ミッチェル p388

バトラーとの会合後、スカーレットは妹のスエレンの婚約者であるフランクと出会います。そこで、フランクが商売で成功していることを知ったスカーレットは、この機会の利用を企みます。

恵まれた境遇のスエレンへの怒りもあるものの、<タラ>のために手段を選ばぬスカーレットの決意の強さが伺える場面です。また、スカーレットはふざけていると一蹴したバトラーの助言ですが、結果的にその助言を忠実に守る結果となっているのが物語にアクセントを加えているとも感じました。

スカーレットはマミーのなかに、己にも勝る徹底した現実主義の姿を見いだしていた。(中略)スカーレットは手塩にかけたわが子同然であり、その子が欲しがるものであれば他人のものであろうと、喜んで手に入れる手助けをするつもりなのだ。

風と共に去りぬ第3巻 ミッチェル p396

スカーレットの金策のためのアトランタ遠征に同行していた使用人のマミー。金策の頼る先が妹の婚約者であるフランクであることを知りますが、そのことについて追及されずむしろ手助けをするとも言われたことに、スカーレットは安心感を得ます。

この安心感は、窮地が続く中でも心強い味方がいるという実感から湧き出ています。また「己にも勝る現実主義者」という表現から、スカーレットが自分側の人間かどうかという基準として、現実主義であることを重視していることが読み取れます。

第三巻では現実を見ているかどうかという点が、スカーレットとそれ以外の人々の違いとして様々な場面で強調されています。過去ではなく未来のために、現在の課題に真っすぐに取り組む味方がほとんど得られないスカーレットにとって、マミーが勇気をもたらす心強い存在となっていることが感じられて印象深いシーンでした。

以上が第3巻の内容でした。名場面が多く気付けば前後半に分かれてしまいました。

全5巻の物語も折り返しを過ぎました。<タラ>を守るため新たな決意をしたスカーレットその先には何が待っているのでしょうか?続きが気になります!

それではまた次の記事で!

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