フロー体験で普段の活動による楽しみと創造性を増す3/5:読書日記

引き続きフロー体験について、M・チクセントミハイ氏「フロー体験入門-楽しみと創造の心理学」(訳:大森弘氏、世界思想社)を元に整理していきます。

前回日々の生活はどのような活動によって構成されその体験を我々はどう感じているかを整理し、その中で生活で占める割合の多い仕事について深堀しました。

今回はレジャー活動というカテゴリーと他者とのコミュニケーションという切り口で日常の中のフロー体験を見ていきます。

前者ではレジャー活動が人生の質を下げないようにするには、そして趣味をより充実した活動とするにはどうすればいいかに注目しましょう。

そして後者では、人間関係を人生の質を高める要素とするにはどうすればいいかを学ぶのが目的となります。

過去記事はこちら:フロー体験の定義

賢明なレジャー時間の過ごし方

自由時間は人々に幸福をもたらすか?

前回の記事で触れた通り、人々は自由時間こそが幸福をもたらすための最大の目標として考え、自由時間を追い求めます。その結果、自分の能力を発揮する場であるはずの仕事自由の障壁という悪の存在になり、人々は仕事から逃げるようになります。

一方で自由がそのまま幸福や人生の質の向上に繋がらない点に注意が必要であると筆者は警鐘します。

一般的な前提は、自由時間を楽しむにはどんなスキルも必要ないということであり、誰でも自由時間を楽しめるということである。しかし、逆のことを示唆する証拠がある。それは自由時間は仕事よりも楽しむのが難しいということである。好きなようにしてよい余暇があっても、それを効果的に使う方法を知らないかぎり、人生の質を改善することはない。そして、それは決して自動的に身につくものではないのである。

フロー体験入門-楽しみと創造の心理学 第5章 レジャーの危険と機会 p90-91

これは自由時間を充実させる上で非常に重要な指摘であると考えます。

自由時間の充実した楽しみ方意識的に学ぶ機会はありません。学校の授業でも取り扱われませんし、自由時間の過ごし方は成長の中で無意識に身につけていくものとなります。

自由時間の過ごし方はプライベートな部分であるため、その過ごし方の是非について他者から口を出されることはあまりなく、改善は自身の気づきをきっかけとするしかありません。

これは一般的な人は自由時間を十分に活用するための準備が出来ていないことを意味すると筆者は指摘します。

この証拠はすべて、平均的な人は何もしないでいるための準備ができていないということを示す。目標がなく、交流するための相手がいないと、ほとんどの人はモチベーションと集中を失い始める。精神はとりとめがなくなり、たいてい、不安を引き起こすやっかいな問題に焦点を当てるだろう。

フロー体験入門-楽しみと創造の心理学 第5章 レジャーの危険と機会 p91

自由時間の過ごし方によっては、幸福どころか不安や無気力を生む原因とまでなってしまします。

目的のない自由時間の代償

歴史的に見てもこれほど自由で安全な時間を過ごせる時代というのは過去にありませんでした。このような環境はリラックスをもたらす一方で集中力を使わないぼんやりとした時間を増やします。このような時間の過ごし方に人々は慣れておらず、その不慣れによる不安感から手ごろで楽な娯楽への衝動が生まれる点を筆者は指摘します。

このような娯楽は心理的エネルギーをほとんど要しませんが、その一方でフロー体験を生まないため無気力やぼんやりとした不安感を生み出します。

下はレジャー活動の種類による人への心理的影響を調べた研究結果です。

本書p95 表4をもとに作成、アメリカティーンエージャー824人からの調査によるレジャー活動の種類による心理的影響の差(データ出典:Bidwell, Csikszentmihalyi, Hedges, and Schneider 1997)

この表では下記のように心理的影響が定義されます。

  • フロー:高いチャレンジ、高いスキル
  • くつろぎ:低いチャレンジ、高いスキル
  • 無気力:低いチャレンジ、低いスキル
  • 不安:高いチャンレンジ、低いスキル

ゲームとスポーツや趣味、社交などの、目標設定スキル、そして挑戦が必要な積極的なレジャーでは、挑戦があるため不安感もありますが、フローを経験しやすい傾向が読み取れます。一方で音楽鑑賞やテレビ鑑賞、考え事などの受身的なレジャーでは不安を感じにくい一方で、無気力の割合が大きくフロー体験が得られる可能性も低いことが分かります。

以上のデータより同じ時間のレジャー活動でも、目的とチャレンジのある積極的レジャーか、エネルギー消費が無い一方で目的のない受身的なレジャーかによりその心理的な影響は大きく変わることを筆者は主張します。

このレジャーの分類は「能動的娯楽」「受動的娯楽」というキーワードで樺沢 紫苑氏「精神科医が見つけた3つの幸福-最新科学から最高の人間をつくる方法」でも紹介されていましたね!

筆者はくつろぎを生む受身的なレジャーの必要性を認める一方で、その時間が適量であるかが重要である点を指摘します。

人間はフロー状態最大の心地よさを感じます。起きてる時間の20-43%を占める自由時間が、過ごし方の違いにより心地よさや生きがいを得られる時間となるか、無気力や不安を生む意義の無い時間となるかという違いは人生の質に大きな差を生み出します。

仕事とレジャー活動間の因果関係

次に筆者は仕事レジャー活動間の因果関係についても言及します。上記の受身的なレジャーが多い人の習慣は仕事におけるフロー体験の少なさ結果とも原因ともなる点を指摘します。

まず人生の大きな割合を占める仕事において、やりがいを持てず孤独な仕事をしている場合、自由時間における挑戦へのモチベーションも失われ楽で受身的なレジャーで自由時間を埋めようとすることが予想されます。

その一方で受身的なレジャーが習慣されている場合は、挑戦や創意工夫をしようとする習慣が形成されずらくなり仕事におけるフロー体験も得られにくくなります。そのためこの受身的なレジャーの習慣は人生の質が高まらない原因ともなります。

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フロー体験自我の確立スキルの成長を促しますので、自由時間においてその機会を失うことも、仕事におけるフロー体験が得られにくくなる原因となるでしょう

両者がマイナスな影響を与え続けた結果として危惧されるのが、自由がないので意義が無い仕事と、目的がないので意義がないレジャーのみで占められる人生です。このような状況では人生の意義が見いだせなくあるので人生の質の向上も見込めません。

このような状況を回避するためには、仕事とレジャーの両方に工夫と集中をつぎ込む必要があると筆者は主張します。逆に片方の活動でフロー体験を増やすことができれば、フロー体験を通して育ったスキルや挑戦へのモチベーション、心理的エネルギーをもう片方の活動へ活用することも期待できます。

また、筆者は仕事に改善の余地がない場合は下記の通り助言を送ります。

もし仕事が手の施しようがなかったら、ほかの解決法は、自由時間をすくなくともフローのための-自己と環境の潜在能力を探るための-ほんとうの機会に確実にすることである。幸運にも、世界は確かに、やってみるべき面白いことでいっぱいであry。ただ、想像力の欠如かエネルギーの欠如だけが立ちはだかっている。

フロー体験入門-楽しみと創造の心理学 第5章 レジャーの危険と機会 p108

他者とのコミュニケーションによる人生への影響

人生におけるコミュニケーションの存在感

社会環境はその文化と常識により、人々の行動や意識に大きな影響を与えます。

これは群れで協力しなければ生きていけず、他者との交流が快適さと生存のために必要な要素であったという人間の進化の過程を反映するものです。

実際に生活の中でも人とのコミュニケーションの機会に溢れ、多くの人が友人との交流の時間人生で最も幸福な時間と考えます。

本書p116 図3をもとに作成、ティーンエージャーでの体験の質の調査より。大人でも同様の傾向がみられる。(出典:Csikszentmihalyi and larson 1984)

その一方で、他者とのコミュニケーションは自分で制御できない部分が多く心理的エネルギーを多く要するため、プラスとマイナスの両方の心理的影響を人々にもたらす可能性があります。

そのため、このコミュニケーションをいかにポジティブな体験とするかを考えることは人生の質の向上に重要なポイントとなります。

フロー体験を生むコミュニケーションの条件

それではどのようなコミュニケーションが人々にポジティブな影響を与えるのでしょうか。筆者は最も望ましいフロー体験を生み出す交流の条件について、下記2点をあげます。

  • 自分の目標と他者または他者たちとの目標との間に、いくらかの調和の可能性があること
  • ほかのひとの目標に喜んで注意を注ぐこと

前者は交流の中に共通の目標が見えてきます。その目標は利己的なものではなく、交流の中での楽しみや刺激を一緒に作り上げていこうとする姿勢となります。

後者は他者の目標に共感を示し、心理的エネルギーを注ごうとする姿勢が必要となってきます。

言い換えると互いの個性を尊重した平等な関係の中で、相手の関心に興味とエネルギーを注ぎながら参加者全員の利益の達成を目指していく自発的な活動となると考えます。

このような要素を交流に取り入れることで、日々のコミュニケーションをよりポジティブな体験へと変化させることを期待できます。

友人とのコミュニケーションによる心理的影響

人は友人との活動でポジティブな体験を得やすいです。それは元々望ましい交流ができる人を友人に選び、外部からの強制なしに互いに利益を与える関係を期待できるためです。この利益には感情的・知的な刺激を通して、新しい挑戦や、姿勢や考え、価値観を発展させることが含まれます。

前提としてこの友人関係は過剰な保護や依存による強迫的な衝動によるものでないことが重要となります。強迫的な衝動による友人関係は、その関係維持が自分の意志より優先されるため、ストレスや個性の喪失、誤った自我の形成を生みます。

お互いを尊重し合う友人関係はフロー体験を長期的に生み出しポジティブな影響を与えるため、このような関係をどれだけ築けるかが人生の質を高める上で重要となります。

現代社会は変化が激しく、住む場所やコミュニティも変化が速くなったため、良好な友人関係を維持するのが難しくなってきました。現在持っている友人関係の維持、そしてあたらしい友人関係の構築に対して、十分なエネルギーと時間を注げているかが、長期的な人生の充実に欠かせない要素となるでしょう。

家族とのコミュニケーションによる心理的影響

気分の安定化

もう一つ重要な人間関係としては家族とのコミュニケーションがあげられます。生活の質に対する家族関係の影響は非常に大きく、その内容は文化や関係性により多様ですが、筆者は下記の通り一般化します。

しかし、非常に幅広い一般化をすると、一日の感情的浮き沈みにとって、家族ははずみ車(機械の速度を一定に保つ作用をする重い車)として働く。家庭にいる時の気分はめったに友人と一緒にいる時ほど元気づけられないが、一人でいるときほど低くなることもない。

フロー体験入門-楽しみと創造の心理学 第6章 人間関係と生活の質 p122

家族のコミュニケーションはマイルドな影響により、気分の安定化を期待できることが読み取れます。

理想的な家族のコミュニケーションとは?

また過去の研究により、メンバーの感情的幸福成長を支える家族は下記の相反する特質を持ち合わせている筆者は主張します。

  • 訓練自発性
  • ルール自由
  • 高い期待惜しみない愛情

この相反する要素がバランスよく組み合わさることが重要となります。それぞれが過剰になっても不足しても、悪影響が生まれます。

それぞれの要素が過剰な場合を影響を検討して下記の通り整理してみました。

筆者は特に心理的エネルギーが少ないことを重要視しています。無駄な議論や口論を回避できれば、心理的エネルギーを他の有意義な活動に割り振ることができます。このような要素をバランス良くそろえた環境で育った子供は、スキルを発達させ、チャンレンジする機会を多く手にし、フロー体験を習慣化しやすくなります。

孤独がもたらす心理的な影響、内向性と外向性の有効活用

孤独に耐える能力

人間関係の要素として最後に紹介されるのが孤独の状態です。人々は基本的に他人でいる時よりも一人でいる時により落ち込んだ気分を感じます。

これは生存のために周囲との交流が必須であった進化の過程で孤独な状況が恐怖であったことが原因と考えられます。また他者との交流により自分自身の存在と周囲の現実を共有し、自分の認識の正しさを確認することで精神的な安定性が得られます。

そのため孤独によるネガティブな影響を回避するためには、友人や家族との交流を自発的に形成していくことが大切となります。

一方で孤独がすべてが悪かというとそういうわけではない点を筆者は指摘します。孤独によりもたらされる唯一なポジティブな心理的な影響集中力です。他者との交流は外部からの言葉や周囲への注意への必要性から集中が妨害されます。

複雑で難易度の高い課題への挑戦にはこのような障害を排除した高い集中力が必要となります。そのため、難しい挑戦を通して才能を伸ばすためには、この孤独に耐える能力も重要であると筆者は主張します。

孤独を耐える能力を身に付けるには下記2点が重要であると考えます。

  • 精神の安定に必要な交流時間を確保する:自身の精神状況を気にかけ、交流時間が十分であるかに注意する。不足していれば自発的に交流時間を増やすためのアクションを起こす
  • 孤独な時間に目的意識を持つ:集中力を必要とする作業を割り当て、意義のある時間とする

内向性と外向性の有効活用

西洋哲学では人間の潜在能力を発揮として二つの方法が検討されてきました

一つ目は活動的生活として公共の場での活動で自分の存在を表現することで、ギリシャの哲人政治がその代表例となるでしょう。二つ目は瞑想的な活動として孤独な修行により世界との一体感や真理を得ることで、東洋では道教的思想もこの活動に含まれるでしょうか。

両者は対立した活動として現代社会でも前者は外向性、後者は内向性として広く理解されています。

研究では外向的な人は内向的な人よりも、より幸福でストレスが少ないという安定した証拠が示されています。これは世間的にも外向的の人の方が行動力が高くて交流も広く人生が充実しているというイメージが一般的かもしれません。

一方で筆者はこのデータの解釈について注意が必要であると主張します。外向的な人の方が同じ質の体験でもよりポジティブに解釈しがちで、内向的な人は控えめに表現する可能性があります。

そして筆者は創造的な人々における調査では、外向性か内向性かのどちらかではなく、その両方の特徴が確認されていることを指摘します。

創造性のための創作や実験、構想の時間は孤独な集中の時間がイメージされます。その一方でそのアイディアを広めたり、その元となる情報や刺激を得るためには人との交流が必要となります。

インターネットが発展して自分でできることが増えた現代であっても、何かをなし得るためには人との協力が欠かせません。そのため、どちらかではなく両方の特徴をその目的に向けて使い分けることが必要となります。

逆に自分の傾向をどちらかと決めつけ自分の活動に制限を掛けると、自分の体験の幅と人生の可能性も閉ざすこととなります。

以上、レジャー活動というカテゴリーと他者とのコミュニケーションという切り口で日常の中のフロー体験を見てきました。

次回は一連の記事の締めくくりとして、日常でフロー体験の知識をどう活かすかという実践的な内容を纏めていきます!

それではまた次の記事で!

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